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腫瘍縮小効果が見られる患者さんも!
注目される新しい治療戦略 進行非小細胞肺がんにおける維持療法の効果

監修:青江啓介 山口宇部医療センター第2腫瘍内科医長
取材・文:「がんサポート」編集部
発行:2011年11月
更新:2019年7月

  
青江啓介さん 肺がんの維持療法に
積極的に取り組む
青江啓介さん

喫煙と比較的関与が少ないとされる腺がんが急増している。
問題は、肺がんと診断された患者の40パーセント近くが手術不能の進行がんであること。
これら進行がんに対して、維持療法と呼ばれる、初回治療後に休息期間を設けずに抗がん剤を継続投与する新しい治療戦略が注目されている。

新規肺がん患者の40パーセントが進行がん

肺がんによる死亡者数が増加を続けています。2007年の日本におけるがん死亡者数33万6468人のうち、肺がんによる死亡者数は6万5608人。男女別にみると、男性では1990年代、女性では2000年代に、いずれもそれまでトップであった胃がんを抜いて、死因の第1位となっています。

山口宇部医療センター第2腫瘍内科医長の青江啓介さんは、最近の肺がんの患者動向として、「喫煙と比較的関与が少ないとされる腺がんが増加していることと、高齢者の占める割合が急速に増加していることが特徴」と話しています。

この背景には、人口の高齢化と、心臓病など他疾患による死亡者数が診断・治療の進歩により減少しており、加齢にともない、がんを発症する人の割合が増えていることが挙げられます。もう1つの特徴は、新規に肺がんが発見された患者さんの40パーセント近くが手術不能の進行がんであることです。

肺がんは、組織分類により、大きく小細胞肺がんと非小細胞肺がんに分けられ、後者の非小細胞肺がんはさらに腺がん、扁平上皮がん、大細胞がんに分けられます。肺がん症例数の割合をこの組織分類に当てはめると、非小細胞肺がんが肺がん全体の85パーセントを占め、このうち腺がんの頻度が最も高く(全体の約半数)、次いで扁平上皮がん(約30パーセント)、大細胞がん(約10パーセント)となっています。小細胞肺がんは全体の約15パーセント程度です。

肺がんの組織型、病期分類と治療法の選択

肺がんの治療法は、小細胞がんと非小細胞がんで異なります。小細胞がんは、抗がん剤や放射線に感受性が高いので、抗がん剤による化学療法、放射線療法が、一方、非小細胞がんは、外科的手術療法、放射線療法、化学療法、症状緩和療法が考慮されます。

治療においてもう1つ重要なことは、がんの病期(がんがどこまで進行しているか)を明らかにすることです。病期は、原発巣(初めて発生した部位)、肺内外のリンパ節転移の有無、肺以外の臓器への転移の有無などにより分類され、どの治療法を用いるかが異なってきます。

「進行がん」は、「手術不能3期(3B)と4期」であり、化学療法や放射線療法、症状緩和療法の適応となります。

患者さんが治療を受けるに当たって、青江さんは「治療に耐えられるだけの体力、内臓機能が必要です。ただし、最終的には本人やご家族の考え方を尊重することが非常に大切です」と、あくまでも患者さんやご家族の意思決定に重点を置く立場をとっています。また、化学療法については、「目的は、治癒ではなく生存期間の延長、あるいはQOL(生活の質)の改善を図ることであり、患者さんがなるべく普通に生活しながら病気と付き合っていくことにあります」と語っています。

進行非小細胞肺がんに対しては、シスプラチン()、カルボプラチン()などの白金製剤が最も多く使用されています。また他にもタキソール()やジェムザール()、さらに最近では、悪性胸膜中皮腫、切除不能な進行・再発の非小細胞肺がんに効果を発揮し、副作用が少ないアリムタ()なども使用されています。

シスプラチン=商品名ブリプラチン/ランダ
カルボプラチン=商品名パラプラチン
タキソール=一般名パクリタキセル
ジェムザール=一般名ゲムシタビン
アリムタ=一般名ペメトレキセド

注目される新しい治療戦略「維持療法」

[図1 ぺメトレキセドによる維持療法]
図1 ぺメトレキセドによる維持療法

従来は、初回治療として複数の抗がん剤の併用療法を4~6サイクル行い、観察休息期間を設け、病勢が進行した時に、さらに2次/3次治療を行っていました。しかし、最近、この観察休息期間を設けないで、初回治療で効果の得られた抗がん剤のうち、効果的で副作用の少ない薬剤を継続投与する、いわゆる維持療法が注目されています(図1)。

維持療法の有効性に関して、注目される臨床試験結果が報告されました。今年6月にシカゴで開かれた米国臨床腫瘍学会で発表された「PARAMOUNT(パラマウント)」試験と呼ばれる第3相試験(ある治療と他の治療を比べて、有効性と安全性を確認するもの)です。進行がん(3B/4期)の非扁平上皮がんで化学療法歴のない患者さん939例を対象に、導入療法と呼ばれる初回治療(アリムタ+シスプラチン:4サイクル)を行い、縮小/安定の見られた539例を無作為にアリムタ投与群(359例)と偽薬群(180例)に割り付けて維持療法を実施しました。

その結果、無増悪生存期間において、アリムタ投与群4.1カ月(中央値)、偽薬投与群2.8カ月(同)と、アリムタ群で有意な改善が認められました(図2)。忍容性や安全性に関しても、問題となる副作用は出ませんでした。全生存期間については現在分析が行われています。

[図2 ペメトレキセドを用いた維持療法の効果](PARAMOUNT試験、無増悪生存期間)
図2 ペメトレキセドを用いた維持療法の効果

また、今年7月にアムステルダムで開かれた国際肺がん学会において、日本の患者さんを対象とした臨床試験も発表されました。青江さんが発表した「JACAL試験」と呼ばれる第2相試験(治療の安全性・有効性を確認するもの)です。進行がん(3B/4期)の非扁平上皮がんで化学療法歴のない患者さん109例を対象に、導入療法(アリムタ+カルボプラチン:4サイクル)が行われ、縮小/安定の見られた89例のうち60例に対してアリムタを用いた維持療法が行われました。

その結果、副作用についてはとくに目立った症状は出ずに安全性が確認され、アリムタ+カルボプラチン併用療法は、進行した非扁平上皮がんに対する初回治療としての十分な忍容性と効果が示されました。無増悪生存期間などの有効性に関しても、今後新たなエビデンス(科学的根拠)が発表されることが期待されています。


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