悪性脳腫瘍、摘出後の化学療法は必要ないか
原発性の悪性脳腫瘍(グリオーマのうちの悪性星細胞腫)で摘出手術を受けました。来週より放射線治療を開始するとのことです。「QOL(生活の質)が下がるため、抗がん剤治療は行わない」とのことです。しかし、患者仲間から話を聞くと、私のようなケースには化学療法も追加することがあるようです。「確実な治療法を選択して、再発は防ぎたい」と主治医に伝えましたが、「必要ない」と言われています。本当に放射線だけで大丈夫でしょうか。
(岐阜県 男性 61歳)
A 放射線化学療法を行う方が治療成績が良い
悪性星細胞腫に対する標準的治療は、手術でできる限り腫瘍を摘出して、術後に放射線化学療法を行うことです。欧米では悪性星細胞腫に対して、(1)手術と放射線治療をしたグループ(2)手術と放射線化学療法をしたグループとの治療成績を比べる無作為化比較試験が行われました。その結果、後者の手術と放射線化学療法を行ったグループのほうが明らかに治療成績のよいことがわかりました。そのため、悪性星細胞腫では手術を行ったあと、放射線化学療法を行います。
この比較試験ではニドラン(一般名ニムスチン=ACNU)と同じニトロソウレア系抗がん剤のBCNU(一般名カルムジン)やテモダール(一般名テモゾロマイド)による単剤治療がそれぞれ行われました。テモダールは口から飲める経口薬で、効果が高く、副作用の少ない薬です。すでに世界約100カ国で用いられていますが、日本ではまだ認可されていません。そのため、日本ではニドランを中心にした化学療法が行われています。
また、手術と放射線化学療法のあとで、腫瘍が減少した状態を維持するための化学療法も有効です。厚生労働省・国立がん研究センターの臨床試験では、ニドランを用いた維持療法をしたグループのほうが維持療法をしなかったグループよりも明らかに治療成績がよかったのです。そこで、手術と放射線化学療法後にはニドランによる維持療法をしたほうがよいと考えられています。
悪性脳腫瘍を専門としない医師の中には、悪性星細胞腫に対して化学療法を行わない医師もいます。しかし、悪性星細胞腫に対する化学療法は、再発までの期間を延ばし、生存率を改善するうえで有効です。年齢や全身状態にもよりますが、化学療法は行ったほうがよいと思います。
なお、テモダールは、再発した症例にも有効です。海外から個人輸入して、テモダールを治療に用いている患者さんもいますが、薬代がかなり高額になるのが難点です。日本でも来年中に認可されて、使用されるようになると思います。