電気刺激を活用した日米共同開発の細胞処理技術
樹状細胞ワクチン療法の治療効果向上のカギを握る「エレクトロポレーション法」
がん細胞の目印を免疫細胞に覚え込ませて体内に戻し、がん細胞を効率的に攻撃させる樹状細胞ワクチン療法。その治療効果を高めるため様々な技術開発が進んでいる。
電気刺激による樹状細胞の能力向上
がん細胞はその表面上に、がん特有の目印を出している。
免疫細胞の1つである樹状細胞は、その目印を取り込み、がん攻撃の実働部隊であるT細胞に攻撃目標として伝える"司令官"。樹状細胞ワクチン療法は、樹状細胞に体外でがんの目印を覚えさせて体内に戻し、がん攻撃の"精鋭部隊"である細胞傷害性T細胞(CTL細胞)の誘導を期待するものだ。
この治療の効果を上げるためには、司令官である樹状細胞にがんの目印をいかに効率的に覚えさせ、その能力を高めるかがカギ。よって、最近ではエレクトロポレーション法と呼ばれる技術が取り入れられている。
これは、細胞に電気刺激で微小な穴をあけ、細胞にダメージを与えずにがんの目印を強制的に取り込ませる方法だ。樹状細胞に自然に取りこませる従来の手法に比べ、10倍以上の情報を取り込める(図)。これにより司令官としての能力が上がり、がんを特異的に攻撃するCTL細胞を通常より数倍~数10倍多く得ることが期待できる。
電気刺激を用いて樹状細胞ワクチン療法の効果を高める手法は他に例がなく、画期的といえる。
「この治療技術は、海外企業の技術をベースに、日米で共同開発されたもの。現在でも米国の大学などで治療効果を高めるための研究が行われている」と神垣さんは話す。
「何年もの間、数カ月単位で転移を繰り返していた患者さんがいますが、2年前に転移巣を切除し、そのがん組織をエレクトロポレーション法による樹状細胞ワクチン療法に活用しました。治療開始から1年経過した現在でも再発の兆しはなく、マーカーも安定し元気でいます」
この患者さんは、切除した転移巣を「自己がん組織バンク」で一定期間冷凍保存し、治療に活用したという。
「樹状細胞ワクチン療法など、より効果的なテーラーメイド治療を将来的に実施するために、自らのがん組織の保存は非常に重要です。無償でお預かりできますので、手術ご予定の際は事前にご相談してほしいですね」
がん細胞が用意できない場合も実施可能
一方、自らのがん細胞が入手困難な場合でも、人工的に作成したがんの目印(抗原ペプチド)を樹状細胞に取り込ませる形で樹状細胞ワクチン療法を実施することも可能だ。
現在使用されている人工の抗原ペプチドは20種類以上。その中には、さまざまながん細胞で発現している目印として広く使用されているものもあるが、「効果をあげるためには、その抗原ペプチドが有効かどうかの事前検査が必要です」と神垣さんは指摘する。
また、検査の結果どの抗原ペプチドも使えない場合は、がんの病巣へ樹状細胞を直接注入し、病巣内でがんの目印を取り込ませる手法もある。
テーラーメイド化されたがん医療が重要
このように様々な種類がある樹状細胞ワクチン療法だが、留意したいのは、CTLの攻撃を逃れようと、がん細胞が自らの目印を巧妙に隠すケースがかなりあることだ(*)。
「当然、その場合はどの樹状細胞ワクチン療法も効果が見込めません。全く別の作用機序でがんを攻撃する治療法を選択する必要があります。当院では事前にがん細胞を調べ、患者さん1人ひとりに対しどの治療が適切かを調べる免疫組織化学染色検査を実施しています」(神垣さん)
治療技術は日々進化しており、様々な治療の選択肢が存在する。今回紹介したエレクトロポレーション法による樹状細胞ワクチン療法も有力な選択肢の1つだが、患者さんにとって重要なのは、「個々の状況に応じたテーラーメイドの治療を受けて頂くこと」と神垣さんは力説する。
治療実施医療機関に直接確認するなどして正確な情報を集め、どの治療法が自らに適しているかを見極めた上で、治療を受けることが重要である。
*胃がんで50%以上、非小細胞肺がんで60%以上の患者さんに目印の発現低下傾向が見つかったという報告もある(埼玉医大雑誌第28巻 第2外科/第47回肺癌学会総会 北海道大学1内・札幌医大1病理)
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