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オプション満載。さらに新薬も続々と登場予定
あの手この手でやっつけろ!ホルモン療法が効かなくなった前立腺がん

監修:中井康友 大阪大学大学院医学系研究科器官制御外科学泌尿器科助教
取材・文:増山育子
発行:2012年9月
更新:2013年4月

  
中井康友さん
新薬の登場を期待しつつも、
今使える薬を大事に使っていく
ことが大切と話す
中井康友さん

ホルモン療法が効かなくなった前立腺がんでも、あきらめないで!
今はさまざまな治療法があるのだから──。

前立腺がんに有効なホルモン療法

前立腺はアンドロゲン(男性ホルモン)の影響を受ける臓器で、前立腺のがん細胞もこのアンドロゲンによって増殖する。そこでアンドロゲンの分泌や働きをブロックして、がんの増殖を抑えようというのが、ホルモン療法である。

ホルモン療法には「LH-RHアゴニスト」と呼ばれる薬剤を注射することで脳に働きかけ、精巣からアンドロゲンが分泌するのを抑える方法と、「抗アンドロゲン剤」を投与して、アンドロゲンが前立腺の細胞に働きかけるのを防ぐ方法の2つある。

「日本ではこの両者を併用するMAB療法と呼ばれる方法が多く行われており、ほとんどの患者さんで治療効果が発揮されます」と話すのは、大阪大学大学院医学系研究科器官制御外科学泌尿器科助教の中井康友さんだ。

ところが、ホルモン療法はいずれ効かなくなってしまう。そうなると、次々と薬を変えて、がん細胞を抑えていかなければならない。

「ホルモン療法の効果の持続期間には個人差がありますが、前立腺がんの悪性度を示すグリソンスコアの点数が悪い人や、PSA(前立腺特異抗原)が最初から高い値の人は早くに効かなくなる傾向があるようです。長い人は10年以上も続き、早い人では半年くらいで無効になっていきます」

なぜホルモン療法は効かなくなってしまうのだろうか。

「さまざまな原因が考えられていますが、その1つとして、アンドロゲンの受け皿であるアンドロゲンレセプターに遺伝子変異が起こり、わずかなアンドロゲンにも反応してしまうことが知られています。アンドロゲンが減少した状態でも適応するがん細胞が、どんどん増えていくわけです」

どの時点で去勢抵抗性と判断するか

はじめに行ったホルモン療法が効かなくなり、PSA値が上がってきた状態を「去勢抵抗性」と呼ぶ。ここで大切なのはどの時点で去勢抵抗性と判断するかである。

「かつては3回連続でPSA値が上昇すれば効かなくなったと判断していました。PSAは鋭敏なマーカーで、0.01の幅で検知されます。例えば0.01が0.02になり、0.03になり、0.04になったところで従来の方法では効かなくなったとされていました。しかし、これではPSA値が非常に低い値であるにも関わらず効かないと判断され、薬剤を変えることになります。そのため、今ではPSA値が最低値とくらべて2.0ng/ml以上上昇したところで効かなくなったと判断するようなりました」

アンドロゲン除去療法と交替療法

[図1 ホルモン療法開始後のPSA値の変化]
図1 ホルモン療法開始後のPSA値の変化
 
[図2 抗アンドロゲン剤交替療法の効果]
図2 抗アンドロゲン剤交替療法の効果

Suzuki et al. J Urol 2008

去勢抵抗性と判断されたら、アンドロゲン除去療法と、それに続いて交替療法と呼ばれる治療が行われる(図1)。

抗アンドロゲン剤を長期間使っていると、だんだん薬が効かなくなり、PSA値が上がってきてしまう。そこで抗アンドロゲン剤のオダイン()やカソデックス()をいったん中止すると、PSA値が下がることがある(抗アンドロゲン剤除去症候群)。これがアンドロゲン除去療法だ。

しかし、こうしたアンドロゲン除去療法によって下がったPSA値も、多くの場合、半年くらい経つと再び上昇する。そのときには別の抗アンドロゲン剤を用いる。これを交替療法という(図2)。

「薬を切り替えるタイミングは、当院の場合、PSA値が下がってまた元の値まで戻ったときとしています。臨床的にはホルモン療法が長く効いた人は別の薬に変更しても効きやすいといわれています」

オダイン=一般名フルタミド
カソデックス=一般名ビカルタミド

効かなくなってきたらタキソテールを

[図3 去勢抵抗性前立腺がんに対するドセタキセルの効果](生存率)
図3 去勢抵抗性前立腺がんに対するドセタキセルの効果(生存率)

Tannock IF, et al. N Engl J Med 351: 1502-1512, 2004

このように除去療法や交替療法を行っても、PSA値が上がってきたらどうするか。この悩ましい点を打開したのが抗がん剤のタキソテール()だ。タキソテールの有効性は海外の大規模な臨床試験で証明されている(図3)

タキソテールとプレドニゾン(日本では未発売)との併用療法と、海外で前立腺がんの治療薬として使われているノバントロン()との併用療法とが比べられた結果、全生存期間の中央値がタキソテール併用群で19.2カ月、ノバントロン群で16.3カ月と、タキソテールで生存期間が延長されることが明らかになった。

「大阪大学病院では、去勢抵抗性になったら除去療法と交替療法、それが効かなくなったら素早くタキソテールを用いた化学療法を始めます」

投与方法はタキソテールを3週毎に1回70~75㎎/㎡を点滴注射、毎日服薬するプレドニゾロン(一般名)との併用療法だ。

タキソテールの投与は基本的に外来通院で可能だが、中井さんは「副作用を考えた場合、70~75㎎の投与量は高齢患者さんには非常に負担がかかる」と指摘する。

「去勢抵抗性になってあまり時間が経っていない患者さんは全身状態が良好なのに、タキソテールによる治療で大きなダメージを受ける場合も多いのです。海外の臨床試験では減量すると効果が低下するというデータが出ているのですが、それはかなり進行している患者さんのものでした。ですので当院では、早期に使うときはタキソテールを減量できないか、適正な投与量の研究が進められています」

大阪大学病院では1サイクル3週間のうち1週目と2週目にタキソテールを25㎎投与して3週目は休むという方法が検討されており、この25㎎分割投与と標準治療の70~75㎎投与したのを比べる臨床研究が進行中だという。

「まだ最終的な結果は出ていませんが、今のところ、25㎎分割投与と70~75㎎投与とでは、生存率に差は見られない傾向があります」

患者さんにとって、同じ効果が得られるのであれば、副作用が少ない投与方法のほうがいい。今後の臨床研究の結果が期待される。

タキソテール=一般名ドセタキセル
ノバントロン=一般名ミトキサントロン(日本では前立腺がんの治療薬として承認されていない)


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