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体重減少・食欲改善の切り札、今年いよいよ国内承認か がん悪液質初の治療薬として期待高まるアナモレリン

監修●古瀬純司 杏林大学医学部付属病院腫瘍内科教授/がんセンターセンター長
取材・文●半沢裕子
発行:2019年3月
更新:2019年3月

  

「第Ⅲ相試験でいちばん厳しいと思われた膵がん患者さんの成績がよかったので、肺がんだけでなく消化器がんにも試してみる価値がある」と語る古瀬純司さん

進行したがん患者に多く見られる悪液質は、患者のQOL(生活の質)を著しく低下させるにもかかわらず、長い間効果的な治療法を見出せなかった。しかし、初の治療薬アナモレリンが国内で実施された第Ⅱ相臨床試験で、非小細胞肺がん患者の悪液質に対する有効性が確認されたのに続き、大腸がん、胃がん、膵がん患者を対象とする第Ⅲ相臨床試験でも同様の結果が得られたとして、2018年11月アナモレリンの国内製造販売承認の申請を行った。

アナモレリンとはどんな薬で、どのような患者に対して効果が期待できるのか、杏林大学医学部付属病院腫瘍内科教授の古瀬純司さんに話を伺った。

主に国内で行った2つの臨床試験に基づき承認申請

今回、アナモレリン(アナモレリン塩酸塩)のがん悪液質に対する効能・効果により小野薬品工業(株)が国内製造販売承認申請したのは、主に国内で行った2つの臨床試験の結果に基づいている。

1つは➀非小細胞がんの患者に対し、アナモレリン群とプラセボ群を比較した多施設共同二重盲検無作為化平行群間比較第Ⅱ相臨床試験(ONO-7643-04試験)、もう1つは➁大腸がん、胃がん、膵がんの患者を対象にした多施設共同非盲検非対照第Ⅲ相臨床試験(ONO-7643-05試験)だ。

2018年7月に開催された第16回日本臨床腫瘍学会学術集会において、➁について発表を行った杏林大学医学部付属病院腫瘍内科教授の古瀬純司さんは、今回の承認申請について次のように語る。

「アナモレリンは非小細胞肺がんでいい結果が出ていました。そこで、がん種の中でも最も食欲減退につながりやすい消化器がんでも同様の効果が認められれば、がん患者さんに幅広く使える薬になるのではないかという期待があり、臨床試験を行いました。結果的に肺がんと同じような効果が得られたことから、肺がんだけでなく消化器がんにも有用性があるという結論を出すことができました」

ようやく機序が解明されてきた悪液質

悪液質(Cachexia:カヘキシー)は栄養不良によって衰弱した状態を表す言葉で、がんに限らず、さまざまな病気が進行したときに現れることが古くから知られてきた。しかし、病態が複雑で、機序の解明も近年までほとんど進まなかったため2007年、欧米で専門家によるコンセンサス会議が開かれた。

そして2011年初頭には、悪液質の中でもがん悪液質に対するEPCRC(欧州緩和ケア共同研究)ガイドラインが発行され、「がん悪液質とは、従来の栄養サポートで改善することは困難で、進行性の機能障害をもたらし、(脂肪組織の減少の有無にかかわらず)著しい筋組織の減少を特徴とする複合的な代謝障害症候群である」と定義されている(日本緩和ケア医療学会『終末期がん患者の輸液療法に関するガイドライン2013年版』)。

簡単に言うと一種の栄養障害だが、食欲減退などで食べられなくなるだけでなく、代謝の異常もあって、通常の栄養サポートを行っても改善がむずかしく、次第に全身状態が悪くなる状態をいう。その機序は、最近の研究で少しずつ解明が進み、今日では、がん―宿主間の相互反応による炎症性サイトカインの活性化が主な原因と考えられるようになっている。

炎症性サイトカインが活性化することにより、発熱、食欲不振、体重減少などの全身炎症が引き起こされ、さまざまな代謝異常が起きる。

骨格筋の分解が進んで筋肉が落ち、インスリン抵抗性により糖尿病が起きやすくなり、脂質分解が進んで脂肪も減る。骨では破骨細胞が活性化して骨転移が進み、骨髄では貧血等が起きる。これらの結果、深刻な栄養不良状態が引き起こされる。

実際に、中程度以上の食欲不振はがん患者の半数以上に、また、体重減少も30~80%に認められると報告されている(図1)。

図1 がん悪液質の要因

出典:「がんサポーティブケア」がん悪液質:機序と治療の進歩より

重症化させないことが大切だが

今日、先のEPCRCガイドラインに記載された診断基準が、日本でもがん悪液質の診断基準となりつつあるが、それによるとがん悪液質には3つの段階がある。

「前悪液質」は体重の減少が5%以下で食欲不振と代謝異常を伴う段階。「悪液質」は【1】体重減少が5%以上、または【2】体重減少が2%より大きくBMI(ボディ・マス・インデックス)が20%未満、または【3】体重減少が2%より大きくサルコペニア(骨格筋量の減少、骨格筋力の低下)を伴う状態で、経口摂取が不良であり全身炎症が見られる段階。

そして、「難治性悪液質」はさまざまな症状や異化状態が現れ、治療が効果を現しにくく、全身状態(PS)が不良になり、生命予後も3カ月未満という状態になる。

一般的に前悪液質~悪液質までの段階は可逆的(治療により状態を戻せる可能性がある)とされているが、難治性悪液質まで進むと不可逆的になる(治療がむずかしく状態を戻せる可能性が低い)とされている(図2)。

図2 EPCRCによるがん悪液質の診断基準

出典:Fearon K, et al. Lancet Oncol. 2011;12:489-495 改訂

そうなると倦怠感が強くなり、筋肉も落ちて動けなくなる。がん悪液質はできるだけ早い段階から治療を開始し、重症化しないようにするのが大切なのだ。しかしながら、これまでは有効な治療薬がなかった。

異化=外界から取り込んだ食物を分解してより単純な化合物に変え、エネルギーを取り出す過程。生体内にある有機化合物が無機化合物に分解される過程も異化と呼ばれる

初のがん悪液質治療薬アナモレリンが登場

そんな中、2015年の日本肺癌学会学術集会で発表されたのが、非小細胞肺がんに伴う悪液質に対するアナモレリンの第Ⅱ相臨床試験(ONO-7643)の結果だった。

アナモレリンは主に胃から産生される生体内ペプチドホルモンのグレリンに似た構造を持つ物質。その作用はさまざまだが、グレリンがその受容体に結合すると、体重、筋肉量、食欲および代謝を調節する複数の経路を刺激するという。

例えば、脳の下垂体(かすいたい)中枢や食欲中枢に作用して食欲を増進させ、成長ホルモンの産生、タンパク合成の促進、筋肉量の増加などを促すと考えられている。別名「空腹ホルモン」と呼ばれるのはこのためだ(図3)。

図3 アナモレリンの働く仕組み

そこで、食欲不振の患者にアナモレリンを投与し、グレリン様作用により食欲を増進させ、体重や骨格筋体重、筋力の増加、そしてQOLの改善に効果が得られるかを検証する臨床試験が行われた。

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