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他のがん種よりも早期介入が必要 目を逸らさずに知っておきたい悪性脳腫瘍の緩和・終末期ケア

監修●青木友和 独立行政法人国立病院機構京都医療センター緩和ケア科長・脳神経外科医長
取材・文●植田博美
発行:2019年4月
更新:2019年7月

  

「終末期を、どこで、どう過ごしたいか。怖がらずに担当医や家族とよく話し合って、悔いのない時間を過ごしてほしいです」と語る青木友和さん

希少がんである悪性脳腫瘍。治療を尽くすことはもちろんだが、同時に緩和・終末期ケアについて冷静に考えておくことは、患者だけでなく家族のためにも大切ではないだろうか。しかし、悪性脳腫瘍の緩和・終末期ケアに関する情報は、世界的に見てもまだ少ない。ヨーロッパでは2017年に欧州脳腫瘍学会(EANO)が成人神経膠腫(しんけいこうしゅ:グリオーマ)の緩和ケアガイドラインを発表したが、日本での研究報告はまだほとんどないという。

京都医療センター(京都市)脳神経外科医長の青木友和さんは、脳神経外科医として治療に取り組みながら、緩和ケア科長として終末期の患者さんと日々接している国内でも数少ない存在だ。悪性脳腫瘍の緩和・終末期ケアの現状と問題点を伺った。

グリオーマ=脳腫瘍の1つ。神経膠腫(しんけいこうしゅ)とも呼ぶ。グリオーマは、さらに膠芽腫(こうがしゅ)、退形成性星細胞腫、退形成性乏突起膠腫などさまざまな種類に分類される

早い時期から介護やサポートが必要になる悪性脳腫瘍

150種類以上に分類できるという原発性脳腫瘍だが、そのうち最も悪性度が高く、かつ脳腫瘍全体に占める割合が比較的高いのが、グリオーマの一種である膠芽腫だ。

脳腫瘍には他のがんのようなステージ分類はなく、悪性度は1から4のグレードで表される。膠芽腫は最も悪性度の高いグレード4。高齢者ほど発症頻度が高く、患者の年齢中央値は62歳である。

「膠芽腫の生存期間中央値は14~16カ月、高齢者では12カ月を満たしません。5年生存率も極めて低いです。予後が1~2年ということは、診断が下された時点で終末期ということになります。患者さんやご家族は医師とよく話し合って、悔いのない選択をしていただきたい」と、青木さんは厳しい現実を語る。

膠芽腫は大脳に発生し浸潤していくため、初期のころから高次機能障害や麻痺(まひ)、言語・視野の障害、認知機能の低下、てんかん発作などを伴うことが多く、介護やサポートが他のがんより早い時期から必要となるのが特徴だ。

「一般的ながんは、亡くなる直前にQOL(生活の質)が急激にストンと低下するイメージですが、膠芽腫などの悪性脳腫瘍は発病から徐々になだらかに低下していきます。そして、およそ半年から1年で自立できなくなる。認知機能が低下してコミュニケーションが難しくなっていきます。この部分が、実は患者さんにとっても家族にとっても非常に重要な問題なのです」(図1)

どういうことだろうか?

「身辺整理ができなくなる、ということです。例えばお金に関すること。銀行口座や金庫、パスワードや認証番号、遺言、こういったものが管理できなくなります。他のがんであれば体は衰弱していても頭はしっかりしていますから、家族に頼むこともできるでしょう。しかし脳腫瘍では『あれ? 変だな』と自覚し始めた時にはもう遅いのです。正常な判断ができなくなる時期が予想以上に早くやってくるので、早めの準備が肝心です」

がん治療の「光と影」

日本には悪性脳腫瘍の緩和ケアに関する報告がほとんどない。そこで青木さんは昨年(2018年)、全国の日本脳腫瘍学会所属医師に緩和ケアに関するアンケートを実施した。約150人から回答を得たという。

「そこで分かったのは、本人・家族を含めて説明をしっかり行っている医師が10年前と比べて確実に増えている、ということです。傾向として、より具体的、詳細に説明していると感じました。

残念なのは、痛み止めとしてのモルヒネ(オピオイド)の使用が極めて少ないこと。海外ではほぼ100%使われている鎮痛薬ですが、日本では患者さんのモルヒネに対する悪いイメージが根強いのと、使い慣れていない医師も多いのかもしれません。医療用モルヒネは正しく使えば痛みがよくとれて食欲も回復するので、そのようにきちんと説明するべきなのですが。

また、意識がなくなって食べられなくなった患者さんに対する経鼻栄養も多いです。膠芽腫の患者さんは意識がなくなっても体は元気ですから、つい医師は行ってしまうのです。けれども、経鼻栄養の状態で意識がないまま何カ月も生きながらえているのが、本人にとって本当に過ごしたかった最期なのかを考えると、疑問が残ります」

青木さんは、がん治療に関するこんな問題も語ってくれた。

「日本では、患者さんが病気と最後まで闘って玉砕するパターンが今でも多いのです。それは、良い薬が増えているからでもあります。だからこそ、諦めずに最後まで治療を続けるのですね。そうやってがんばって、最後はボロボロになって緩和ケア病棟に来られる患者さんをたくさん診てきました。そういう方に接すると、果たして最後まで治療してよかったのだろうか、これがこの患者さんの本当の望みだったのだろうか…と。がん治療の『光と影』と言えるでしょう」

がん治療と緩和ケアの両方に携わる青木さんならではの、シビアな指摘かもしれない。

経鼻栄養=鼻から胃へ挿入したチューブから栄養剤を注入すること

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