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排尿障害:骨盤底筋体操や失禁バンドなど、患者さん自身でできる対処法も 前立腺がんの排尿障害にどう対処する?

監修●篠原 充 都立駒込病院泌尿器科部長
取材・文●池内加寿子
発行:2013年2月
更新:2019年12月

  

「排尿障害は、原因や症状に応じた対策を講じることが大切です」と話す篠原充さん

前立腺がんの影響や治療によって起こりやすい排尿障害。尿に関するトラブルは毎日のことだけに、悩んでいる患者さんにとっては深刻な問題だ。排尿障害が起こった場合、どのように対処すればいいのだろうか。原因や症状に応じた対策を紹介する。

重症例はごく稀だが

医療技術などの進歩により、前立腺がんに関する排尿障害は一昔前に比べると少なくなり、重症例はごく稀です。排尿障害が起こった場合は、原因や症状に応じた対策を講じることで、生活の質が上がります」と都立駒込病院泌尿器科部長の篠原充さんは話す。

前立腺がんに伴う排尿障害には、主に5つのタイプがある。

①前立腺がんに前立腺肥大症を合併し、尿道を圧迫して尿が出にくくなる。

②前立腺がんが進行して大きくなり、尿道を圧迫して尿が出にくくなる。

③治療後再燃したがんが尿道を圧迫し、尿が出にくくなる。

④前立腺がんに対する放射線治療により、頻尿、血尿、失禁などが起こる。

⑤前立腺摘出手術に伴い、失禁、頻尿などの症状が出る。

尿道の圧迫が原因

■図1 前立腺がんによって起こる排尿障害

①②③について、篠原さんはこう説明する。

「前立腺がんは尿道から離れたところにできることが多く、早期のがんが直接排尿障害を起こすことはまずありません。ただ、前立腺肥大症を合併していることが多いため、尿道が圧迫され、尿が出にくい状態になることがあります。また、頻度は低いのですが、前立腺がんがT3期以上に進行したり、いったん治療したがんが再燃したりして、腫瘍が尿道を圧迫する場合も、同様の症状が起こります」(図1)

これらのケースでは尿が出にくくなるのだが、患者さんは「尿が出すぎて困る」「トイレが近い」と訴えることが多いそうだ。

「膀胱の容量は普通150~300cc程度で、満タンになると尿意が起こります。ところが、尿が出にくく1回に20~30ccしか排尿できない場合は、膀胱に100cc以上の残尿があるので、すぐに膀胱が満杯になって頻繁に尿意が起こり、尿が出すぎて困ると感じるようです。なかには1日50回もトイレに行くと訴える人もいます」

対策1 薬物療法で対処

患者さんにとっては日常生活に関わる一大事だが、対策はあるのだろうか。

「がん自体の治療として、抗アンドロゲン薬(カソデックスなど)によるホルモン療法を行うと、肥大している前立腺も2割程度縮小し、尿道の圧迫が取れて排尿しやすくなります。また、ホルモン療法の効果が表れるまでの期間や、効果がない場合などは、尿道の筋肉をゆるめて抵抗を和らげ、尿を出しやすくするα1ブロッカー(ハルナールなど)を使います」

対策2 手術で尿道を削る

■図2 経尿道的前立腺切除術

「前立腺がんが進行、再燃してホルモン療法や薬物療法で対応できなくなった場合、1年以上の予後が見込めるときには、TUR-P(経尿道的前立腺切除術)という手術を検討します。尿道に内視鏡を挿入し、尿道の内側から前立腺のふくらみにループをかけて削り取り、尿道を広げる術式です」(図2)

通常3~7日入院して行う。

対策3 カテーテルで導尿

「治療をしても症状が改善されず、残尿が多い場合は“慢性尿閉”といって、腎臓の腫れを引き起こす危険性があります。残尿が1日100ccを超えるときは、導尿といってカテーテル(細い管)を尿道から膀胱に入れて強制的に排尿し、1日1回は膀胱を空にする必要があります。目盛をつけた紙コップなどで尿の量を測り、排尿日誌をつけて主治医に示し、導尿が必要かどうか相談してみましょう」(図3)

■図3 排尿日誌の例
紙コップなどで尿の量を測り、排尿の状況を確認するのに役立つ

カテーテルによる導尿には「自己導尿」と「カテーテル留置」の方法がある。

自己導尿用のカテーテルは、直径4mm前後、長さ30cm程度の管で、この管を尿道から膀胱まで挿入し、先端のキャップをはずすと膀胱に溜まった尿が自然に出てくる。

「自力で全く排尿できない人は、1日4~5回自己導尿します。少しでも排尿できる人は、朝晩2回または夜1回だけ自己導尿をして残った尿を排出します」

一方、カテーテル留置は、医師や看護師の手で行われる。上端に風船がついているバルーンカテーテルを尿道から膀胱に入れ、膀胱に届いたところで風船をふくらませて固定し、ペニスの先から管の下端を出しておくもので、ひと月に1回程度交換する。自分で挿入する面倒がなく、管の先端のキャップを取ればいつでも排尿できる。また、貯尿袋をつけておけば、頻繁にトイレに通わなくて済むが、自己導尿より細菌感染のリスクが高いという。

「健康のためには自己導尿をお勧めしますが、カテーテル留置を希望される方もいらっしゃいます。主治医と相談して選択してください」

対策4 膀胱ろうなどを造設

「手術に抵抗がある人や、バルーンカテーテルを入れにくい人、寝たきりになった場合などは、膀胱に直接管を入れて膀胱ろうをつくるという選択肢もあります。手術の時間は15分程度で、3日目から入浴も可能です。管は4~6週間に1回交換します」

カソデックス=一般名ビカルタミド ハルナール=一般名タムスロシン

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