気持ちを切り替え、治療を継続するために
知っておきたい再発・転移乳がんの基礎知識
再発・転移をすると、根治が難しい乳がん。それでも、新たな薬剤が登場するなど、治療法は着実に増えている。治療の方針や目的を明確にし、前向きに治療をするためにも、再発・転移乳がんの基本的な点を把握しておきたい。
Q1 治療したのに再発・転移するのはなぜ?
乳がんは、比較的早期から全身に小さな転移(微小転移)を起こしやすいがんと考えられています。最初の治療のとき、手術でしこりを取るだけでなく、放射線や薬による治療を行うのも、体内のがん細胞を極力消滅させるためです。しかし、治療をくぐり抜けたがん細胞が増殖し、大きくなってから見つかるのが再発・転移です。
再発・転移には手術した乳房や周辺のリンパ節などで起こる「局所再発」と、手術をした乳房以外の場所で起こる「転移(遠隔転移)」があります。
局所再発は早く見つけ、遠隔転移をする前に取り切れば、根治できる可能性があります。乳がんではまた、もう一方の乳房にもがんができやすいと考えられていますが、この場合も転移前に治療すれば根治の可能性があります。
しかし、すでに転移している場合には、早く見つけて治療を始めても、症状が出てから治療を開始しても、残念ながら生存率に変わりはないとされています。
転移とは、がん細胞が血液などの流れに乗って全身のあちこちに飛び、そこに定着して増殖することを意味します。つまり、乳がんの転移は乳がん細胞が別の場所で増殖することなので、肺に転移しても脳に転移しても、そのがんは乳がんであり、乳がんに対する治療を行うことになります。
Q2 乳がんで転移が起こりやすい場所は?
骨、肺、肝臓、脳などに転移することが多いとされています。最近は、「トリプルネガティブの人は脳や肝臓に転移が多く、骨のみへの転移という形式は少ない」など、サブタイプ別の特徴も明らかになってきています。
症状は人によって異なり、自覚症状が出て気がつく人もいれば、まったく自覚症状がなく、たまたま検査などで見つかる人もいます。
骨転移では痛み、肺では息切れや咳など、脳では頭痛やめまいなどで気がつくことがあります。肝臓は自覚症状の出にくい臓器ですが、右側の腹部の張り、みぞおち付近の痛み、黄疸などで気がつくこともあります。
Q3 いつ、誰が再発・転移するの?
乳がんの初期治療は、がんがどんなタイプ(サブタイプ)かを診断し、それに合わせた治療が確立されています。患者さんはその説明を受け治療を決めますが、サブタイプは5つに分けられます。
❶ ルミナルAライク(ホルモン受容体[エストロゲン受容体・プロゲステロン受容体]陽性、HER2陰性、増殖能低め)
❷ ルミナルBライク(HER2陰性)(ホルモン受容体陽性、HER2陰性、増殖能高め)
❸ ルミナルBライク(HER2陽性)(ホルモン受容体・HER2いずれも陽性)
❹ HER2タイプ(ホルモン受容体陰性、HER2陽性)
❺ トリプルネガティブ(ホルモン受容体・HER2いずれも陰性)
また、各タイプ別の再発・転移率、何年後に起こることが多いかなどは、ある程度明らかになりつつあります。しかし、再発リスクが高いとされるトリプルネガティブで、再発の多い時期を乗り切る人もいれば、術後5年以上経って再発するルミナルAの人もいるなど、患者さんによって状況は違います。
Q4 再発・転移乳がんの治療はどう決める?
局所再発の場合、治療法は初期治療に準じます。しこりなどを手術や放射線で取り去り、薬剤による治療を行います(初期治療で放射線治療を受け照射した範囲が重なる場合、放射線治療は行いません)。
転移がんでは、がんにより痛みが生じている場合などを除き、手術や放射線など根治のための治療は行わないのが一般的です。ほかの場所にも転移している可能性が高く、手術などで体に負担をかけても根治が得られない可能性が高いためです。治療は、基本的に薬による治療になります。
どの薬をどのタイミングで使うかは、多くの要因を考慮して決められます。どこに転移したか、どのくらいの大きさか、手術から何年経つかといったデータ、がんの生物学的特性(サブタイプ)、さらに患者さんの意向も重視します。サブタイプはあくまで要因の1 つとして検討します。再発・転移がんでは遺伝子が変異し、手術時と性質が変わっている可能性があります。
根治が難しい一方、新しい薬が次々と承認され、手段(薬)は増えています。患者さんは気持ちを切り替え、体の負担を少なく治療を継続し、長く元気に過ごすことを目指します。
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