抗がん剤の副作用対策 PART2
その軽減法と乗り切り方
なかじま かずこ
1988年国立療養所兵庫中央病院付属看護学校卒業後、同病院外科病棟、千葉県がんセンターの勤務を経て、02年静岡県立静岡がんセンター呼吸器科病棟副主任。
同年がん化学療法看護認定看護師取得。
03年同センター呼吸器科病棟副看護師長、05年血液幹細胞移植・小児科病棟勤務。
抗がん剤でどんな副作用が起こる?
副作用メモをつけて、自分のパターンを知る
「抗がん剤による副作用は、抗がん剤の種類やレジメン(組み合わせ)、投与スケジュールなどによって異なります。個人差もありますから、過剰に心配しすぎず、もし起こったときはどうすればよいか、対処法を頭に入れておくとあわてずにすみます」(中島和子さん・以下同)
たとえば、シスプラチン(商品名プリプラチンまたはランダ)、アドリアシン(一般名ドキソルビシン)、エンドキサン(一般名シクロフォスファミド)では吐き気や骨髄抑制、タキソール(一般名パクリタキセル)やタキソテール(一般名ドセタキセル)などのタキサン系やオンコビン(一般名ビンクリスチン)では脱毛やしびれ、イリノテカン(商品名カンプト、トポテシン)では下痢などが起こりやすいといわれています。
また、心臓への負担軽減のため、総使用量が限られているもの(アドリアシンなど)や、腎臓への負担予防に、大量の水分を点滴で補給しなければならないもの(シスプラチンなど)もあります。
静岡がんセンターでは、レジメンごとに薬剤名と投与手順、副作用と現れやすい時期、注意事項や対処法などを、看護部と薬剤部それぞれが書面にして、説明の際に患者さんに渡しています。また、「副作用メモ」に各自記入してもらい、副作用がいつどのように現れたか、また、どう対処したら軽減したかを、2コース目に入る前に看護師とともに振り返り、次の治療に活かしています。
「対処法や薬の効果も人それぞれです。副作用メモを見ながら早めに対策を講じれば、2コース目以降も乗り切りやすくなります」
このようなサポートシステムがない医療機関なら、医療スタッフにどんな副作用がいつごろ現れやすいか質問し、自分で副作用メモをつけて参考にするとよいでしょう。
中島さんより一言
治療メニュー別の注意点
実際の治療メニューでは、どんな副作用がいつ、どのような順序で現れるのか、例を挙げてみました。
●EC療法(乳がん等)
3週間に1回、点滴でファルモルビシン(一般名エピルビシン)とエンドキサン(一般名シクロフォスファミド)という抗がん剤を投与します。治療開始後2、3日間はムカムカ程度の吐き気が生じる人が約8割、1週間目くらいからほとんどの方に白血球数減少などの骨髄抑制が現れますが、治療が必要な方は1割程度。骨髄抑制と同時期に、口内炎が現れる人は約2~3割。2週間目くらいから脱毛が始まりますから、それまでにウイッグやスカーフ、帽子などを用意するなど、対策を立てておくとよいでしょう。
●タキソールとハーセプチンのウィークリー投与(乳がん等)
1日目、8日目、15日目にタキソールとハーセプチン(一般名トラスツズマブ)、22日目にハーセプチンのみを投与し、4週間を1サイクルとして繰り返します。
初回投与時5~10分以内に、ごくまれに、タキソールやハーセプチン由来のアレルギー症状が起こることがあるので、息苦しさや胸苦しさ、悪寒など、少しでも異常があったらすぐに看護師や医師に伝えましょう。タキソール由来の副作用として、10日目ごろから骨髄抑制、2週間目くらいから脱毛が始まります。ときに関節痛や筋肉痛が起こることがあり、点滴回数が増えるにつれてしびれが現れることもあります。
●イリノテカン+シスプラチン療法(胃がん等)
1日目にシスプラチンとイリノテカン、15日目にイリノテカンを投与し、4週間を1コースとして繰り返す治療法です。シスプラチンの腎臓への負担を減らすため、1日目から3日目までは入院して、大量の水分を点滴で補います。
投与直後から4、5日間、吐き気、嘔吐が現れる方が多いのですが、食べられなくなる人は2割弱で、それも徐々に改善していきます。また、投与直後と投与後1週間くらいの時期に、下痢や腹痛、排便回数の増加などが比較的高頻度(7割強)で現れることがありますが、水分を補給して脱水症状に気をつけましょう。また、下痢とは逆に便秘に傾くこともありますが、下剤を飲みすぎるとそれがきっかけで下痢になることもあるので、1日1回排便があるように下剤の調整をするとよいでしょう。2週間目くらいから起こる骨髄抑制や脱毛も、日常生活の注意と早めの対策で乗り切りましょう。
吐き気・嘔吐の対策は?
いろいろな制吐剤の使い方次第で、予防・軽減できる
患者さんに共通するのは、吐き気についての心配です。
「吐き気は、抗がん剤自体や抗がん剤の作用でつくり出された代謝産物(細胞崩壊生成物)によって、嘔吐中枢や腸の細胞が刺激されるために起こります。
抗がん剤開始当日か翌日から現れ、2、3日でおさまるのが普通ですが、1週間ほど続き、その後軽快することもあります。通院なら投与日、入院なら最初の3日間ほどは、予防的に制吐剤(吐き気止め)を点滴で入れているので軽くすむ方が多いですね」
最近では、ジェムザール(一般名ゲムシタビン)やナベルビン(一般名ビノレルビン)など、吐き気などの副作用の少ない抗がん剤も増えています。また、制吐剤の進歩により、吐き気がつきものといわれるシスプラチンなどの抗がん剤の場合もかなり軽減できるようになっています。
対策1 まず、5-HT3受容体拮抗剤
制吐剤のカイトリル
投与2、3日目までの急性の吐き気には、最近広く使われるようになっている5-HT3受容体拮抗剤(商品名カイトリル、ゾフラン、セロトーンなど)が効果的。これは、抗がん剤の投与によって、消化管では吐き気のもととなる化学伝達物質のセロトニン(5-HT3)の分泌が高まり、脳の嘔吐中枢に刺激を伝達し、吐き気や嘔吐に至ります。5-HT3受容体拮抗剤は、嘔吐中枢に刺激が伝達され、結合される前に刺激を遮断して、吐き気や嘔吐を防ぐ制吐剤です。脳の嘔吐中枢への刺激を遮断して、吐き気や嘔吐を防ぐ制吐剤です。
「病院では、抗がん剤投与前に点滴で入れますが、舌下錠もあるので、通院の場合は持ち帰って飲むといいでしょう。吐き気が起こってしまう前より予防的に使用したほうが効果的です」
対策2 遅発性の吐き気には症状に合わせて
種類 | 薬剤名(商品名) |
---|---|
●急性の吐き気に 5-HT3受容体拮抗剤 | グラニセトロン(カイトリル) |
オンダンセトロン(ゾフラン) | |
アザセトロン(セロトーン) | |
ラモセトロン(ナゼア) | |
●急性&遅延性の吐き気に ステロイド剤 | デキサメタゾン(デカドロン) |
ベタメゾン(リンデロン) | |
プレドニゾン(プレドニン) | |
●胃腸の働きをよくする ドーパミン受容体拮抗剤 | ドンペリドン(ナウゼリン) |
メトクロブラミド(プリンペラン) | |
●中枢神経に作用 プチロフェノン系 フエノチアジン系 ベンゾジアゼビン系 | ハロベリトール(セレネース) |
クロルブロマジン(ウィンタミン) | |
ロラゼバム(ワイバックス) | |
ジアゼパム(セルシン) | |
アルブラゾラム(ソラナックス) |
投与後3、4日目から出てくる遅延性の吐き気は、5-HT3受容体拮抗剤ではコントロールしにくいといわれています。
「遅発性の吐き気には、ステロイド剤や、中枢神経や末梢神経に作用するドーパミン受容体拮抗剤など、さまざまな吐き気止めを症状に合わせて使うことで軽減できます(右表参照)」
吐き気に便秘が伴っているときは、ドーパミン受容体拮抗剤のプリンペランなどを使うと、腸の蠕動を促し、便秘とともに吐き気も解消できます。また、ブチロフェノン系のセレネースなどは中枢神経に作用し、遅延性の吐き気に効果がありますが、眠くなることがあります。
「仕事をしている方なら、昼間はプリンペラン、夜はセレネースやベンゾジアゼピン系のワイパックスやソラナックスというふうに使い分けるのも1案です」
現在アメリカでは、5-HT3受容体拮抗剤より効果が高いとされるN-1受容体拮抗薬エメンド(一般名アブレピタント)という制吐剤がすでに市販されていて、日本では臨床試験中です。
日本でも期待されている制吐剤で、これは遅発性の吐き気にも効果が出ています。
対策3 吐き気止めは食事の1時間から30分前に
吐き気止めは食事の1時間から30分前には飲んでおくのが基本です。
「ムカムカして食べられないときや、胃がすっきりしないときなどは、服用時間にとらわれず、症状が出た時点で飲むといいでしょう」
対策4 予期性の吐き気には心理作戦
抗がん剤のボトルや色、医師の白衣などを見るだけで吐き気がするという予期性の吐き気には、MDやCDを持参して好きな曲を聴く、きれいな景色を思い浮かべるなど、なるべく意識をそらせるイメージ法が効果的。抗不安薬で落ち着く方もいます。
「また、手首にある“吐き気のツボ”を押すと吐き気が改善する、というアメリカでの臨床報告があり、日本でも看護雑誌などで紹介されています。手首の内側、指3本分置いた下の位置にあるツボを3秒に1回ずつ押して10分ほど続けます。つらいなと思ったときに、ダメモトで心理作戦として取り入れてみては?」
対策5 食べたいときに食べたいものを
治療当日は軽く食事をとっておきます。通院治療で点滴中に食事の時間をはさむときは、サンドイッチやおにぎりなどを持参するのもよいでしょう。他の患者さんへの影響も考慮して、においのある食品は避けたほうが無難。吐き気が強いときは無理せず、食べられそうなときに食べたいものを少量ずつ食べるのが良策です。
対策6 食前に氷水やレモン水でうがい
食前に氷水やレモン水、お茶などでうがいをするとさっぱりし、食欲が増すことがあります。
対策7 食べ物を冷やすとにおわない
「のどごしのよいうどんやそば、冷たく口当たりのよいアイスクリームや果物は食べやすいものです。味覚異常があるときは、ラーメンのような濃い味を好む方もあります。温かいご飯や煮物などのムッとしたにおいで吐き気が誘発されることがありますが、食べ物を冷やすか、室温に戻すとにおいを抑えられます」
対策8 食後は横向きに
食後は、おなかをしめつけない服でゆったりと過ごしましょう。胃の中のものが逆流しないように上半身を起こすか、仰向けを避けて横向きの姿勢で休むと楽です。
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