治療後の免疫力低下などの副作用を配慮しながら

「食べる幅を広げる」工夫が、生きる意欲を養っていく

監修●小松美佐子 東京都立駒込病院栄養科 栄養科長・管理栄養士
取材・文●福田いつみ
発行:2014年5月
更新:2014年11月

  

「口から食べることはとても重要。それを医療者、家族みんなで支えましょう」と話す小松美佐子さん

骨髄移植後の血液がんの患者さんは、GVHD(移植片対宿主病)の併発等により、口腔粘膜の炎症に悩まされることが多い。しかし〝食べることが苦痛〟という状態から〝食べる喜び〟を取り戻すことは、心身の回復にもつながっている。厳しい条件の中でも、どんな工夫をすれば〝食べる〟ことができるのか、専門家に聞いた。

生物禁食でも食べられるフルーツも

表1 移植前後の食事の流れ

血液がんは他のがん種に比べ化学療法での奏効性が高いため、治療も化学療法中心に行われる。その一方で、血液がんの化学療法は、消化器症状や骨髄抑制による免疫力低下など様々な副作用を招き、患者さんの負担が大きい。さらに骨髄移植を受けた後に、合併症としてGVHDを併発するケースもある。「骨髄移植を受ける患者さんの場合、食事は、移植前の『一般治療食(生物禁食)』→移植時の禁食→移植後の『移植食』・『単品食』→白血球数や全身状態がやや安定すると『生物禁食』→安定すると『一般治療食』・『特別治療食』と推移します(表1)。

当院では、『移植食』は無菌室の患者さん用のものと、化学療法で免疫力が低下している患者さん用のものに分けられ、年間約8~9千食が提供されています。2014年2月の累計では、移植食合計で867食、生物禁食は1,774食でした」と、都立駒込病院栄養科長の小松美佐子さんは話す。

移植食の特徴は、免疫低下による感染症予防のため、提供する食品に制限があることと(表2)、配膳方法にも万全の注意が払われることだ(表3)。

表2 移植食、生物禁食の特徴
表3 移植食、生物禁食の配膳方法

「いわゆる生もの(生野菜、生魚)、漬物などの発酵食品、イチゴ、サクランボ、ブドウなど皮の薄いフルーツ、マヨネーズで和えた料理等は感染症リスクから出せませんし、酢の物など酸味の強い料理も禁止です。

ただ、生物禁食というと、すべてのフルーツがだめと思われる方もいるのですが、オレンジやミカン、リンゴ、メロン、スイカなど無傷で皮の厚いフルーツの果実部はほぼ無菌状態です。

食欲は無いがフルーツだけは食べたいという患者さんの声もありますので、提供可能なフルーツは配膳前にオゾン水、または次亜塩素酸Naで消毒し、ラップをかけた上でお出しします。

一般的に禁食に入ることの多い梅干しも、電子レンジにかけることで殺菌可能なので、その状態でお出しします。

元気な人でも、あれもダメ、これもダメと言われたら意気消沈するもの。ただでさえ食欲のない患者さんは尚更ですから、どうしたら食べたいものを食べられるか、制約のある中でどう幅を広げていくかという点からメニューを考えます」

GVHD(graft versus host disease)=移植片対宿主病。造血幹細胞の同種移植や臓器移植などの治療に伴う合併症。ドナーの移植した骨髄に含まれる白血球が、患者さん自身の体を攻撃する免疫反応が起こり、皮膚や肝臓、消化管などにさまざまな症状が出る
生物禁食=化学療法等で、感染症に対し抵抗力が弱くなっている患者さんの食事
移植食=白血病や再生不良性貧血などの血液疾患で骨髄移植を行うために移植室で治療している患者さんの食事

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