ホルモン療法は前立腺がんの中心的な治療法
MAB療法は治療効果が高く、前立腺がんの進行を遅らせる
帝京大学医学部
泌尿器科学主任教授の
堀江重郎さん
わが国における前立腺がんの治療は、限局がん、浸潤がんにおいては、ホルモン療法が中心になっています。
前立腺がんにホルモン療法が効くのは、前立腺がんの増殖に男性ホルモンが深く関わっているためです。
では、ホルモン療法とはどのような治療法なのかご紹介します。
ほりえ しげお
帝京大学医学部泌尿器科学主任教授。1960年生まれ。85年東京大学医学部卒、同助手。88~91年米国テキサス大学で腎臓学の研究およびパークランド病院で腎移植、泌尿器科臨床に従事。95年国立がん研究センター中央病院、98年東京大学医学部講師。02年杏林大学医学部助教授。03年から現職。日本泌尿器科学会指導医。日本癌治療認定医機構暫定教育医。日本腎臓学会指導医。泌尿器腹腔鏡技術認定医。日本泌尿器学会評議員。日本癌治療学会評議員
日本ではホルモン療法を受けている人が多い
前立腺がんは、進行の度合いによって、「限局がん」「局所浸潤がん」「周囲浸潤がん」「転移がん」に分けられます。
限局がんは、がんが前立腺の中にとどまっている場合で、ステージAあるいはBと呼ばれます。局所浸潤がんは、前立腺を包んでいる皮膜からがんが外に出ているが、前立腺のすぐ近くにある場合。ステージCになります。周囲浸潤がんは、前立腺の周囲にまで浸潤が広がった場合で、ステージC。
転移がんは、リンパ節や骨など、前立腺から離れた部位にまでがんが移った場合で、ステージDになります。
前立腺がんの治療は、進行度を考慮しながら、適切な方法が選択されます。
限局がんなら、局所療法である手術療法や放射線治療が可能です。ホルモン療法や、それを組み合わせた治療も行われています。
局所浸潤がんは、ホルモン療法と放射線治療の併用が中心になります。周囲浸潤がんや転移がんは、全身を対象にした治療が必要になるため、ホルモン療法が中心になります。
図1は、日本の前立腺がんの患者が、どのような治療を受けているかを、全国レベルで調査したものです。対象はステージA~Cの前立腺がんです。
グラフの「T1c」は、針生検により確認される腫瘍で、ステージAです。「T2a」は、前立腺の片葉に浸潤した限局がんで、ステージB。「T2b」は、前立腺の両葉に浸潤した限局がんで、やはりステージBです。「T3a」は皮膜外へ進展する腫瘍で、ステージC。「T3b」は精嚢に浸潤する腫瘍で、やはりステージCです。
グラフを見てわかるように、わが国における前立腺がんの治療は、ホルモン療法が中心になっています。浸潤がんのステージCはもちろん、ステージAやBの限局がんでも、ホルモン療法が中心なのです。
男性ホルモンの分泌と働きを抑える
前立腺がんにホルモン療法が効くのは、前立腺がんの増殖に男性ホルモンが深く関わっているためです。どのようなホルモンが関係しているのかを、説明しておきましょう。
図2は、前立腺がん細胞の増殖を促す男性ホルモンが、どのようにして分泌されるかを示しています。
まず、脳の視床下部という部分から、LH-RH(性腺刺激ホルモン放出ホルモン)というホルモンが分泌されます。これが、脳の下のほうにある下垂体に作用し、下垂体からLH(黄体化ホルモン)を出します。これが精巣に機能することで、精巣から男性ホルモンのテストステロンが分泌されます。
もう1つのルートがあります。視床下部からCRH(副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン)が出て、その作用で下垂体からACTH(副腎皮質刺激ホルモン)が分泌されます。これが副腎に働いて、男性ホルモンの副腎性テストステロンが分泌されるのです。
体の中の男性ホルモンの95パーセントは精巣から分泌されたものですが、副腎から分泌されたものも5パーセントほどあります。そして、これらの男性ホルモンが、前立腺がんの増殖を促進するのです。
男性ホルモンは、そもそも前立腺が成長して大きくなるのに必要なホルモンです。ただし、それには、男性ホルモンだけでなく、前立腺分化タンパクも欠かせません。前立腺分化タンパクとは、前立腺を前立腺らしくするために必要なタンパクです。
男性ホルモンがあり、前立腺分化タンパクがあれば、前立腺の細胞になります。しかし、男性ホルモンがあって、前立腺分化タンパクがないと、がん細胞になっていくことが最近の研究で明らかになっています。
男性ホルモンは前立腺の中の固有のタンパクと協同して前立腺らしさを保ちます。その固有のタンパクがなくなると、男性ホルモンはもっぱら増殖に働くことになるのです。
前立腺がんに対するホルモン療法は、男性ホルモンの働きを抑えて、前立腺がんの増殖を抑える全身的な治療法です。体への負担が比較的軽く、90パーセント以上の人に有効だという特徴を持っています。
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