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放射性医薬品を使って診断と治療を行う最新医学 前立腺がん・神経内分泌腫瘍のセラノスティクス

監修●中本裕士 京都大学大学院医学研究科放射線医学講座教授
取材・文●柄川昭彦
発行:2024年3月
更新:2024年3月

  

「セラノスティクスは、副作用が少なく効果が期待できる優しいがん治療として、今後の展開が期待できる領域だと考えています」と語る中本さん

がんに取り込まれる性質を持つ放射性医薬品を使って、がんの診断と治療を行うセラノスティクスが世界的に注目を集めており、神経内分泌腫瘍や前立腺がんですでに実用化されています。

しかし、日本のセラノスティクスは世界から大きく遅れていて、前立腺がんの診断と治療に使われる放射性医薬品はまだ認可されていない状況です。セラノスティクスの効果と日本の現状について、京都大学大学院医学研究科放射線医学講座教授の中本裕士さんに解説してもらいました。

「核医学」「セラノスティクス」とは、どのようなものですか?

「放射線医学」には、核医学と呼ばれる一領域があります。放射性医薬品を投与し、そこから放出される放射線を診断や治療に利用します。

核医学では、特定の組織や臓器に集まりやすいように作られた化合物にRI(ラジオアイソトープ=放射性同位元素)を結合させた放射性医薬品を使用します。投与された薬品は特定の組織や臓器に集まり、そこから放射線が出てくるので、その放射線を捉えることで画像化することができます。たとえば、がんの骨転移などを調べる骨シンチグラフィ検査は、古くから行われてきた核医学検査の1つです。

PET検査も核医学検査のひとつです。臨床でよく行われているFDG-PET検査では、検査薬としてRIをつけたブドウ糖の類似物質FDG(フルオロデオキシグルコース)を静脈内投与します。この検査薬はがん細胞に多く取り込まれていきます。集積したFDGに含まれるフッ素-18から陽電子が放出され、その陽電子が周囲の電子とぶつかることで2本のガンマ線が出ます。ガンマ線が多く放出されている部分が、光ったように見えるのが特徴で、病変を効率的に見つけることができます。

京都大学大学院医学研究科放射線医学講座教授の中本裕士さんは、FDG-PETについて次のように語っています。

「核医学は放射線医学の中でもマイナーな領域でしたが、核医学検査のひとつFDG-PETが、がんの発見に役立つ画像診断法として1990年代後半から2000年代にかけて大きな話題となりました。その後、再び腫瘍に対して核医学が注目されたのが、セラノスティクスです。診断のみならず、実際の治療がからんでくることもあって、この10年で大きく盛り上がりを見せています」

一般にはなじみのうすい言葉ですが、セラノスティクス(theranostics)は、「治療」を意味する「セラピューティクス(therapeutics)」と、「診断」を意味する「ダイゴノスティクス(Diagnostics)」を組み合わせて作られた造語です。

「セラノスティクスは、狭義には『生体に投与する医薬品に治療的機能と診断的機能を持たせる技術』として使われる機会が多いです。とくに核医学領域では、投与する放射性医薬品として、ガンマ線を出すRIで標識した化合物を使うと画像診断ができる一方、同じ化合物にアルファ線やベータ線を放出する核種をつけて投与すると殺細胞効果が期待できます。この仕組みを利用した画像診断と治療を最近ではセラノスティクスと呼び、臨床に普及しつつあります」

セラノスティクスは今世紀に入って使われるようになった比較的新しい言葉ですが、この概念に基づく診断と治療は、核医学の分野では以前から行われていました。たとえば転移性甲状腺がんに対して、放射性ヨウ素(ヨウ素131)を使った診断と治療があります(図1)。

ヨウ素131はガンマ線とベータ線を出します。少量のヨウ素131を投与し、ガンマ線による画像診断を行い、がんの転移が明らかになれば、殺細胞効果が期待される多くの量のヨウ素131を投与してベータ線で細胞に障害を与えることができます。

このように、セラノスティクスは古くから行われていましたが、この手法を用いた神経内分泌腫瘍や前立腺がんに対する診断と治療が行われるようになって脚光を浴びています。

神経内分泌腫瘍へのセラノスティクスとはどのようなものですか?

神経内分泌腫瘍は、神経内分泌細胞から発生する腫瘍で、主に膵臓、消化管、肺などの臓器に発症します。神経内分泌腫瘍の腫瘍細胞には、ソマトスタチンという神経伝達物質の受け皿となるソマトスタチン受容体が発現していることが多いので、これを標的とした核医学的な診断と治療が行われています(図2)。

ソマトスタチン受容体と結合させるのは、ソマトスタチン類似体のオクトレオチドで、これにRIをつけた薬剤が開発されています。

「オクトレオチドに、キレートを介してインジウム111やガリウム68といったRIをつけると画像診断ができます。すなわち、神経内分泌腫瘍の病変があって、その腫瘍細胞がソマトスタチン受容体を発現していると、そこに薬剤が集まりガンマ線が出るので、それを捉えることで画像化できるのです。インジウム111をつけた薬も、ガリウム68をつけた薬も、どちらも診断に使えますが、日本ではインジウム111が含まれる検査薬のみ承認が得られています。欧米ではガリウム68製剤が日常的に用いられ、診断精度の向上に役立っています」

治療では、オクトレオチドにつけるRIを、ベータ線を放出するルテチウム177、あるいはアルファ線を放出するアクチニウム225に変更します。これらの薬剤は腫瘍細胞に集まりベータ線やアルファ線で腫瘍細胞を傷害するのです。このような治療法を、PRRT(ペプチド受容体放射性核種療法)と呼んでいます。

「日本ではルテチウム177をつけたルタテラ(一般名ルテチウムオキソドトレオチド)が2021年に保険適用を受けました。現在では、多くの施設で神経内分泌腫瘍の治療としてルタテラが使われています」

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