赤星たみこの「がんの授業」

【第一時限目】がんって何? どんな病気?

構成●吉田燿子
発行:2003年11月
更新:2019年7月

  

赤星たみこ(あかぼし・たみこ)●漫画家・エッセイスト

1957年、宮崎県日之影町(ひのかげちょう)のお生まれです。1979年、講談社の少女漫画誌『MiMi』で漫画家としてデビュー。以後、軽妙な作風で人気を博し、87年から『漫画アクション』で連載を始めた『恋はいつもアマンドピンク』は、映画化され、ドラマ化もされました。イラストレーターで人形作家の夫・新野啓一(しんの・けいいち)さんと、ご自身を題材にした夫婦ギャグをはじめ、あらゆるタイプの漫画で幅広い支持を得ていらっしゃいます。97年、39歳の時に「子宮頸がん」の手術を受けられ、子宮と卵巣を摘出されましたが、その体験を綴ったエッセイ『はいッ!ガンの赤星です』(『はいッ!ガンを治した赤星です』に改題)を上梓されました。

がんは「治る病気」である

6年前、私は子宮頸がんの手術を受けました。子宮と卵巣を摘出し、その影響で、早めに訪れた更年期障害に苦しめられたものの、今はすっかり元気になってバリバリ仕事をしています。

ところが、巷ではあいかわらずがんに対する恐怖と偏見が大勢を占めています。私ががんになったことを仕事関係者に告げると、ほとんどの相手は「えっ…」と、声にならない声を出し、ユーレイを見るような目つきで私を見ました。

「やぁねぇ、そんなすごい状況じゃないんだから。早期だから治るのよ」と言っても信用せず、私のいない場所では「ねぇねぇ、知ってる?赤星さん、がんになったんだって」「えぇっ、大変そう~~」「かわいそう~」という話になっていたのです。

私の場合はうわさだけで仕事に関しては何も影響はなかったのですが、会社勤めの人だと出世街道からコースアウトさせられる人もいるとか。

今は多少マシになったとはいえ、医療への理解が格段に進んだはずなのに、みんなまだまだがんを恐ろしいものとしてとらえています。

がんは今や「治る病気」です。特に早期がんはほぼ99パーセント治ります。検査方法や治療法は日々進化し、手術や抗がん剤治療で完治した人が、続々と社会復帰を果たしています。

なのに、テレビでは松田優作さんや逸見政孝さんのように、がんで亡くなった人の話題ばかり採り上げる。がんの体験記も、遺族が書いた「思い出をありがとう」的な感動本のオンパレード。

私ががんの告知を受けたとき、やはり動揺していたのでしょう。感動本を手にとり、「思い出になってたまるかあっ!」と意気込んでしまったことを覚えています。がん、イコール、死。告知された日はそう思ってしまったんですね。

しかし、最初の動揺が去ると、「がんと戦って亡くなる人も確かにいる。でも、そうでない人もまだたくさんいるんだ!」という思いがわいてきました。がんにおびえる方たちも、まずはそこへ目をむけて欲しいんです。そして、「思い出にならない」ためには、日頃からがんについての正しい基礎知識を身につけましょう。そうすればむやみにおびえることもなく、万一の時にも冷静に対処できるのです。

腫瘍とがん、良性腫瘍と悪性腫瘍

そもそも、「がん」とは一体何モノか。まずはここから、勉強していきましょう。

がんとは、体内の細胞の複数の遺伝子が異常をきたし、とめどなく分裂増殖した時に起こる病気です。この異常増殖によってできたしこりが「腫瘍」ですが、すべての腫瘍ががんと関係あるわけではありません。

一般に腫瘍には良性と悪性があり、良性腫瘍とは、言ってみれば体内にできたイボやウオノメのようなもの。悪性のものとちがって体の他の部分に広がることもないので、患部だけをとってしまえばオッケーです。「今は良性でも、後で悪性に化けるんじゃないの?」と心配する人もいますが、基本的にはその可能性はないと考えていいでしょう。

「悪性腫瘍」のほうは、正真正銘「がん」。ところがこの悪性腫瘍をがんとは別の病気と勘違いしている人が多いといいます。昔、がんという病名は患者にはショックが大きすぎるという配慮から「悪性腫瘍」という言葉を使うようになったのだそうです。

万が一、まだ治る段階のがんが発見されたときに、「私のは悪性腫瘍でがんじゃないからだから大丈夫」などとほうっておいて手遅れになるという悲劇がおきないためにも、がん=悪性腫瘍ということを知っておいてください。

悪性の腫瘍は細胞分裂がものすごく活発なため、猛烈なスピードで増殖していくのが特徴です。しかも「浸潤・転移をしやすい」という性質があります。「浸潤」とは、がん細胞が周りに沁み込んで健康な組織を破壊していくこと。「転移」とは、がん細胞が血液やリンパ系に入り、体の他の場所に広がることを指します。

目に見える患部だけを手術で取り除いたとしても、目に見えないがん細胞が知らないうちに全身に転移する可能性もあります。しかもそのスピードが速い。そこに、がんの最大の怖さがあります。そうならないためには、早め早めの検査と治療が大切なのは言うまでもありません。

がん細胞の増殖の速さを利用して開発されたのが「抗がん剤」です。今の抗がん剤は、細胞分裂のスピードが速い細胞をとらえ、それに対して効力を発揮するようになっています。そのため、分裂スピードが速い一部の正常細胞、たとえば骨髄や髪の毛母細胞のようなものにも効いてしまうのです。抗がん剤を使うと脱毛や白血球の値低下といった副作用が生じるのには、実はこうしたワケがあるのです。

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