日帰りが可能な骨腫瘍のラジオ波焼灼療法
骨へのダメージが少なく、骨の強度回復も期待できる
群馬大学病院整形外科助教授の
篠崎哲也さん
肝がんではよく用いられる治療法
骨腫瘍のラジオ波焼灼療法を2002年5月から、高度先進医療として行っているのは群馬大学医学部整形外科だ。
対象疾患は類骨腫という良性腫瘍がメイン。開腹や大きな切開をしないので、翌日に退院が可能である。これまで12件の施術が行われ、ほとんどが3~4日後には社会復帰を果たし、ほぼ元通りの生活を送っている。
この治療法の悪性骨腫瘍への応用は、今のところ限定的で、骨軟部腫瘍の根絶を狙う治療として、また骨転移の痛みを緩和する治療として、内外の報告がある。このことについては後述する。
ラジオ波焼灼療法は肝がんに対する治療としてはすでに普及している。国内では90年代後半から試験的に行われるようになり、2004年1月に保険適応となった。手術の身体的な負担が懸念されるようなケースでは、この治療法を選ぶことが多い。
最近では一部の医療施設で肺がんや腎がんに対しても用いられるようになった。
では骨腫瘍のラジオ波焼灼療法がどのように行われるか、群馬大学付属病院で行われている治療法を例に見ていくことにしよう。
この治療が類骨腫に対する治療として応用されるようになったのは、次のような背景がある。
類骨腫の発生数はさほど多くはないが、世代的には10~30代の若年層の手足に好発する。発生部位としてはとくに大腿部の骨が多い。患者さんの7~8割は男性だ。
同科の篠崎哲也さんはこの腫瘍について次のように解説する。
「骨の中に直径数ミリの空洞ができて炎症を起こし、強烈な夜間痛を伴うことの多い疾患です。原因は不明です」
腫瘍は自然と消失するものもあるので、定期的に検査をしながら様子を見ていく。その間は、痛みを取るため、アスピリンなどの消炎鎮痛剤や非アスピリン系製剤を服用する。薬はよく効くが、少なからず耐性が生じ、効かなくなる。また長期の服用で副作用が強く出ることもある。その場合は手術を行うのが一般的だ。
手術では腫瘍を完全に除去しなければならないが、類骨腫の病巣はほとんどが数ミリと小さく、1ミリ以下というケースも少なくない。腫瘍が骨の表面に露出しているわけでもない。
「ですから手術時に肉眼で病巣を厳密に特定するのが難しいのです。そこで腫瘍の取り残しによる再発を防止するために、多少広めに周辺部分の骨を切除しなければなりません」
骨腫瘍を取り残さないように広めに削り取るわけだが、骨を切除する広さ・深さおよび部位によっては、骨の強度が十分でなくなり、術後に歩行や荷物を持つなどの日常生活に不安が生ずるケースもある。その場合は、患部への荷重を緩和するための装具を体に装着しなければならない。
若い世代では、削った部分の骨が再生するので、骨の強度回復が期待できるものの、数カ月から数年の間、日常生活は大きく制限される。このような課題を克服するための新しい治療法として、骨へのダメージ(負担)の少ないラジオ波焼灼療法が登場してきたのである。
大腿骨類骨腫病巣。骨が少しふくれている
ラジオ波焼灼療法による治療後
腫瘍の焼灼に要する時間は5分で痛みはなし
ラジオ波焼灼療法は、腫瘍が下肢に存在する場合は脊椎麻酔を、その他の場所に存在する場合は全身麻酔をかけて行う。
実際の施術はCTを撮る部屋で行う。針を病巣に刺し入れる際、CTの連続撮影をしつつ、モニター画像を見ながら慎重にアプローチする必要があるからだ。針が病巣へ到達したら、骨組織を採取し、病理検査へ回す。施術前のCTやX線による検査で類骨腫の診断はほぼついているが、最終確認として細胞の形を顕微鏡で見る。結果は後日に出る。 骨組織を採取後、針を先端に電極の付いたものに差し替え、ラジオ波を流す。
「すぐに患部は摂氏95~100度に達します、通電時間は約5分。焼灼する範囲は電極の長さによって調整できます」
完全に腫瘍を焼き切れたかどうかは、CT画像では確認することは不可能だが、
「類骨腫の場合、通常は直径1センチほどの焼灼範囲で、ほとんどの腫瘍は焼き切れます。治療中の痛みはありません」
と篠崎さんは言う。
焼灼が終われば針を抜き、患者さんを麻酔から覚醒させて施術は終了。施術の所要時間は、麻酔をかける時間を含めても約1時間だ。
画像をモニターで見ながら、針を病巣に近づけているところ
CTによる連続撮影
針を病巣に近づけているところ
白い図形が骨で、棒状の針が病巣に到達した図。
黒い小さな点が病巣。その真下の黒い部分は骨髄
ラジオ波焼灼療法で用いる針。
上の白い柄の針は骨に孔を開ける骨開窓用の生検針。
黒い柄の針はラジオ波のチップがついた針
CTで骨開窓部の位置決めをしているところ
骨開窓中
類骨腫の病理組織像