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個別化治療にさらなる1歩。がんの特徴に合わせた治療で高い効果が
進行・転移性乳がんでポスト標準治療の成果~サンアントニオ乳がんシンポジウム2011レポート

取材・文:中西美荷 医学ライター
発行:2012年3月
更新:2013年4月

  

乳がんの学会として、国際的に、もっとも有名な学会の1つサンアントニオ乳がんシンポジウム。進行・転移性乳がんに対して、有望な治療成績が相次いで発表された。新たな標準治療となる可能性も出てきた。

実臨床が変わる可能性

HER2陽性の進行・転移性乳がんで、実臨床が変わる可能性が出てきた。その可能性をもたらしたのが、クレオパトラと呼ばれる多施設で行われた国際共同試験(第3相臨床試験)だ。

この試験の対象は、「HER2陽性」という特徴を持つ進行・転移性乳がん患者である。

HER2陽性乳がんは、HER2タンパク質が多く存在する、あるいはHER2タンパク質を作るもととなるHER2遺伝子の量が増えている乳がんである。

HER2タンパク質は、正常細胞にもあって、増殖や分化などの調節にかかわっている。HER2陽性乳がんは、増殖のスピードが速く、再発の可能性が高く、予後が不良だといわれてきたが、ハーセプチン()というHER2タンパク質を標的とする分子標的薬が登場したことで、治療状況は大きく改善した。しかしなお、治療効果が見られなかったり、効果が減弱していって、病状が悪化する患者も多いのが現状だ。

クレオパトラ試験では、2008年2月から2010年7月までの間に、19カ国から808例を登録し、進行・転移性乳がんに対する1次治療として、ハーセプチン+ タキソテール()に、新たな薬剤であるペルツズマブ(一般名)を加えた治療(ペルツズマブ群402例)の有効性と安全性を、ハーセプチン+タキソテール+ 偽薬による治療(偽薬群406例)と比較した。

なお、ペルツズマブは、HER2タンパク質の、ハーセプチンとは異なる部分を標的とする分子標的薬である。

ハーセプチン=一般名トラスツズマブ
タキソテール=一般名ドセタキセル

明らかに無増悪生存期間が延長

ホセ・バセルガさん

マサチューセッツ総合病院がんセンターのホセ・バセルガさん
Photo Courtesy copyright SABCS/Todd Buchanan 2011.

[図1 HER2陽性の進行・転移性乳がんに対するペルツズマブの効果]
(無増悪生存期間)

図1 HER2陽性の進行・転移性乳がんに対するペルツズマブの効果


[図2 HER2陽性の進行・転移性乳がんに対するペルツズマブの効果]
(全生存期間)

図2 HER2陽性の進行・転移性乳がんに対するペルツズマブの効果

今回、マサチューセッツ総合病院がんセンターのホセ・バセルガさんが、追跡期間中央値19.3カ月の成績を報告。ペルツズマブ群では、無増悪生存期間が18.5カ月と、偽薬群の12.4カ月と比較して6.1カ月延長し、再発リスクが38%有意に低下した(図1)。

またこうした薬による恩恵は、患者が登録された地域、年齢、人種、転移巣、ホルモン受容体の有無などにかかわらず、認められたという。

奏効率も、ペルツズマブ群で80.2%と、偽薬群69.3%と比較して、より多くの患者の腫瘍が縮小した。また全生存期間については、死亡数が少なく、統計学的な比較を行える数には達していなかったが、ペルツズマブ群で延長していた(図2)。

副作用のうち、ペルツズマブ群で偽薬群よりも多く認められたものは、下痢、ほてり、粘膜炎症、発熱性好中球減少、乾燥肌などだった。グレード3以上の副作用としては、発熱性好中球減少(7.6%対13.8%)、下痢(5.0%対7.9%)がペルツズマブ群でやや多かったが、心毒性の増加はなかった。

バセルガさんはこの結果について「HER2陽性の進行・転移性乳がん、さらに言えば、進行・転移性乳がん全体において、かつてない大きな効果が明確に示された。ともに祝い、分かち合うべきすばらしい成績だ。ハーセプチン、ペルツズマブというHER2阻害剤2剤を併用する、この新たな治療法は、HER2陽性の進行・転移性乳がんに対する1次治療の実臨床を変えることになるだろう」と述べ、会場からも大きな拍手が贈られた。

ホルモン受容体陽性・HER2陰性で新成果

HER2陰性の転移性乳がんについても、期待される治療成績が発表された。

それが、ボレロ-2と呼ばれる国際共同試験(第3相臨床試験)だ。

ボレロ-2試験の対象は、「ホルモン療法が効かなくなったホルモン受容体陽性・HER2陰性」の転移性乳がん患者である。従来、ホルモン受容体陽性の転移性乳がんに対する治療は、いくつかのホルモン療法を順次投与して、できるだけ長い期間、再発を防ごうとするものだった。

しかし、患者の中にはホルモン療法が次第に効かなくなってくる人も現れ、その要因として、mTORというがん細胞の増殖や血管新生にかかわっているタンパク質の働きが活性化していることが明らかになっている。

そのmTORというタンパク質を選択的に阻害する分子標的薬がアフィニトール()であり、今回の臨床試験において、アフィニトールを用いた治療法の有望な成績が得られた。

ボレロ-2では、2009年6月から2011年1月までに、日本を含む24カ国189施設から、ホルモン療法が効かなくなったホルモン受容体陽性の転移性乳がん患者724例(年齢中央値63歳)を登録して、アフィニトール+アロマターゼ阻害剤のアロマシン()による治療(アフィニトール群485例)の有効性と安全性を、偽薬+アロマシン(偽薬群239例)による治療と比較した。

アフィニトール=一般名エベロリムス
アロマシン=一般名エキセメスタン

アフィニトール併用の効果

[図3 ホルモン療法が効かなくなったホルモン受容体陽性・HER2
陰性の乳がんに対するエベロリムスの効果](無増悪生存期間)

図3 ホルモン療法が効かなくなったホルモン受容体陽性・HER2陰性の乳がんに対するエベロリムスの効果
 
[図4 ホルモン療法が効かなくなったホルモン受容体陽性・HER2陰性
の乳がんに対するエベロリムスの効果](奏効率、臨床利益率)

図4 ホルモン療法が効かなくなったホルモン受容体陽性・HER2陰性の乳がんに対するエベロリムスの効果

追跡期間中央値12.5カ月において、無増悪生存期間はアフィニトール群で7.4カ月と、偽薬群の3.2カ月と比較して大きく延長し、再発リスクは56%有意に低下していた(図3)。また、治療効果は、年齢、内臓転移の有無、前治療の違いなどにかかわらず認められた。

奏効率はアフィニトール群で12.0%と、偽薬群の1.3%と比較して、より多くの患者で腫瘍縮小が認められ、臨床利益率(がんの大きさが半分以上縮小+6カ月以上不変の割合)も、アフィニトール群では50.5%と、偽薬群の25.5%と比較して高かった(図4)。

全体として頻度の高かった副作用は、呼吸困難、高血糖、口渇、疲労感などで、いずれもアフィニトール群のほうが高頻度ではあったが、対処可能であり、患者のQOL(生活の質)を損なうことはなかった。

なお、全生存率については、現在解析中である。

新たな標準治療に

ガブリエル・ホルトバギーさん

テキサス大学MDアンダーソンがんセンターのガブリエル・ホルトバギーさん
Photo Courtesy copyright SABCS/Todd Buchanan 2011.

結果を発表したテキサス大学MDアンダーソンがんセンターのガブリエル・ホルトバギーさんは、「無増悪生存期間がこれほど大きく改善されたことは非常に重要で、閉経後ホルモン受容体陽性・HER2陰性の転移性乳がん治療のパラダイムシフトになりうる結果だ。アフィニトールをホルモン療法と併用する治療法は、新たな標準治療になるだろう」と述べた。

紹介した2試験は、同じがんの特徴を持つ患者を対象として、その特徴に合わせた治療を行うことで、非常に高い効果を得ることに成功した。個別化治療を行うためには、患者の状況や環境を考慮することも重要だが、がんを知り、その特徴に合わせた治療を行うことが、いかに重要であるかが明示されたといえる。


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