ホルモン剤、抗がん剤、分子標的薬の正しい使い方。新薬も登場
治癒も見えてきた!?再発乳がんの最新薬物療法
再発しても治癒を目指せる
時代が来るかもしれないと話す
河野範男さん
再発乳がんの薬物療法は、近年飛躍的に進歩している。新薬が次々と承認され、治療の選択肢も増えてきた。
また、現在臨床試験が進行中のものなど、将来有望な薬剤が控えていることも見逃せない。
新薬で治癒も視野に
ここ1、2年の間に日本でも、再発乳がんに使える新規ホルモン剤や抗がん剤などが相次いで承認され、患者さんにとっては朗報となっている。東京医科大学病院乳腺科教授の河野範男さんは、薬物療法の進歩と再発乳がんの生存率の関係について次のように話す。
「乳がん再発後の生存期間は近年非常に延びており、5人に1人は10年生存を果たせるようになりました」
完治をめざす初発治療と異なり、再発治療ではQOL(生活の質)の維持と生存期間の延長が目標といわれるが、「格段に命をつなぐことができるようになり、今や治癒までもが視野に入ってきたかもしれません」(図1)
再発時にがんの顔つきが変わることも
再発治療はホルモン剤、抗がん剤、分子標的薬が使われる。薬剤の選択は、ホルモン受容体やHER2というタンパク質発現の有無、初発時に使用したホルモン剤や抗がん剤などによって変わってくる。
「再発治療は、ホルトバギーという医師が提唱した基本方針を念頭に置いて進めます。つまり、ホルモン受容体陽性で、生命を脅かす転移がない場合は、まずホルモン療法を順次行い、効果がみられなくなったら化学療法に移行する。ホルモン受容体陰性、または生命に関わる転移があり緊急を要する場合は、化学療法から始めるというのが基本的な考え方です。HER2陽性の場合は、ハーセプチン(*)に抗がん剤などを加える治療が中心になります」(図2)
とはいえ、再発治療ではどの抗がん剤をどういう順番で使うとよいか、といった細かい道しるべはないに等しく、がんの進行や副作用の現れ方など、個々のケースによって対応していくそうだ。
「治療を始める前に注意したいのは、ホルモン受容体やHER2の有無が初発時と異なってくるケースが数%程度あることです。例えば初発時にHER2陽性だったとしても再発時には陰性になるケースなどもあります。したがって、できれば再発部位の細胞を採って再度生検して、確認したほうがよいでしょう」
*ハーセプチン=一般名トラスツズマブ
ホルモン療法の選択肢が増えた
「ホルモン受容体陽性の場合、ホルモン療法と化学療法のどちらを先行しても生存率は変わらないことが臨床試験で明らかになっています。ですから、緊急性がないときは、比較的副作用の少ないホルモン療法から始めるのが一般的です。閉経前なら、LH-RHアゴニスト製剤やノルバデックス(*)、閉経後ならアロマターゼ阻害剤を使い、効果がなくなったら作用の異なるホルモン剤に変更して可能な限り続けます。再発前に使ったホルモン剤には耐性ができていると考えられるので、再発後の治療では避けるのが基本です」
たとえば、術後にノルバデックスを使った場合、再発時に閉経していれば、アロマターゼ阻害剤から始める。アロマターゼ阻害剤には、ステロイド型のアロマシン(*)と、非ステロイド型のアリミデックス(*)、フェマーラ(*)があり、効果は同等とされているが、非ステロイド型を先に使うことが多い。
「再発前に非ステロイド型のアロマターゼ阻害剤を使っていた方なら、再発後はステロイド系のアロマシンに替えるのが一般的です。あるいは、昨年日本でも承認されたフェソロデックス(*)という新薬を使う選択肢もあります」
フェソロデックスは、閉経後の進行・再発乳がんの患者さんを対象とする注射薬だ。他のホルモン剤と作用のメカニズムが異なり、他のホルモン剤で耐性ができた場合でも、フェソロデックスに変更してホルモン療法を続けることが期待できる。
「すでに1種類以上のホルモン療法を行っている人に向く薬で、ホルモン療法をすでに受けている閉経後の進行・再発乳がん患者さんを対象にした試験で、無増悪生存期間を延長したという結果が出ており、選択肢が増えたのは朗報です」
そして、ホルモン療法の薬剤を次々と替えても効果が見られなくなった場合には、化学療法に移行することになる。
*ノルバデックス=一般名タモキシフェン
*アロマシン=一般名エキセメスタン
*アリミデックス=一般名アナストロゾール
*フェマーラ=一般名レトロゾール
*フェソロデックス=一般名フルベストラント
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