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使える武器は増えている! より効果的な薬剤選択を
より戦略的に、より効果的に。個別化治療が進む肺がんの化学療法

監修:秋田弘俊 北海道大学大学院医学研究科腫瘍内科学分野教授
取材・文:「がんサポート」編集部
発行:2011年11月
更新:2013年7月

  
秋田弘俊さん 治療の選択肢が増えた分、患者と医療者とのコミュニケーションが
重要だと話す
秋田弘俊さん

遺伝子変異や組織型により、個別化治療が進んでいる肺がんの化学療法。より戦略的に、より効果的な治療を受けるために――。
今1度、肺がんの化学療法についておさらいしよう。

転移したがんの治療には化学療法が必要になる

肺がんが肺にとどまっていれば、治癒を目的とした手術が行われる。

病期でいうと、主に1期と2期がこれに該当する。3期になると、多くは化学療法と放射線療法の併用が行われる。遠くの臓器(脳、骨、肺、肝臓などのことが多い)やリンパ節に転移している4期では、化学療法が行われる。

では、手術が可能な人はどのくらいいるのだろうか。北海道大学大学院医学研究科腫瘍内科学分野教授の秋田弘俊さんは、次のように語っている。

「施設にもよりますが、肺がんと診断された時点で、すでに4期という患者さんが、6~7割はいると思います。そういう意味でも、肺がん治療における化学療法は重要だといえます」

肺がんは、がん組織のタイプにより、小細胞がん、腺がん、扁平上皮がん、大細胞がんなどの種類に分けられ、治療方法は、小細胞肺がんと、それ以外の非小細胞肺がんで大きく異なっている。

ここでは、肺がんの9割近くを占める非小細胞肺がんの化学療法について解説する。

治療方針の決定に必要なEGFR遺伝子変異検査

[非小細胞肺がんに対するゲフィチニブの効果](EGFR遺伝子変異別)
非小細胞肺がんに対するゲフィチニブの効果

化学療法が必要な3~4期の非小細胞肺がんの場合、最初に行われる検査は、EGFR(上皮成長因子受容体)と呼ばれるリン酸化酵素を司っている遺伝子が、変異しているかどうかを調べる検査だという。この検査は、イレッサ()のようなタイプの分子標的薬が効きやすいかどうかを調べるために行われる。

「EGFR遺伝子変異検査が陽性の場合、患者さんの全身状態にもよりますが、1次治療の選択肢にイレッサが入ります。陰性の患者さんには、イレッサは使われません」

治療の選択には、PS(パフォーマンス・ステータス)と呼ばれる、患者さんの全身状態を示す指標も重要になる。

PSは軽いほうから0~4の5段階に分けられ、EGFR遺伝子変異の有無、さらにはPSによって、選択できる治療法も変わってくる。

イレッサ=一般名ゲフィチニブ

EGFR遺伝子変異陽性で治療の選択肢が増

[PSによる全身状態の評価]

PS0 無症状
PS1 軽度の症状。歩行、軽労働、座業ができる
PS2 歩行や身の周りのことはできるが、時に少し介助が必要。
日中の半分以上起居
PS3 身の周りのことはある程度できるが、しばしば介助が必要。
日中の半分以上就床
PS4 身の周りのこともできず、終日就床

まず、EGFR遺伝子変異検査の結果が陽性だった場合。全身状態が比較的良い、PS0~2であれば、推奨されるのは、イレッサによる治療か、あるいは複数の抗がん剤の併用療法(詳しくは後述)である。1次治療でイレッサを使った場合には、それが効かなくなったときに、2次治療として抗がん剤の併用療法となる。それとは逆に、1次治療で抗がん剤併用療法を行い、2次治療でイレッサを使ってもいい。

「現在のところ、イレッサと抗がん剤、先にどちらを使っても、生存期間に差はないとされています」

全身状態が良くない、PS3~4の場合、イレッサも選択肢の1つだが、強く推奨されているわけではない。ガイドラインの表現は、「ゲフィチニブ(イレッサ)の投与を考慮するが、PS不良は間質性肺障害発症の危険因子であり、リスクとベネフィットについて十分な検討が必要である」となっている。

イレッサを使わない場合、このような全身状態では抗がん剤も使えないので、緩和治療が行われる。

プラチナ製剤との併用が抗がん剤治療の基本

[非小細胞肺がんの治療の流れ](PSが0~2の場合)
非小細胞肺がんの治療の流れ

[抗がん剤併用療法とは](*)
抗がん剤併用療法とは

EGFR遺伝子変異検査の結果が陰性で、全身状態が比較的良い、PS0~2であれば、抗がん剤の併用療法が行われる。EGFR遺伝子変異陽性で、イレッサを使わない場合と同じである。

標準的な治療は、ブリプラチン()、パラプラチン()など、プラチナ製剤と呼ばれる抗がん剤と、最近15年ほどで開発された第3世代抗がん剤の併用である。

第3世代抗がん剤には、タキソール()、ジェムザール()、ナベルビン()、トポテシン/カンプト()、タキソテール()、TS-1()などがある。

これらの組み合わせ、たとえば〈ブリプラチン+ジェムザール〉あるいは〈パラプラチン+タキソール〉といった形の併用療法が行われている。

また、PS3~4といった全身状態が良くない場合は、抗がん剤の適応とならないため、緩和治療が行われる。

ブリプラチン=一般名シスプラチン
パラプラチン=一般名カルボプラチン
タキソール=一般名パクリタキセル
ジェムザール=一般名ゲムシタビン
ナベルビン=一般名ビノレルビン
トポテシン/カンプト=一般名イリノテカン
タキソテール=一般名ドセタキセル
TS-1=一般名テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム

非扁平上皮がんならアリムタとの併用

個別化治療が進んでいる肺がん治療。遺伝子変異の有無以外にも、組織型による治療選択も始まっている。具体的には、扁平上皮がんと非扁平上皮がん(腺がん、大細胞がん)で、異なる治療が推奨されているのだ。扁平上皮がんで使われるのは、前述した抗がん剤併用療法だが、非扁平上皮がんには、ブリプラチン+アリムタ()併用療法が推奨されている。

「ブリプラチンとアリムタの併用療法と、ブリプラチンとジェムザール併用療法を比較する臨床試験が行われ、その結果、非扁平上皮がんではアリムタ併用療法の生存期間が長く、扁平上皮がんではジェムザール併用療法の生存期間が長いという結果が出ているのです」

この試験結果により、非扁平上皮がんの場合には、アリムタ+プラチナ製剤の併用療法が行われている。

アリムタ=一般名ペメトレキセド


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