新しいがん免疫療法「樹状細胞局注療法」の最新報告

監修:岡本正人 徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部口腔腫瘍制御分野講師※
※ 現在は武蔵野大学薬学部客員教授
発行:2006年4月
更新:2013年4月

  
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徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス
研究部口腔腫瘍制御分野講師の
岡本正人さん


新しいがん免疫療法の「樹状細胞療法」が注目されていることは以前小誌でも紹介しましたが、この樹状細胞療法の中でも、最近とりわけ注目を集めているのが、「樹状細胞局注療法」と呼ばれる療法です。樹状細胞は、がんを攻撃する免疫細胞部隊の中で司令塔のような役割をする免疫細胞ですが、この細胞を腫瘍内に直接注入するのがこの局注療法です。

今回は、この療法を頭頸部がん、とりわけ口腔がんにおいて成果を上げている徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部口腔腫瘍制御分野講師の岡本正人さんにお話を伺いました。

手術をしないで治す方法

――口腔がんは、手術をするのが一般的ですが、なぜ、樹状細胞療法を、それも局注療法をするようになったのですか。

岡本 私の上司の佐藤教授は、頭頸部がんは手術をすると顔が変形しそれを背負って患者さんが生きていくのは可哀想と考え、手術をしないで治す方法を模索しました。そんな中、放射線と抗がん剤に免疫賦活剤のピシバニールを併用した治療法を考えだし始めたのですが、この治療成績が非常に良く、がんが完全に消失する割合(CR)が57パーセントとかなり高率でした。ピシバニールを使わなかった場合のがん完全消失率は15パーセントですから、免疫の働きがかなり大きいことがわかります。

ただ、がんが再発した場合、すでに放射線も抗がん剤も使い、しかもその攻撃をかいくぐって、非常にたちの悪いがんが生き残っている恐れがあります。このような、放射線や抗がん剤が太刀打ちできなくなったがんに対して何か方法がないかと探し、樹状細胞療法にたどり着いたというわけです。

――樹状細胞は皮内に注射するのが普通ですが、腫瘍内に直接注射する方法を採ったのはなぜ?

岡本 ピシバニールを用いた併用療法では、実は、ピシバニールを皮内に注射するのと腫瘍内に注射するのと両方行っていて、腫瘍内に注射するほうがかなり効いているようでした。調べてみると、腫瘍内に樹状細胞がたくさん浸潤している場合に患者さんの予後がよく、それは浸潤した樹状細胞の成熟をピシバニールが促していることが影響していることがわかった。それなら、腫瘍内に直接樹状細胞を注入してやればもっと効くのではないかと思ったんです。

司令塔としての能力が高まる理由

[口腔がんに対するTS-1併用樹状細胞およびピシバニール腫瘍内投与療法]

――樹状細胞局注療法の具体的な方法は?

岡本 抗がん剤のTS-1と樹状細胞とピシバニールを併用投与する治療法です。まずTS-1を毎日飲んでもらいます。それを2週間続けた後1週間休み、それを繰り返す。次いで、ピシバニールを毎週1回注射します。そして2週間に1度の割合で樹状細胞を腫瘍内に投与するという方法です。

――なぜ、抗がん剤や免疫賦活剤を使うのですか。

岡本 樹状細胞は細胞を食べる機能を持っているんですが、死んだがん細胞は食べるのですが、生きたがん細胞はなかなか食べないのです。それで、まず、抗がん剤のTS-1でがん細胞を殺してやると、樹状細胞はがん細胞を食べやすくなり、食べると、がん細胞の抗原が入るので、その抗原をピシバニールで細胞表面に提示する機能を高めてやる。こうすれば、樹状細胞がリンパ球にがん細胞への攻撃を促す司令塔としての能力が高まるというわけです。

――この樹状細胞局注療法はいつから始めたのですか。

岡本 2001年からで、これまでの実施例はまだ5例です。

――その結果はどんな具合?

岡本 治療効果は、CR(がんの完全消失)が1例、PR(がんの25パーセント以上が縮小)が3例、SD(変化なし:進行の停止)が1例です。

――治療例をもう少し具体的にお話しいただけますか。

[左側口底がんに対する樹状細胞局注療法の治療例]

初診時。直径3cmのがん    治療後。がんが完全に
が見られる                    消失した

[右側舌がんに対する樹状細胞局注療法の治療例]

樹状細胞局注療法前。    樹状細胞局注療法後。
          がんが再発          がんが消失したように見える

岡本 口底の左側に直径3センチ(T2)のがんができた71歳の男性患者さんの場合、どうしても手術が嫌だというので、抗がん剤治療をしたのですが、効果が出ませんでした。それで、樹状細胞局注療法をしたのですが、がんが消失し、それが2年以上続き、この方は現在も生存しています。組織を採って調べてみると、上皮下にものすごい数のリンパ球が浸潤しており、しかもほとんどがCTL(細胞障害性T細胞)と思われる細胞でした。

もう1例紹介しますと、舌の右側にがんができた55歳の女性患者さんです。手術をし、放射線も抗がん剤も使って治療したのですが、再発しました。それで、樹状細胞局注療法をしたところ、見かけ上がんが消失した状態にまでなりました。かなり効いているようだったので、さらに樹状細胞療法を継続する予定でしたが体調不良で採血ができず治療が継続できなくなってしまいました。すると3カ月ぐらいでまた再発し、この方は結局亡くなられました。

――この治療による副作用はどうですか。

岡本 ピシバニールの影響で38、39度の熱が出る人も出ますが、一過性です。体がしんどくなって食欲がなくなることが治療効果を妨げることにもなるので、食事量と尿量には気を付けながら診ています。後は、TS-1による副作用ですが、それほど強い骨髄抑制は起こっていません。

――この治療は口腔がん以外のがんにも可能なのでしょうか。

岡本 口腔がんは特別抗原性が高いわけでも、免疫が効きやすいわけでもありません。だから他のがんにも十分応用可能と思われます。

この樹状細胞局注療法は、東京都港区にあるセレンクリニックで行われています。


● セレンクリニック 東京都港区白金台2-10-2白金台大塚ビル2F
TEL:03-3449-6095  http://www.seren-clinic.com


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