サンアントニオ乳がんシンポジウム 2013
最新の臨床試験結果が報告される 脳転移後の日本人長期生存者の解析データにも注目
乳がん領域の国際的な学会であるサンアントニオ乳がんシンポジウム(SABCS)。昨年12月に開かれたSABCS 2013の中から、注目された日本人研究者の発表をリポートするとともに、同学会発行のプレスリリースの中から話題を拾った。
レポート1 HER2陽性症例では脳転移後も長期生存率が高い
乳がん患者さんの10~15%で起こる「脳転移」は、薬物療法の効果が得られにくいとされている。放射線治療などで対処しつつも、脳に転移すると予後は芳しくなく、乳がん治療の課題となっている。今回のシンポジウムで、脳転移をもつHER2陽性乳がん患者さんでは、脳転移後の生存期間が大きく改善しているとの報告が行われた。
がん・感染症センター都立駒込病院外科(乳腺)の本田弥生さんらは、2000年から2010年までに同院で脳転移と診断された乳がん患者さん63人について、長期生存の患者さんの傾向を把握するために、臨床病理学的な特性を解析した。
解析は、脳転移の診断から36カ月以上生存している「長期生存群」と、生存期間が36カ月未満の「短期生存群」の2群を比較する形で行った。
その結果、ホルモン受容体陽性と陰性の割合は、長期生存群で55%と45%、短期生存群では38%と62%で、両群間に有意差はなかった。
一方、HER2陽性と陰性の割合については、長期生存群では73%と27%、短期生存群では17%と83%となり、長期生存群に占めるHER2陽性患者さんの割合が有意に高く、HER2陽性は脳転移後の長期生存と関連する因子であることが判明した。
また、HER2陽性群、ホルモン陽性・HER2陰性群、ホルモン・HER2陰性群の3群で脳転移後の生存期間を比較したところ、HER2陽性群では有意に脳転移後の生存期間の延長がみられた(図)。
このほか、脳転移後の長期生存と関連する要因として、最初の診断から初回再発までの期間(DFI)が長いか短いか(24カ月以上か未満か)、全身状態(KFSスコア70%以上か未満か)などが挙げられた。
長期生存群には、脳転移後144カ月以上の生存期間を示す患者さん2人が含まれており、両者とも原発腫瘍は、ホルモン陰性、HER2陽性であった。後者の患者さんに対しては、脳転移に対して手術や放射線放射線など治療のほかに、脳転移後も*タキソールと*ハーセプチンを併用投与し、その後ハーセプチン単独療法を長期継続している。
抗HER2薬が転移性HER2陽性乳がんに初めて使われるようになってから10数年が経過している。現在は術前後の補助療法にも適応が拡大され、HER2陽性患者さんのほとんどが抗HER2薬を使用している。
本田さんは「抗HER2薬によって、HER2陽性乳がんで脳
転移が認められる患者さんの生存期間が大きく改善する可能性がある」と述べている。
*タキソール=一般名パクリタキセル *ハーセプチン=一般名トラスツズマブ
レポート2 高齢乳がん女性の一部では放射線治療の回避が可能
ホルモン受容体陽性かつ腋窩リンパ節転移陰性で、乳房温存手術後にホルモン療法を受けている65歳以上の乳がん女性患者では、放射線療法(RT)の回避は正当な選択肢であることが、PRIME2試験結果で明らかになった。
同試験は、上記の条件を満たす対象1,326例をRT群658例、非RT群668例に無作為に割り付け、追跡(中央値4.8年)した。
主要評価項目として温存乳房内再発(IBTR)、副次評価項目としては局所再発、対側乳がん発症、遠隔転移、全生存期間(OS)を検討した。
その結果、OS、局所再発、対側乳がん発症において両群間に有意差は認められなかった。乳がんフリー生存率(RT群98.5% vs. 非RT群96.4%)には有意差を認めたが、これは温存乳房内再発が非RT群2.7%、RT群0.6%であったことが影響していると考えられた。
報告者である英エジンバラ大学エジンバラがん研究センター臨床腫瘍学教授のIan Kunkler氏は「選択した集団の中で、放射線療法を受けた女性100人につき、再発は1例、再発予防は4例、残り95例は放射線治療が不要であったことを意味する」と結論している。
レポート3 転移乳がん患者では化学療法後の局所療法による便益は得られない
転移乳がん患者で、初回化学療法に奏効した症例では、その後に局所療法(LRT:腫瘍摘出や近接リンパ節郭清などの外科的治療および放射線治療)を行っても、いかなる付加的なベネフィットは得られないとの前向き無作為化比較対照試験結果が報告された。
同試験では、転移乳がん患者で、治療対象の腫瘍が6 サイクルの化学療法に奏効した350例を、年齢、腫瘍サイズ、ホルモン受容体、HER2受容体状況、腫瘍拡大状態をマッチ(調和)させてLRT群173例、非LRT群177例に無作為に割り付けた。両群とも受容体に適応した標準的ホルモン療法を行った。主要評価項目は全生存期間(OS)。LRT群で9例、非LRT群で3例の試験プロトコル非遵守があった。
追跡期間中央値17カ月において、LRT群111例、非LRT群107例の死亡が認められた。OS中央値はLRT群18.8カ月、非LRT群20.5カ月。追跡2年後の全生存率はLRT群40%、非LRT群43.3%であり、両群間でOSの差は認められなかった。
報告者のインド・ムンバイのタタ記念病院長、Rajendra Badwe氏は「今回の試験で、両群間において全生存期間の差は認められなかった。LRT群での死亡率が7%過剰であったが有意差はなかった。しかし、初発(一次)腫瘍の外科的摘除は転移乳がんに対して大きなアドバンテージをもたらすとの従来の前臨床的知見に修正が必要なことを示唆するものである」と述べている。
レポート4 PIK3CA遺伝子変異はHER2陽性患者で治療抵抗性をもたらす
<無作為化第Ⅱ相試験「I-SPY trial」>
HER2タンパクおよびホルモン受容体が高レベルの乳がん女性で、がんのPIK3CA遺伝子に1つ以上の変異を有している症例では、化学療法薬およびHER2標的治療薬の術前治療(ネオアジュバンド療法)によるベネフィットが少ないことが報告された。(報告者:ドイツ/ノイ- インゼンブルク・ドイツ乳がんグループ教授、Sibylle Loibl 氏)
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