「前立腺がん市民フォーラム」
パネルディスカッション「進行がんでも、希望に生きる」再録
進行・再発しても、10年、20年の長期生存を目指して生きよう
総合司会をした
筑波大学大学院
人間総合科学研究科教授の
赤座英之さん
運悪く前立腺がんが進行したり再発しても、あきらめる必要は全然ありません。ホルモン療法をはじめとして、治療法はいろいろあります。
そのあたりの希望につながる話を「前立腺がん市民フォーラム」(主催 エビデンス社)のパネルディスカッションの中から再録してみましょう。
あかざ ひでゆき
筑波大学大学院人間総合科学研究科教授。1946年生まれ。73年東京大学医学部卒業。泌尿器科教室入局。74年同科助手。その後、三井記念病院、都立豊島病院などを経て、82年米国テネシー大学泌尿器科客員助教授、86年東京大学医学部講師、90年筑波大学臨床医学系泌尿器科助教授、97年から同科教授で、現在に至る。日本癌治療学会理事、日本泌尿器科学会理事、日本がん治療認定医機構暫定教育医、第44回日本癌治療学会総会会長、第13回中山恒明賞受賞
前立腺がん患者の8割が早期がん
赤座 ずっと以前は前立腺がんは発見された段階で、多くの患者さんがすでに進行がんになっていました。しかしPSA(前立腺特異抗原)という腫瘍マーカーの普及にともなって現在では、がんが見つかった患者さんの8割までが早期がんで占められるに至っています。
とはいえ手術や放射線などの根治治療の後に病気が再発するケースもあれば、また、当然ながら発見時点ですでにがんが進行段階に入っている患者さんもおられます。さらにこのがん特有のホルモン療法を受けておられたものの、がんが内分泌療法抵抗期に入って病気が再燃することもある。
ここでは、そうした進行、再燃前立腺がんに的を絞ってこのフォーラムの参加者からの質問に答える形で帝京大学の堀江先生、札幌医科大学の塚本先生とともに話し合っていきたいと思います。 このディスカッションでは患者代表として、このがんをうまくコントロールされている三谷さんにもご参加いただいています。三谷さん、まず、これまでの病気の経緯、現在の状況などについてお聞かせいただけませんか。
三谷 前立腺がんが見つかったのは5年前のことでした。さらにその5年前から定期検診などでPSAに異常が現われており、針生検を受けていたのですが、がんは見つかりませんでした。それが6年目にがんが発見されたときには病期はすでにD1期に入っており、主治医からはあなたのがんは治らないと宣告されました。
手術はできないし、放射線治療も抗がん剤による化学療法も適用されないといわれ、ホルモン療法で症状を抑えようということになりました。
間欠的ホルモン療法で
自分の考えで間欠的ホルモン療法をしていると
語った三谷さん
三谷 私の場合はホルモン療法といっても、ずっと治療を継続するのではなく、PSAが上がってきたら治療を行い、下がったら中断するという間欠的療法を取り入れており、これまで3回治療を行っています。幸い、私の場合はこの治療がたいへん効果があったようで、現在に至るまで症状はとても安定しています。
赤座 ホルモン療法以外にも、治療のためになさっておられることはあるのですか。
三谷 そうですね。私はがんを抑えるには免疫力を高めなくてはならないと考え、そのために生活全般に配慮をしています。
たとえば食事は玄米菜食に切り替え、がんを促進するといわれる肉類などの動物性タンパク質は一切摂っていません。逆に体にいいといわれる海藻類、大豆などはたくさん摂るようにしています。
食生活以外でも体力をつけるためによく歩いているし、時にはゴルフや山歩きも楽しんでいます。もちろん休養も十分です。また体を温めることも大切だと考え、体温が36度以下にならないように毎日、朝晩の2回ずつ20~30分の半身浴を習慣づけており、自律神経のバランスを整えるといわれる爪もみやびわの葉温灸なども続けています。
さらにもっとも重要だと思っているのが心の健康を維持することです。それでよく笑うことを心がけ、気持ちが悲観的にならないように、ものごとを明るく見るように務めています。
治療に加えて、日々の生活改善の効果があったのでしょう。それまでの私はすぐに風邪をひくなど、あまりからだが強くなかったのが、がんになってからの5年間というものは風邪ひとつひいたことがありません。
がんになって逆に元気になったといってもいいでしょう(笑)。ともあれ、いまは心身ともに快調で、今後にも希望の持てる状態が続いています。
PSAをめぐって
前立腺がんの早期発見について
赤座 素晴らしいですね。三谷さんには後ほどまたお話に加わっていただくとして、そろそろ質問に移りたいと思います。もっとも、ここですべての質問にお答えすることはできないので、代表的なものをいくつかピックアップさせていただきます。
まず84歳のS・Fさんからのご質問で、ある新聞記事で前立腺がんのマーカーであるPSA検査に対して、厚生労働省の研究班が否定的な見解を出している。厚労省は前立腺がんの早期発見をどう考えているのだろうか、とたずねられています。この点についてまず堀江先生、お願いします。
一般の人にもわかりやすく語りかけた堀江さん
堀江 たしかにいくつかの新聞でそうした報道が行われていましたが、少々誤解があるようですね。あの記事が伝えていたのはPSAそのものに意味がないということではありません。 厚生労働省では多くの学識経験者によるいくつもの研究会がつくられていますが、そのなかには、より効果的で効率的な健康診断のあり方について検討しているところもあります。その研究会が国民の税金を使って行う市町村単位の健康診断(対策型検診)でPSAを扱うことが妥当かどうか疑問を投げかけているんですね。それがどこでどう間違ったのか、一部ではPSA検診が有効かどうか、という疑問に置き換えられている。
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