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進行別 がん標準治療 神経膠腫は、できるだけ多くの腫瘍を取り、放射線と抗がん剤の併用療法が基本

監修:長島正 帝京大学付属市原病院脳神経外科教授
取材・文:祢津加奈子 医療ジャーナリスト
発行:2004年8月
更新:2019年7月

  
長島正さん
帝京大学市原病院脳神経外科
教授の長島正さん

脳腫瘍は、脳の組織の中に異常な細胞が増殖する病気です。人口10万人に対して12、13人がなるといわれています。
良性と悪性と両方ありますが、大きくなればどちらも脳を圧迫し危険を伴うことに変わりありません。これが脳腫瘍治療の難しいところです。
脳腫瘍のもう一つ難しいところは、種類が多く、複雑多岐にわたり、その種類によって治療法がそれぞれ異なっていることです。

このような点に注意しながら、帝京大学医学部付属市原病院脳神経外科教授の長島正さんに脳腫瘍の標準治療をガイドしていただきます。

脳腫瘍治療の標準化が遅れた理由

顕微鏡下に腫瘍を摘出している(マイクロサージェリー)
顕微鏡下に腫瘍を摘出している
(マイクロサージェリー)

脳腫瘍の大きな特徴は、良性であれ悪性であれ手術による摘出が基本であること、そして脳という重要な器官にできる腫瘍であるため、腫瘍の摘出はもちろん、治療には大きな制約を伴うという点です。実は、これが脳腫瘍治療の標準化を遅らせている大きな原因にもなっているのです。

脳腫瘍は、頭蓋骨に包まれた部分に発生する腫瘍全ての総称です。この中には、脳の実質部分(神経細胞やグリア細胞など)に発生する腫瘍と、脳を包むクモ膜や硬膜、血管、脳下垂体、脳神経など脳の実質部分以外に発生する腫瘍があります。これらを全て脳腫瘍と総称するわけです。

腫瘍を構成する細胞の性質や形も多様で、世界保健機関(WHO)の分類によると、実に115種類にも細分化されています。もっとも帝京大学医学部付属市原病院脳神経外科教授の長島正さんによると「この中で発生頻度が高く、日常的に診る機会が多い脳腫瘍は10種類ほど」だそうです。

3分の2が良性腫瘍、3分の1が悪性腫瘍

この中には、良性腫瘍も悪性腫瘍も含まれています。長島さんによると「脳腫瘍のおよそ3分の2は良性腫瘍で、これらは脳の実質以外から発生するものが多い」そうです。クモ膜など脳を包む髄膜に発生する「髄膜腫」、ホルモン産生を制御する脳下垂体に発生する「下垂体腺腫」、聴神経など神経の束をくるむ皮膜にできる「神経鞘腫」などがその代表です。この三つは、脳腫瘍の中で最も頻度が高い腫瘍でもあります。

一方、悪性腫瘍は、脳の実質、つまり脳そのものから発生することが多いそうです。その代表が神経膠腫(グリオーマ)です。これは、脳の神経細胞を支えてその働きを助けるグリア細胞(神経膠細胞)ががん化したもので、細胞の形から名づけられた星細胞腫瘍群が最も多く、それらはさらにびまん性星細胞腫、退形成星細胞腫、膠芽腫に分類されています。そして、この順に悪性度が高くなります。遺伝子変異が蓄積されて、しだいに悪性化してゆくと考えられています。

この他、頭蓋内にはあらゆる臓器にできたがんが転移する可能性があります。これが転移性脳腫瘍です。転移性脳腫瘍や脳に発生した悪性リンパ腫も悪性脳腫瘍の一つです。この転移性脳腫瘍に対して、最初から頭蓋内に発生した脳腫瘍は原発性脳腫瘍と呼ばれます。

脳腫瘍の場合、日本では、まだ胃がんや乳がんなど他のがんほど、治療の標準化は進んでいません。実際には、「腫瘍のステージ分類も提唱されたばかりで、まだ完成していないのが現状です」と長島さんは語っています。冒頭でお話したように、脳腫瘍は脳という命をつかさどる臓器にできる腫瘍です。部位や腫瘍の性質によっては、摘出によって命に関わったり、重大な後遺症を残すことになります。そのため、「医師によって治療の考え方が異なり、今ようやく標準化に向けての動きが始まったところ」(長島さん)だと言います。

[脳・脊髄の仕組み]
脳・脊髄の仕組み

検査と診断

年齢、性、発生部位、症状を知ることが重要

脳に腫瘍があるかどうかは、画像診断で割合簡単に診断することができます。長島さんによると「CTで8~9割はわかります。MRI(磁気共鳴画像診断装置)を用いて造影剤を静脈から注入して検査を行えばほぼ100パーセント診断がつく」そうです。この二つの検査で、腫瘍の性質や広がりまで、おおよそが把握できます。脳腫瘍は、発生する部位によって種類がかなり絞られるのです。

さらに、ここで腫瘍の種類を知るために重要な指標になるのが患者の年齢、性、症状などの問診です。脳腫瘍は、詳しく言えば115種類に分類されますが、その中で発生頻度の高いものは限られています。また、脳腫瘍はその種類によって発生しやすい年齢や性があります。そして、腫瘍のできる部位によって症状は異なり、特徴的な症状を示すこともあります。こうした問診結果によって専門医はどのタイプの脳腫瘍である可能性が高いかが判別できるのです。

[脳腫瘍の主な種類]
脳腫瘍の主な種類
[脳腫瘍の種類と発生頻度]

全脳腫瘍(転移性腫瘍を含む)
種類
髄膜腫 21.7
転移性脳腫瘍 17.6
下垂体腺腫 14.3
神経膠腫 8.6
膠芽腫 7.4
びまん性星細胞腫 6.5
退形成星細胞腫 2.8
頭蓋咽頭腫 2.8
胚細胞腫 2.5
悪性リンパ腫 2.2
血管芽腫 1.5
髄芽腫 1.0
乏突起膠腫 1.0
上衣腫 0.7

(Special Report of Brain Tumor Registry of Japan 1969-1993)

年齢と性

脳腫瘍は、子供から大人まで広くみられますが、それぞれ発症にピークがあります。表のように子供では、髄芽腫や胚細胞腫が多く、15歳未満ではびまん性星細胞腫が一番多いそうです。大人になると神経鞘腫や髄膜腫、膠芽腫などが増えてきます。退形成星細胞腫、びまん性星細胞腫も大人で頻度の高い脳腫瘍です。

また、発生頻度に性差がはっきりしている脳腫瘍もあります。たとえば、胚細胞腫は3.3対1の割合で男性に多く、髄芽腫や膠芽腫なども男性にやや多い脳腫瘍です。これに対して、髄膜腫や下垂体腺腫、神経鞘腫などは、女性のほうが多くなっています。ということは、女性のほうが脳の実質以外にできる良性腫瘍が多い傾向があるわけです。

[脳腫瘍の年齢別頻度]
脳腫瘍の年齢別頻度
[脳腫瘍の部位別発生頻度]
部 位 好発腫瘍:( )は%
大脳半球*1 転移性脳腫瘍(30.7),膠芽腫(26.1),びまん性星細胞腫(16.8),退形成星細胞腫(12.7),悪性リンパ腫(4.7)
脳幹部 びまん性星細胞腫(22.4),退形成星細胞腫(15.1),膠芽腫(14.1),転移性脳腫瘍(10.3),悪性リンパ腫(15.1)
側脳室 髄膜腫(21.1),びまん性星細胞腫(14.1),転移性脳腫瘍(12.4),上衣腫(8.4),脈絡乳頭腫(7.4)
第3脳室 頭蓋咽頭腫(34.6),びまん性星細胞腫(15.5),胚細胞腫*2(13.4),下垂体腺腫(7.2),髄膜腫(10.2)
トルコ鞍近傍 下垂体腫瘍(68.9),頭蓋咽頭腫(14.1),胚細胞腫(3.2)
小脳・第4脳室*3 転移性脳腫瘍(31.4),血管芽腫(19.3),髄芽腫(14.7),びまん性星細胞腫(12.4),上衣腫(6.4)
小脳-橋角部 神経鞘腫*4(76.9),髄膜腫(13.5),類上皮腫(5.3)
*1 実質外腫瘍を含めると髄膜腫が1位
*2 ジャーミノーマ+奇形腫
*3 実質外腫瘍を含めると髄膜腫が4位
*4 90%以上は聴神経腫瘍
(Special Report of Brain Tumor Registry of Japan 1969-1993)

症状

脳腫瘍は、良性でも悪性でも脳を圧迫し、その部分の機能を障害してさまざまな症状を現します。

てんかん、頭痛、嘔吐、吐き気、視力低下、視野の狭窄、ものがダブってみえる、手足のマヒ、めまい、さらには月経不順や肥満、末端肥大症などの内分泌症状など、その症状は多彩です。こうした症状は、いつのまにか現れ、徐々にではありますが、確実に進行していくのが脳腫瘍の特徴です。

こうした症状によっても、どの部位に発生したどういう種類の脳腫瘍かを推定することができます。

こうした画像診断や問診の結果によっておおよその見当をつけ、種類によっては腫瘍マーカーによる確認を行うこともあります。そして、手術戦略のためにシンチグラフィや脳血管撮影などの検査が行われます。最終的な脳腫瘍の鑑別には、組織をとって顕微鏡的に検査を行う生検が必要になりますが、これはほとんどの場合脳腫瘍の摘出手術と一緒に行われます。

悪性と良性の違い

脳腫瘍が良性なのか、悪性なのか。これにもいろいろな考え方がありますが、一般的には生物学的に成長が早いか、遅いかによって区別されます。しかし、脳腫瘍の場合は脳実質に腫瘍ができた場合は、手術による摘出が難しく、これが命にも関わってくるので悪性とも言えます。逆に、実質以外にできた腫瘍は、手術でとりやすいので良性とも言えます。

長島さんによると実際には脳実質から発生する腫瘍は生物学的にも悪性度が高いことが多く、実質以外から発生する脳腫瘍は成長が遅く良性のものが多い傾向があるそうです。ただし、必ずしも全ての脳腫瘍がこうした分類に当てはまるわけではありません。


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