患者さんができる対処法をわかりやすく解説!
前立腺がん抗がん剤の副作用を乗り越えて
医学研究科泌尿器病態学准教授の
上村博司さん
進行した前立腺がんと長く共存していくのに不可欠な薬が、抗がん剤のタキソテールである。
患者さんがこの抗がん剤の副作用と上手に付き合っていくためにはどうすればよいか、患者さんの生の声も交えて解説する。
PSAが低い段階でタキソテール治療を開始
前立腺がんにはいろいろな治療法があるが、進行がんの場合、まず選択されるのはホルモン療法である。ただ、この治療でがんを抑え込むことができた患者さんも、いずれホルモン療法が効かなくなってくる。こうなると、かつては治療手段がなかったが、2008年以降、抗がん剤のタキソテール(*)が治療に使えるようになった。
横浜市立大学大学院医学研究科泌尿器病態学准教授の上村博司さんは、この治療について次のように語っている。
患者さんのPSAの変化の例]
「ホルモン療法で抑え込まれていたがんが、再び活発な状態になることを再燃と言います。ホルモン療法が効かなくなった再燃がんでも、タキソテール治療によって、生存期間が延長することがわかっています」
上村さんは、最初のホルモン療法が効かなくなった時点で、タキソテール治療について患者さんに説明するという。
「実際に抗がん剤の治療を始めるのはホルモン療法が効かなくなって再燃した時点ですが、なるべく全身状態がよくて骨などの痛みが出ておらず、PSA(前立腺特異抗原)があまり高くならない段階で始めるようにしています。そのほうが長く続けられると考えています」
*タキソテール= 一般名ドセタキセル
長く使い続けられることが生存期間を延長させる
(タキソテール治療を開始してからの生存期間)]
進行がんが対象なので、治療の目的は延命である。そして、タキソテール治療を長く継続することが生存期間の延長に役立つことが明らかになっている。
「タキソテール治療でPSAがずっと下降し続けるとは限りません。ときどき上昇する場合もありますが、これはがんが進行することで起こる現象ではないので、治療は中止せず、継続することが大切です。とくに、治療を始めてからPSAの増減変動があっても、4回程度は治療を続けることにしています」
治療を継続できた期間と患者さんの生存期間は、密接な関係を持っている。治療は3~4週おきに投与を繰り返していくが、投与回数が10回以上だった患者さんのほうが生存期間が長いことがわかってきた。
「効果があればできるだけ長く続けたいのですが、副作用などで継続できなくなる場合があります。つまり、副作用に上手に対処していくことが、長期投与を可能にし、延命につながるのです」
タキソテール治療では、どんな副作用が現れるのだろうか。
副作用の種類により現れる時期が異なる
横浜市立大学付属病院の治療では、ステロイド薬のデカドロン(*)がまず30分投与され、引き続き1時間かけてタキソテールが投与される。
「外来でできる治療ですが、1回目の治療は1週間から10日間入院して行い、どのような副作用が現れるかをチェックしています」
現れる副作用は、投与からの経過日数によって異なる。
「治療を開始する前に、どのような副作用がいつごろ現れるのか説明しています。それがわかっていれば、患者さんはあわてずにうまく対処できます。また、患者さんだけでなく、ご家族にも知っておいていただきたいですね。家族のサポートは、治療継続の大きな力になります」
1人の患者さんにこれらの副作用がすべて現れるわけではない。それぞれの症状が、どのくらいの人に現れているかを示したのが図4である。発現頻度が低い副作用も多いのである。
「患者さんは、抗がん剤に対して、非常に苦しい治療だという先入観を持っていることが多いですね。副作用が非常に強い抗がん剤の治療は、入院でしか行えません。しかし、タキソテールは外来治療が可能な抗がん剤ですから、基本的にそれほど強い副作用が出るわけではないのです。適切に対処すれば、多くの場合、乗り越えられるということを知ってほしいですね」
副作用に対する適切な対処について、次に解説する。
*デカドロン= 一般名デキサメタゾン。同じくステロイド薬のプレドニゾロン(一般名)が投与される場合もある
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