人工肛門は避けたい。肛門温存手術は可能か
今年に入って、直腸がんがわかりました。主治医によると、がんが肛門近くにあり、手術でがんの部分を取り切るため、人工肛門になると言われて、ショックを受けています。私自身、まだ会社勤めをしており、正直、人工肛門になることは避けたいです。本などで調べてみると、肛門を温存できる手術があると知りました。どういった場合に肛門温存手術が適応となるのでしょうか。ちなみに、私のがんは、肛門から5センチ程度離れているということです。
(石川県 男性 57歳)
A がんの進行による。ただし、機能低下はあり得る
がんの進行がまだ進んでいない状態であれば、十分肛門を温存できる手術はできます。ここでいう進行とは、がんの大きさや周囲への浸潤の程度を指します。
ご相談者は、がんが肛門から5センチ程度離れているということですが、一般的にがんの大きさが8センチ以上だと、肛門を温存する手術は難しいでしょう。一方で、3センチ以下であれば、温存手術は可能かと思います。その間の3~8センチの場合は、がんのある位置などによって、ケース・バイ・ケースだと考えられます。
またがんが、肛門の周囲にある肛門括約筋に浸潤している場合、人工肛門は避けられませんが、浸潤していなければ、肛門を残す手術ができる可能性はあります。
一方で、がんを少しでも小さくしてから肛門を残す手術を試みる方法もあります。これは、放射線をあててがんを小さくし、それから手術をするという方法です。ただし、術前放射線療法の第1の目的は局所での再発予防であり、肛門を残すことではありませんので、放射線をあてて肛門温存手術を行った場合、肛門機能の低下が考えられ、なかには、たとえ肛門を残せたとしても、おむつを常時使っていないといけないという人もいらっしゃいます。
今、人工肛門の装具はかなり発達していて、上手に使えば、生活に支障が出ることはほとんどありません。とくに山登りなど、アウトドアの趣味がある方には、私自身、患者さんに対して、無理やり肛門を温存する手術は勧めていません。なぜなら、山登りなどでは、トイレがない所も多く、むしろ人工肛門にして、時間で管理するほうが楽だからです。
人工肛門にするということで、そのときは泣かれる患者さんも多いですが、その後何年か経って、多くの人が「ゴルフに行ってきました」「キャンプに行ってきました」とうれしそうに話されています。
ご相談者は、会社勤めとのことですが、営業の外回りなど、いつでもトイレに行けるような状態とは限らないのであれば、無理に肛門を残さないほうがいいかと思います。
とくに、進行がんの場合に、術前放射線療法を行ってがんが小さくなったとしても、肛門を残す手術はお勧めできません。
もちろん、早期のがんで、放射線療法を行わなくても肛門を残す手術が行える場合には、術後の時間経過にともなって機能が回復することもありますので、温存手術を行うことも十分考えられます。