再発・転移のサブタイプ別治療
再発・転移が分かったら、サブタイプの再確認を!
乳がんの初期治療は、がん細胞の特性を反映したサブタイプを基にされた薬物療法が標準的な治療法となっている。しかし、再発・転移治療の場合、考えなければならない要素が多くある。自分に適した治療法について伺った。
受けた治療やがんの性格など3つの要素を考慮
がんの再発・転移を知ったとき、患者さんは「治療をきちんと受けたのに」、「何年も経ったのに今頃?」と大きなショックを受ける。しかし、ほかのがんと比べて進行が遅いとされる乳がんでは、10年以上経って再発することも少なくない。全体では5年以内で30%程度、10年以内で40%程度と考えられ、病期別に術後5年以内の再発率をみても、Ⅰ期で10%、Ⅱ期で15%、Ⅲ期で30~50%となっている。
とはいえ、再発がんの治療薬も着実に増えており、再発しても元気で過ごせる期間を延ばせる可能性は高くなっている。前向きに治療に取り組む意味は大きい(図1・2)。
図2 乳がんの転移部位別頻度(分類は2013年ガイドラインに基づく)
では、再発・転移乳がんの治療はどのように行われるのだろう。患者さんはどんな治療を選択したらいいのか。ここでは、初期治療に準じた治療が行われる局所再発ではなく、ほかの場所に転移したがん(再発・転移乳がん)の治療に焦点を当てた。国立がん研究センター東病院乳腺・腫瘍内科医長の向井博文さんは説明する。
「再発・転移がんではがんと共存しながらも、少しでも長く元気に過ごせるようにすることが目的です。そのためには3つの要素を考慮して、治療を組み立てることが大切です」
3つの要素とは、
❶これまでの経緯や現状など患者さんの情報 ❷がんの生物学的特性 ❸患者さんの意向―― だ。
患者さんの意向を大切に治療を進める
❶は、これまでどんな治療を受けたか、手術から再発までの期間はどのくらいかといった経緯、転移した場所、腫瘍の大きさ、症状の有無といった現状。さらに、年齢、合併症など患者さんに関する情報だ。
❷の代表はサブタイプ。初期治療で手術を受けたとき、ほとんどの患者さんは切除したがんの組織学的検査を行い、サブタイプを特定しているはずだ。サブタイプは3つの要素で決定される。女性ホルモン(エストロゲン、プロゲステロン)に反応するか、がんの増殖にかかわるタンパク質(HER2)が発現しているか、そして、がんの増殖能力を表す腫瘍マーカー、Ki-67の数値が高いか低いかだ。
それにより、ルミナルAライク、ルミナルBライク(HER2陰性)、ルミナルBライク(HER2陽性)、HER2陽性(非ルミナル)、トリプルネガティブのいずれかに分類される(図3)。
❶・❷に加え、❸患者さんの意向を重視するのは、残念ながらこの段階では根治がないためである。
「早期がんの治療ではとにかくがんを取り切り、再発・転移を起こさないことが一大目的です。しかしながら、再発・転移がんの場合、治療によってQOL(生活の質)が低下するのでは本末転倒。患者さんが『旅行に行きたい』という場合も、早期がんでは『今はやめて治療しましょう』と言いますが、再発・転移がんでは旅行に合わせてスケジュールを変えることもします」
だからこそ、患者さんは自分の状態を理解して、残された時間をどのように過ごしたいかに合わせて治療計画を立てることが大切なのだ。
同じカテゴリーの最新記事
- 1次治療後の新たな治療法が登場! ホルモン受容体陽性・HER2陰性の転移・再発乳がん治療
- 新薬の登場で選択肢が増える 乳がんの再発・転移の最新治療
- SONIA試験の結果でもCDK4/6阻害薬はやはり1次治療から ホルモン陽性HER2陰性の進行・再発乳がん
- 乳がんサバイバーの再発恐怖を軽減 スマホアプリの臨床試験で世界初の効果実証
- 術後のホルモン療法は10年ではなく7年 閉経後ホルモン受容体陽性乳がん試験結果
- より推奨の治療法が明確化した「ガイドライン」 HR陽性、HER2陰性の進行・再発乳がんの最新治療
- 原発巣切除による生存期間延長効果の比較試験が進行中 試験結果が待たれるステージIV乳がんの原発巣手術の是非
- 血管新生阻害薬アバスチンの位置づけと広がる可能性 アバスチンと免疫チェックポイント阻害薬の併用が未来を拓く
- ホルモン陽性HER2陰性の進行・再発乳がんに、イブランスに続きベージニオも承認間近
- 長期戦の覚悟と対策を持って生き抜くために ホルモン陽性HER2陰性の乳がんは、なぜ10年経っても再発するのか