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進行・再発乳がん治療 「タキソール+アバスチン併用療法」を効果的に使う方法 症状のない期間を長く 乳がんになる前と同じ生活を目指す

監修●川口英俊 松山赤十字病院乳腺外科部長
取材・文●柄川昭彦
発行:2013年12月
更新:2019年9月

  

「患者さんが人生で大切にしているものを守れるよう治療を組み立てます」と話す川口英俊さん

乳がんが再発したとき、また進行して見つかった場合に、中心となる治療法は薬物療法だ。新薬の開発とともに、さまざまな治療選択肢が増え、それらをどう効果的に選ぶかが注目されている。今回は、がんを縮小させ、その状態を維持する効果で知られる「タキソール+アバスチン併用療法」の効果的な使用法について、多くの実践例をもつ医師に話を聞いた。

タキソール=一般名パクリタキセル アバスチン=一般名ベバシズマブ

薬物療法の進歩により生存期間が延びてきた

■図1 再発乳がんの生存率は向上している(米国MDアンダーソンがんセンター)(Chia et al: Cancer 110,2007より改変)
グラフは2007年までのデータをもとに作成されたもの。現在は生存率50%を超えていると考えられる

乳がんの薬物療法は、大きく2つに分けられる。1つは手術の前か後に行う治療。再発を防ぐのが主な目的である。もう1つは進行再発乳がんの治療だ。手術後に再発した場合や、発見された時点で手術できないほど進行している場合の治療である。

進行再発乳がんの治療では、基本的に完治は目指せない。そのため、診断を受けた患者さんは、精神的に落ち込んでしまいがちだ。そのような場面で、松山赤十字病院の川口英俊さんは、次のような話をするという。

「米国のMDアンダーソンがんセンターが2007年に出したデータですが、再発後に5年間生存した人の割合を示したグラフがあります(図1)。30年前に再発した人の5年生存率は約10%でしたが、10年前だと約40%になり、現在では50%を超えると言われます。こうした変化は薬物療法の進歩によるものなので、恩恵にあずかれるのは、治療を続けた人たちです。だから、諦めずに一緒に闘っていきましょう、という話をしています」

5年後には新しい薬が登場している可能性もある。闘う価値は十分にあるわけだ。

進行再発乳がんの治療で大切にすべきこと

進行再発乳がんに対して治療を続けていけば、半分の人が5年以上生存できる。

「大切なのは、ただ単に生存期間を延ばすことではなく、QOL(生活の質)を保ち、がんになる前となるべく同じ生活ができるようにしながら、生存期間を延ばすことです」

治療期間は長く、薬物療法も1次治療、2次治療、3次治療、4次治療……と、長く続くことになる。

「乳がん治療に当たる医師は『野球の監督のようなものだ』と、先輩の医師から聞かされたことがあります。自軍の戦力となる選手の力量や調子をよく把握し、相手の特徴も把握したうえで、先発投手を決めます。これが1次治療です。その投手が打ち込まれれば投手交代。こうして、2次治療、3次治療と繰り出していきます。悪い監督は行き当たりばったりの投手起用をしますが、いい監督は何通りもシミュレーションし、その患者さんにふさわしい治療を選択していきます」

がんになる前と同じような生活を目標にし、なるべくその期間を延ばす。そのために、多くの薬物療法の中から、最適と考えられる治療法が選択されるのである。

臨床試験で示された優れた治療成績

■図2 タキソール+アバスチン併用療法の効果(奏効率)(1 Gray R et al: J Clin Oncol 27, 2009, 2 Aogi K et al: Breast Cancer Res Treat 129(3), 2011)

進行再発乳がんに対する各治療法はそれぞれ、治療効果や対象、副作用などについて、さまざまな特徴をもつ。その中で、がんを縮小させ、その状態を維持する治療法の1つに、「タキソール+アバスチン併用療法」がある。タキソールはもともと単独で使われていた抗がん薬だが、これに分子標的薬のアバスチンを併用すると治療効果が高まることが、臨床試験で確かめられた。

海外の臨床試験では、タキソール単独療法と、タキソール+アバスチン併用療法の比較が行われた(E2100試験)。その結果、がんの増殖が抑えられていた期間を示す無増悪生存期間(PFS)は、タキソール単独療法群が5.8カ月だったのに対し、タキソール+アバスチン併用療法群は11.3カ月だった。

また、がんの径が30%以上縮小した患者さんの割合を奏効率というが、タキソール単独療法群の奏効率は22%。タキソール+アバスチン併用療法群の奏効率は50%だった(図2)。

タキソール+アバスチン併用療法の臨床試験は日本でも行われたが(JO19901試験)、その試験での奏効率は73.5%だった。

「この臨床試験には私も加わりました。4人のうち3人はがんが縮小するという結果ですが、この奏効率の高さが、タキソール+アバスチン併用療法の特徴なのです」

アバスチンはがん細胞の外側の環境に作用する

アバスチンは分子標的薬だが、これまでの分子標的薬とは作用が全く異なっている。

「一般的な分子標的薬は、がん細胞の内側に作用します。がん細胞が増殖するためのシグナルが、核に送られるのを止めることで、がんの増殖を抑えるのです。これに対し、アバスチンはがん細胞の外側の環境に作用して、がんの増殖を抑えます。がん細胞が増殖しにくい環境を作り出すことで、増殖を抑え込んでしまうのです(図3)」

タキソール+アバスチン併用療法は、4週間を1サイクルとして行われる。タキソールは週に1回、3週連続投与して、1週休む。アバスチンは2週間に1回の投与なので、タキソールの1週目、3週目と一緒に投与(併用投与)する(図4)。

■図3 乳がん治療薬の作用(→=作用)
■図4 タキソール+アバスチン併用療法のスケジュール

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