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ここ1~2年で新たな薬剤も登場!
効かなくなっても諦めなくていい前立腺がんのホルモン療法

監修:窪田吉信 横浜市立大学医学部泌尿器科学教室主任教授
取材・文:町口 充
発行:2011年12月
更新:2013年4月

  

窪田吉信さん
前立腺がんは、
ホルモン療法が 効かなくなっても
色々な 治療法があると語る
窪田吉信さん

前立腺がんに欠かせない治療であるホルモン療法。身体への負担も少ない上、ほとんどの患者さんに効果があり、重要な治療の1つとしてあげられます。しかし、このホルモン療法が効かなくなった場合、どのような治療をすればいいのか、最新情報を交えてお伝えします。

ほとんどの患者さんに有効な治療

「前立腺がんの治療のうち、最も大事な治療がホルモン療法であり、ほとんどの患者さんに効果があります。寝たきりの人がホルモン療法だけで痛みも取れてピンピンして、歩けるようになったり、体全体の骨に転移しているような人がホルモン療法で元気になられたりした例もあり、抗がん剤などでは通常みられない効果があります」

こう語るのは横浜市立大学医学部泌尿器科学教室主任教授の窪田吉信さんです。

どうしてホルモン療法が効くかというと、前立腺は男性ホルモンと密接な関係がある臓器で、がん細胞は男性ホルモンによって増殖するからです。その男性ホルモンを低下させたり、作用しないようにしたりして、がん細胞の増殖を抑えるのがホルモン療法です。

前立腺がんは、がんが前立腺の中にとどまっている早期のがん(病期A、B)から、隣接臓器にも広がった局所あるいは周囲浸潤がん(病期C)、リンパ節や骨など他臓器にまで広がった転移がん(病期D)といったように病気が進行していきますが、ホルモン療法は全身治療であるため、浸潤・転移した進行がんの第1選択の治療法となっています。

[前立腺がんの進み方]
前立腺がんの進み方

早期がんで、全身状態のよい患者さんの場合、根治を目指して手術か放射線治療が行われます。しかし、高齢であったり、手術も放射線治療も受けたくないと要望される患者さんには、早期がんであっても体への負担が極めて少ないホルモン療法が行われることがあります。

また、手術や放射線治療を選択した患者さんでも、術前、術後に補助療法としてホルモン療法を行うことがあります。

このように、すべての病期で治療の選択肢として行われるのがホルモン療法なのです。

男性ホルモンを出させなくする

[前立腺とホルモンの関係]
前立腺とホルモンの関係

出典『前立腺の病気がわかる本』(法研)、p18を基に作成

ホルモン療法の治療法はいくつかあり、多く行われているのはLH-RHアナログと呼ばれるホルモン剤(商品名ゾラデックス()、リュープリン())の注射と、飲み薬の抗男性ホルモン剤(商品名カソデックス、オダイン)の併用療法。MAB療法といってホルモン療法の主流となっています。

「LH-RH」とは黄体形成ホルモン放出ホルモンのこと。「アナログ」とは「類似物」の意味です。

本来、脳の視床下部から放出されるLH-RHは脳下垂体を刺激し、性腺刺激ホルモンである黄体形成ホルモンを分泌させます。このホルモンが精巣(睾丸)に作用して男性ホルモンの1つ、テストステロンがつくられます。

ところが、LH-RHアナログを投与すると、LH-RHの類似物として働き、脳下垂体のレセプター(鍵穴)に入り込んで、本物のLH-RHが働かなくさせます。したがって、結果的にテストステロンはつくられなくなるのです。

LH-RHアナログには1カ月製剤と3カ月製剤とがあり、1回の注射で1カ月間、あるいは3カ月間、効果が持続する薬です。さらに、6カ月に1回の投与で済む6カ月製剤もまもなく使用が認められる方向ということです。

ゾラデックス=一般名酢酸ゴセレリン
リュープリン=一般名酢酸リュープロレリン

ホルモンが働くのをブロック

[前立腺がんのMAB療法の効果(病勢進行)]

前立腺がんのMAB療法の効果(病勢進行)

(ビカルタミドとLH-RHアナログ併用の国内第3相試験における全症例の解析)
対象:未治療の病期CまたはDの進行前立腺がん患者
追跡期間:中央値 127週以上

Akaza, H., et al.:Proc. ASCO, Abs. 4648, 2005

抗男性ホルモン剤は1日1回服用します。

LH-RHアナログは脳に働いて、ホルモンの放出をブロックしますが、抗男性ホルモン剤は、前立腺がん細胞にある男性ホルモンのレセプターをブロックして、男性ホルモン(テストステロン)が働くのをブロックします。

男性ホルモンの95パーセントは精巣でつくられますが、残り5パーセントは副腎でつくられ、前立腺に供給されています。精巣由来とともに副腎由来の男性ホルモンも働かないようにするのが、抗男性ホルモン剤の作用です。

「それに、L-HRHアナログは、治療開始直後に一時的ですが、男性ホルモンが増える時期があります。しばらくすると、治療が効いてきて男性ホルモン値も低下するのですが、男性ホルモン値が少し上がることで前立腺がんを一時的に悪化させることがあるため、通常は抗男性ホルモン剤をまず始めて、そのあとLH-RHアナログの注射を始めます」と窪田さん。

ほかのホルモン療法としては、精巣を手術で取る、つまり去勢手術があり、かつてはホルモン療法の中心でしたが、今はあまり行われていません。高齢者とか、病院に通いきれないという患者さんは、この方法を選択する場合があります。

女性ホルモン剤を投与することによって男性ホルモンの生成を抑制する治療法もあります。しかし、アメリカではこの治療法によって心臓の機能が悪くなったり、動脈硬化が進んだりしたとの報告があり、これも最近ではあまり行われていません。

ホルモン低下の副作用は?

LH-RHアナログの利点は、治療をやめるとまた男性ホルモンの生成が復活してくることです。この点が、1度取ってしまうともうもとには戻らない精巣摘除手術と違うところです。

「ただし、男性ホルモン値が低下することによって、体に変化が起こってきます。1つは骨が弱くなって骨粗鬆症が起こりやすくなります。筋力の低下も進みます。また、みなさん若干太り気味になり、顔面が紅潮したり、女性の更年期に似たような症状が出てきたりすることがあります。

ですから、できるだけ骨量減少や筋力低下を起こさないように、ウォーキングとか適度の運動が勧められますし、ひどい人には骨粗鬆症の薬を飲んでもらうこともあります。ゾメタ()というビスホスホネート製剤は、骨粗鬆症だけでなく、がんを抑える効果もあり、使われることがあります」

ゾメタ= 一般名ゾレドロン酸


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