白血病とは:治療~現状~診断
【治療】高齢の白血病患者でも治療できる、さい帯血ミニ移植
患者自身の免疫反応で白血病細胞を死滅させる
ドナーの負担もなく55歳以上でも移植が可能
虎の門病院血液科部長の
谷口修一さん
母親と赤ちゃんを繋ぐへその緒や胎盤に含まれるさい帯血を移植することで、
骨髄移植と同等の効果を上げる、さい帯血移植が注目を集めている。
さい帯血移植には『造血細胞の増殖能力が高く、異常反応が少ない』『白血球型が一部不適合でも移植可能』『ドナーの負担がない』など、骨髄移植に勝るメリットが多い。虎の門病院血液科部長の谷口さんらは、これに移植前の放射線照射と抗がん剤の投与を最小限(ミニマム)におさえ、患者自身の強い免疫反応によって白血病細胞を死滅させるミニ移植を加えた治療で、良好な成績を上げている。
HLAが少し異なっても移植が可能
白血病や悪性リンパ腫など血液のがんを根治させる切り札として造血幹細胞移植という治療法がある。白血病などに冒された白血球などの素になる造血幹細胞ごと死滅させ、健康な提供者(ドナー)から譲られた造血幹細胞にそっくり入れ換えて治す方法だ。
「骨髄移植がもっともよく知られた造血幹細胞移植ですが、さい帯血ミニ移植は患者さんにとって移植を受けられる可能性がもっとも高く、患者さんの肉体的負担がもっとも少ない最新の造血幹細胞移植の方法です」と、虎の門病院の血液科部長の谷口修一さんは指摘する。
さい帯血ミニ移植で用いられる造血幹細胞は、お母さんの胎盤と赤ちゃんを繋ぐ臍の緒(さい帯)に含まれる血液(さい帯血)の中に含まれている。このさい帯血の採取には、全身麻酔が必要な骨髄の採取のようなドナーへの負担がないという大きな利点がある。
赤血球にABO式の血液型があるように、白血球にもHLAという型がある。移植の際に重要となるのはドナーと患者のHLAだが、骨髄移植などは原則としてHLAが完全に同じものでなければならない。しかし、さい帯血から採取される造血幹細胞なら、少し異なっていても移植できるという特長があり、それだけ患者にとっては移植を受けられる確率が高まる。
「骨髄移植や末梢血幹細胞移植は原則として6つあるHLAの型すべてが合わなければ移植できませんが、さい帯血移植は6つのうち5つ、あるいは4つが一致すれば移植できます。いわば、これまでの造血幹細胞移植の『HLAの壁』を打ち破り、90パーセント以上の確率で造血幹細胞の移植ができるのです」(谷口さん)
一方、移植の直前に行う抗がん剤投与と放射線照射のやり方によって造血幹細胞移植は大きく2つに分けられる。1つは抗がん剤の大量投与と放射線の大量照射によって白血病細胞を死滅させることに力点を置いた従来の方法だ。
「もう1つは抗がん剤投与と放射線照射をごく軽いものにとどめるミニ移植です。移植した造血幹細胞からつくられる白血球(リンパ球)による強い免疫反応で、白血病細胞を死滅させることに力点を置いた移植法です」(谷口さん)
抗がん剤投与と放射線照射が少ないため、それだけ副作用はわずかなものとなる。そのため55歳以上の高齢患者にも移植が可能となり、いわば「年齢の壁」を打ち破り、高齢患者に造血幹細胞移植の移植の道を拓いたのがミニ移植である。
最小限にとどめられる抗がん剤の副作用
坂井清二さん(仮名)が急性骨髄性白血病を再発させたのは3年前のことだった。骨髄異形成症候群から移行・進展した高齢者に多い急性骨髄性白血病で、造血幹細胞移植しか治癒の道はないと告げられた。
しかし、残念なことに坂井さんには、造血幹細胞移植を受ける道が閉ざされていた。移植を成功させるにはHLAの合うドナーから造血幹細胞の移植を受けなければならないが、家族や骨髄バンクにHLAが合うドナーが見つからなかった。加えて、62歳という高齢のため、移植の前に行われる抗がん剤の大量投与と放射線の大量照射に耐えられないと判断されたからだ。
坂井さんは失意のうちに暗澹たる日々を送っていたが、そんな坂井さんに新たな光明をもたらしたのがさい帯血ミニ移植である。さい帯血バンクにHLAのわずかに異なるさい帯血が保存されていたため、「さい帯血ミニ移植を受けてみませんか」と主治医からアドバイスされた。治癒の道が残されていない坂井さんに選択の余地はなく、さい帯血ミニ移植を受けることになった。
さい帯血ミニ移植は具体的には次のような方法で行われる。
まず抗がん剤のフルダラビン(商品名フルダラ)を初日から5日間連続投与した後、6日目にメルファラン(商品名アルケラン)を追加投与する。7日目に全身に4グレイの放射線を照射する。8日目にドナーのさい帯血を腕の静脈から投与して移植する。
「移植したドナーの造血幹細胞が患者さんの身体に根づき、それから白血球が増えてくるのに平均約20日間要します。遅い患者さんは30~40日かかることもありますが、30日超えても白血球が増えてこないときは、移植造血幹細胞を排除しようとする患者さん自身の免疫力を抑えたり、さい帯血中のリンパ球の免疫力を高めたりする目的で、シクロスポリン等の免疫抑制剤の減量や増量を検討します」(谷口さん)
ミニ移植を受けた坂井さんは、その後、再発の兆候もなく元気に過ごしている。移植後まだ3年目にすぎないが、その予後に翳りは1つもない。
坂井さんが造血幹細胞移植を受けられたのは、さい帯血で「HLAの壁」を乗り越え、ミニ移植で「年齢の壁」を克服したからだ。
ミニ移植によって通常移植では適応外だった55歳以上の患者にも移植が可能となった
2002年からは成人の移植数が小児を上回っている
同じカテゴリーの最新記事
- ドナー不足を一気に解消したHLA半合致移植と移植後GVHDの新薬 白血病に対する造血幹細胞移植の最新情報
- 分子標的薬やCAR-T細胞療法などの開発で全ての血液がんに希望が 分子標的薬の新薬、次々登場で進化する血液がんの化学療法
- 日本血液学会が『造血器腫瘍ゲノム検査ガイドライン』を作成 「遺伝子パネル検査」によりゲノム情報は、血液がんの正確な診断・治療に必須
- 血縁ドナーによる骨髄移植の成果に迫る 臍帯血移植は、難治性血液がんを救う切り札になり得るか
- 白血病に対する新しい薬物・免疫細胞療法 がん治療の画期的な治療法として注目を集めるCAR-T細胞療法
- 血液がんの上手な日常での副作用管理 感染症対策が最重要。骨髄移植した患者はとくに注意を!
- 治療が長引く可能性も 血液がん患者の口腔ケアはセルフケアと専門医とのタッグが重要
- 造血幹細胞移植患者のリハビリは「継続する」ことが大切
- “不治の病”とされていた血液がん。治療法の進歩で、治癒が目指せるがんへ これだけは知っておきたい! 血液がんの基礎知識 白血病編
- 「不治の病」から「治癒可能な病」になったが、まだまだあなどれない これだけは知っておきたい白血病の基礎知識