放射線・ホルモン併用療法:副作用も少ないが、なぜ併用したほうがよいかはまだ謎 放射線とホルモンは併用したほうがより効果が上がる
栃木達夫さん
前立腺がんは、放射線療法やホルモン療法がよく効く。しかしこの2つの治療を併用したほうがもっと効果が高まることが明らかになってきた。その併用療法の最新成果を報告する。
高齢者に対して始まった放射線治療
前立腺がんに効果のある抗がん薬は限られているが、ホルモン療法と放射線治療がよく効くのが強み。この2つの治療法を併用すると、より効果が高いことがはっきりしてきた。
宮城県立がんセンター医療部長で泌尿器科診療科長の栃木達夫さんによると、かつては手術が多かった前立腺がんも最近は放射線治療を選ぶ人が急速に増えているという。「手術対象になるのは、基本的に前立腺内にとどまる限局性のがんです。ただ、体に対する手術の負担や後遺症などとのバランスから期待余命が10年以上ある人が適応とされているので、75歳ぐらいまでが手術の目安とされています。そこで、手術対象にならない高齢者が根治を希望して放射線治療を選択することは、以前からありました。
しかし、最近は75歳以下で、手術も放射線治療も両方選べる――そういう状態で、放射線治療を選択する人が増えています」と栃木さん。限局性の場合、手術と放射線治療で予後はあまり変わらないとされている。となると、神経温存術の普及などで少なくなってきたとはいえ、手術には排尿障害や性機能障害などのリスクが伴うため、それを避けて、放射線治療を選択する人が増えているのである。
放射線治療ならば、基本的に外来通院で受けられるが、手術となると入院も必要。回復まである程度の日数もかかる。そうしたデメリットを嫌がる人もいるそうだ。
手術と放射線治療が、両方可能という人でも、今は「印象では手術6対放射線治療4ぐらいの割合」だという。
放射線治療にホルモン療法を加える
こうした放射線治療を行う場合、単独よりホルモン療法と併用するほうがより効果が高まることがわかってきた。
今回改訂されたガイドラインでも、前立腺内にとどまる限局性の高リスク群(PSA*20ng/ml以上、グリソンスコア*8~10)と中リスク群(PSA10・1~20ng/ml、グリソンスコア7)は、外照射(体の外から放射線をかける治療法)で65~70グレイの放射線を照射する場合には、ホルモン療法を併用することが推奨されている。
「アメリカでは、ホルモン療法による性機能の低下が敬遠されて、以前は放射線単独による治療が行われていました。ところが、2000年代に入ってから、限局性と局所浸潤がんは放射線治療にホルモン療法を併用したほうが治療成績が良いという報告が欧米から次々と出てきたのです」と、栃木さんは語る。
*PSA=前立腺特異抗原。前立腺から分泌される糖たんぱく質で、前立腺がんの腫瘍マーカーとして用いられる
*グリソンスコア=前立腺がんの悪性度を示す病理学上の分類
単独での治療より高い成績
たとえば、アメリカでは2001年、局所浸潤がんの患者456人を、放射線治療単独とホルモン療法併用群に分けて行った無作為化比較試験(RTOG 86-10)の結果が報告されている。8年間で前立腺がんによる死亡率は、放射線単独治療群が31%に対し、ホルモン療法併用群では23%と少ないことが判明したのである(図1)。
さらに、6カ月間ホルモン療法を併用すると、放射線治療単独の5年生存率が78%であるのに対し、88%に向上するという無作為化比較試験の結果も発表されている。
逆に、ホルモン療法単独よりも、放射線治療を併用したほうが、治療成績が良いという報告もある。北欧で行われた局所浸潤がんを対象とした調査で、10年間の前立腺がんによる累積死亡率はホルモン療法単独群が23・9%だったのに対し、併用療法では11・9%と少なく、併用することでがんによる死亡率が半分に低下するという結果だったのである(図2)。
今では、こうした報告が相次ぎ、放射線単独治療よりホルモン療法を併用したほうが、治療効果が高いことは、周知の事実といってもよいほどになっている。
同じカテゴリーの最新記事
- 放射性医薬品を使って診断と治療を行う最新医学 前立腺がん・神経内分泌腫瘍のセラノスティクス
- リムパーザとザイティガの併用療法が承認 BRCA遺伝子変異陽性の転移性去勢抵抗性前立腺がん
- 日本発〝触覚〟のある手術支援ロボットが登場 前立腺がんで初の手術、広がる可能性
- 大規模追跡調査で10年生存率90%の好成績 前立腺がんの小線源療法の現在
- ADT+タキソテール+ザイティガ併用療法が有効! ホルモン感受性前立腺がんの生存期間を延ばした新しい薬物療法
- ホルモン療法が効かなくなった前立腺がん 転移のない去勢抵抗性前立腺がんに副作用の軽い新薬ニュベクオ
- 1回の照射線量を増やし、回数を減らす治療は今後標準治療に 前立腺がんへの超寡分割照射治療の可能性
- 低栄養が独立した予後因子に-ホルモン未治療転移性前立腺がん 積極的治療を考慮する上で有用となる
- 未治療転移性前立腺がんの治療の現状を検証 去勢抵抗性後の治療方針で全生存期間に有意差認めず
- 前立腺がん再発とわかっても、あわてないで! 放射線治療後に局所再発しても、凍結療法で救済できる