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がん闘病中の感染症対策
「手洗い」「うがい」で予防。徴候があれば医師に訴えて早めに対処

監修・アドバイス:林章敏 聖路加国際病院緩和ケア科医長
取材・文:池内加寿子
発行:2006年4月
更新:2013年8月

  

林章敏さん 聖路加国際病院
緩和ケア科医長の
林章敏さん

はやし あきとし
聖路加国際病院緩和ケア科医長。
1988年宮崎医科大学卒。
緩和ケア医として臨床に携わって16年。淀川キリスト教病院ホスピス、日本パブテスト病院ホスピス医長、診療部長等を経て現職。
日本緩和医療学会評議員。日本死の臨床研究会世話人。京都大学医学部非常勤講師

感染症って、どんな病気?
細菌、ウイルスなどが体内で異常に増えて起こる伝染性の病気です

イラスト

感染症は、細菌(バクテリア)やウイルス、真菌(カビ)などの微生物が、体内の臓器や組織で繁殖することによって引き起こされる病気、または全身及び局所の炎症性の反応です。しかも、触れることで移る「接触感染」、くしゃみのしぶきなどによる「飛沫感染」、口から入る「経口感染」、空気を媒介として運ばれる「空気感染」など、いろいろなルートを経て病原体が人から人へと移っていくため、これらを原因とする病気を「伝染病」と呼んでいた時代もありました。

原因となる病原体は、結核菌やインフルエンザウイルスなど、外界からやって来る極悪非道な悪玉細菌やウイルスばかりではありません。皮膚や口の中、腸や便の中など、体内に同居している常在微生物も感染症の原因となりえます。

「腸の中では常在菌である大腸菌が、尿の中に見られるようになると、尿路感染症になるのです」

感染症に詳しい聖路加国際病院緩和ケア科医長の林章敏さんは、こう説明します。感染症とは、病原体の数が異常に増え、体が対処しきれなくなったことによって発症する病気、というわけです。

「通常は、細菌などの異物が入ってきても、白血球など体内の免疫担当細胞が働いて抑え込んでいるのですが、白血球が減少したり抵抗力が弱ってきたりしたときには、自衛しきれなくなるのです」(林さん・以下同)

かかりやすい時期は?
ターミナル期には感染症がつきもの

がん闘病中、感染症にかかりやすくなる時期はあるのでしょうか。

「抗がん剤や放射線治療中に白血球が減少しているとき、血液1マイクロリットルあたりの好中球数が1000未満になると、感染のリスクが高くなり、500未満になると、感染のリスクは大幅に上昇します。また、ターミナル期には4~6割が感染症を発症するといわれており、感染症がつきものといえるでしょう」

注意すべき感染症にはどのようなものがあるのか、主なものを挙げていただくと――。

「まず、全身に影響の出る感染症として注意していただきたいのは肺炎ですね。そのほか創部(傷口)からの感染や、入院中はチューブやドレーン周辺の感染にも注意が必要です」

治療中の患者さんでは、肺炎など全身性の感染症のほか、手術の傷跡など局所の感染や、腸閉塞による胆道感染などが比較的多いのに対し、ターミナル期には、誤嚥性肺炎、尿路感染、点滴などのチューブによるライン感染が多くなるそうです。

林さんによると、感染症対策の一番の要は「予防にあり」。病原体を持ち込まないことが最善の策なのです(次ページ「感染症予防とセルフケアの方法は?」参照)。

万一、感染症にかかった場合、私たちは徹底抗戦のかまえで治療をすることが正しいと考えがちですが、治癒をめざして治療中の時期とターミナル期では、少し考え方を変える必要があるといいます。

「治療中の方は、感染症も徹底的に治療するのが最善の策ですが、ターミナルケアで全身症状が厳しい場合は、いろいろな手を尽くしても感染症がなかなか治らないこともありますし、徹底的な治療をすることでかえって苦しみを長引かせてしまう結果にもなりますので、その患者さんがどうしたいのかを最優先し、家族の方とも相談しながらQOL(生活の質)に配慮した方法を探していくことになるでしょう」。

ライン感染=点滴のルートに関係する感染のこと

感染症の初期症状は?
発熱、局所の熱感・発赤・痛み・腫れがみられたら要注意

感染症にかかったかどうかの目安は、「発熱」「局所の熱感」「発赤」「痛み」「腫れ」の5つの初期症状で判断します。「これらの症状がみられたら、早めに医師に伝え、よりよい方法で対処してもらいましょう」

●発熱
「38度以上の高熱が出る場合は、肺炎など全身性の感染症が考えられます。高齢者の場合は、発熱そのものが弱いこともあるので、その方の平熱より1度高ければ、なんらかの異常があるととらえたほうがよいでしょう」

●局所の熱感
「手術の傷口や、やけど、床ずれなどが感染を起こすと熱をもち、熱いように感じます」

●局所の発赤
手術の傷口のまわりや、点滴チューブの周りが赤くなったり、赤みが拡がったりしているときは、感染が疑われます。

●局所の痛み
今まで痛くなかったリンパ節が赤みを帯びて痛みが出てきたり、日ごとによくなっていた手術の傷口が、ある日を境に急に強く痛み出したりしたら感染の可能性あり。
「がん性の痛みは重く鈍い痛みですが、感染症の場合はチクチクとさされるような鋭い痛み、ピクッと動くような痛みを感じます」

●腫れ
手脚にやけどなどをした後で腫れてきたら、細菌等の感染の疑いが濃厚です。
「乳がんや婦人科がんでリンパ節を切除したことで起こるリンパ浮腫の場合に限らず、やけどや切り傷などの感染から真っ赤に腫れる蜂窩織炎になることがあります」

[感染しやすいのはどこ? どんな症状が起こる?]

図:観戦しやすい部位

口腔(歯肉、粘膜、舌)
発赤、腫れ、白斑、舌苔、潰瘍、痛み

上気道(鼻、のど)
腫れ、白斑、発熱

肺、気管支
発熱、せき、たん、呼吸苦、倦怠感

消化器(胃腸、胆道)
下痢、腹痛、吐き気、発熱

皮膚(乳房、肛門周辺など)
発赤、腫れ、痛み、ただれ、潰瘍

尿路(膀胱、腎臓)
頻尿、残尿管、排尿時痛、尿の濁り、ときに発熱


出典:『がん化学療法と患者ケア』(福島雅典京大教授監修)改変

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