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病変部と周辺組織の立体的位置を正確に表示
脳腫瘍手術の安全性を高めた画像支援ナビゲーション手術

監修:清木義勝 東邦大学医療センター大森病院脳神経外科教授
取材・文:柄川昭彦
発行:2007年4月
更新:2019年7月

  
清木義勝さん
東邦大学医療センター
大森病院脳神経外科教授の
清木義勝さん

東邦大学医療センター大森病院の脳神経外科では、先進医療として「画像支援ナビゲーション手術」を行っている。

この手術で使われるニューロナビゲーターは、自動車の道案内に用いられるカーナビゲーションシステムのようなもの。

病変部と周辺組織の立体的位置を正確に表示してくれるため、安全に病変部を取り除くことができるようになった。

脳腫瘍の治療で成果をあげているという。

カーナビのように手術の道案内をする

脳腫瘍の手術では、胃がんや肺がんなどの手術のように、病変部の周辺組織を大きく切除するわけにはいかない。根治を目指す手術であっても、脳の組織を大きく切除すれば、その部位の果たしていた機能が失われることになるからだ。手足の運動をつかさどる部位や言葉をつかさどる部位を切除すれば、手足の動きや言葉が失われてしまう。そのような事態を招かないためには、周辺組織をできるだけ残しながら、病変部をきれいに切除することが必要になる。

こうした要求に応えるために開発されたのが、厚生労働省が先進医療として認可している画像支援ナビゲーション手術だ。東邦大学医療センター大森病院では、2005年4月から、脳神経外科でこの手術が行われている。同科教授の清木義勝さんは、この手術について、次のように説明してくれた。

「この手術で用いられるニューロナビゲーターという医療機器は、車に取り付けるカーナビのようなものだと思っていただけばいいでしょう。病変部とその周囲を立体的に描き出してくれるので、手術するときに、どこを切開して、どのように進めば安全に病変部まで到達できるのか、といったことが一目瞭然です。
また、病変部の広がり、重要な神経や血管の位置、さらには手術している部位をリアルタイムで正確に表示してくれるので、神経や血管を傷つけることなく、病変部を残さず切除するのにも役立っています」

画像支援ナビゲーション手術は、病変部を切除するときの精度を高めるだけでなく、安全性の向上にも役立っている。脳血管障害を含め、脳神経外科の手術で幅広く使われているが、脳腫瘍の治療においてとくに有用な技術だという。

東邦大学医療センター大森病院では、13万円の費用でこの手術を行っている。

専門医の経験と勘を機械がカバーする

写真:画像支援ナビゲーション手術

頭皮にマーカーを貼りつけてからCTかMRIの撮影を行い、そのデータをニューロナビゲーターに入力して手術が始まる

では、ニューロナビゲーターを使うと、どうして脳内を立体的に描出することができるのだろうか。そのメカニズムについて、簡単に説明しておこう。

この手術を受ける患者さんは、頭に8個のマーカーを貼り付けた状態で、CTあるいはMRIの検査を受ける。マーカーは直径15ミリの円形のシールで、これを頭皮にアトランダムに貼り付けておく。この状態で1ミリ間隔の断層撮影を行い、画像データをニューロナビゲーターに入力すると、3方向の断面画像(水平断、矢状断、前額断)と立体画像が描き出される。一緒に撮影した8個のマーカーとの位置関係を計算することで、CTやMRIの画像データから、病変部を含む立体画像をつくり出すことができるわけだ。

また、ポインターを使うことで、手術している部位が、表示されている画像のどこに相当するのかも明らかになる。ポインターの本体には発光ダイオードが付けられていて、そこからの信号を、ニューロナビゲーターの感知システム(アンテナのように伸びた部分)がキャッチ。その情報から、ポインターの先端が脳の立体画像のどこに位置するのかをリアルタイムで示してくれるのだ。

画像支援ナビゲーション手術は、まさにカーナビを使ってドライブするようなもの。現在位置が常に明らかになっているので、安全に手術を進めることができる。

「この技術が開発されるまで、手術する医師は、CTなどの平面画像を見ながら、立体画像のイメージをつくっていました。2次元の情報から、3次元の空間をつくり上げていたわけですね。何枚もの画像から、どこに何があるのかを読み取って、病変部を切除するためには、頭蓋のどこに穴を開ければいいのかも決めていました。
医師の経験と勘に支えられていたそのような仕事を、ニューロナビゲーターはほぼ完璧にこなしてくれます。あまりにも便利なので、脳外科医の教育という点では問題がありそうですが、手術の安全性という点では大きな意味があると思います」

清木さんによれば、脳神経外科の手術においては、ワーキングアングルがとても重要なのだという。どこを切開し、どの角度で手術を進めていけば安全に病変部を切除することができるのかを考え、最適のワーキングアングルで手術を始める。これを間違えてしまうと、骨がじゃまになって病変部を切除できないなど、さまざまなトラブルが起きることになる。

「ニューロナビゲーターの立体画像は自在に回転して、最適のワーキングアングルで病変部を見せてくれます。どこから切開すればいいのか、一目瞭然ですね」

画像支援ナビゲーション手術は、専門医の高度な技術と勘に支えられていた仕事を、機械でカバーする手術なのだ。


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