注意したい「顎骨壊死」。歯の治療は先に終わらせておこう
骨転移が起こっても、上手に乗り切るコツ
骨転移治療は
いろいろな方法があるので、
あきらめないでほしいと語る
村岡篤さん
ビスホスホネート製剤の登場で、骨転移による痛みはかなりコントロールできるようになった。ただ、ここで重要なのが、いかに副作用に気をつけながら、骨転移とうまく付き合っていくかということ。骨転移をしても治療をうまく乗り切るコツとは?
約3割に骨転移
がんという病気は、進行する過程で転移を起こす。いつまでも発生した部位にとどまっているなら、それを取り除けば治療は終わりだが、そうではないので治療が難しい。とくに乳がんは、早期の段階から転移しやすいことが知られている。
では、乳がんはどこに転移するのだろうか。香川労災病院第3外科部長の村岡篤さんによれば、最も転移しやすいのは骨だという。
「乳がんの手術を受けた患者さんが再発する場合、リンパ節転移や局所再発を除くと、最も多い部位は骨で、再発全体の約30%を占めています。次が肺で約20%、肝臓が約10%と続きます。乳がんはとくに骨に転移しやすいがんだといわれています」
骨は全身にあるが、乳がんが転移しやすい骨と、そうでない骨がある。
「最も転移しやすいのは脊椎(背骨を構成する骨)で、その他に、肋骨、胸骨、骨盤、大腿骨など、血流の豊富な体幹部の骨によく起こります」
がん細胞は血液の流れに乗って転移するため、血流の豊富な骨に起こりやすいのだ。
痛みやしびれが主な症状
骨転移が起こると痛みが生じるが、初期の段階の自覚症状は人によって差があり、軽い痛みやしびれを感じる程度の人もいる。ただし、進行してくると、多くの場合、強い痛みを感じるようになる。
「骨転移で骨が弱くなり、骨折が起きることもあります。この場合、もちろん痛みがあります。また、体重がかかる脊椎は圧迫骨折を起こすことがあります。体重によってつぶれるような骨折が起こるのですが、この場合、強い痛みと共に、脊髄の神経に障害が起き、しびれや麻痺が起こることもあります」
神経に障害が出ると、物が持てなくなったりする。ひどい場合には、完全に麻痺してしまい、体がまったく動かなくなることもある。
「骨転移は、それ自体、生命をおびやかすものではありません。ただ、骨折が起きたり、体が麻痺したりすれば、QOL(生活の質)は著しく低下してしまいます。それを防ぐために、適切な治療が必要になるのです」
ビスホスホネート製剤の効果
[乳がんの骨転移に対するゾレドロン酸の効果]
骨転移が起きたということは、全身に乳がんが広がっていることを意味するので、それに対する治療が必要となってくる。ホルモン療法が効くタイプの乳がんならホルモン剤、ホルモン療法が効かないタイプなら抗がん剤による治療が行われるわけだ。このがんに対する治療に、骨転移の進行を抑えるゾメタ(*)などのビスホスホネート製剤を組み合わせる。
「骨では、骨を壊す破骨細胞と骨を作る骨芽細胞が働き、古くなった骨を新しくしています。骨転移は、破骨細胞が骨を壊したところに、がん細胞が住み着くことで起こります。また、がん細胞からの刺激を受けた破骨細胞は、さらに骨を壊すことで、がんの増殖を助けます。ゾメタは、破骨細胞の働きを抑えることで、がんが骨に住みにくくし、進行を抑えるのです」
乳がんで骨転移を起こした患者さんを対象に、ゾメタの効果を調べるための臨床試験が行われている。骨転移が発生した後の骨に関する合併症(病的な骨折、脊髄の圧迫など)を骨関連事象と総称するが、ゾメタを使用した場合と使用しなかった場合で、骨関連事象の発生にどのような差が出るかを調べた試験である。その結果、ゾメタを使用した群は、使用しなかった群に比べ、骨関連事象の発生率が低下していたことがわかった。
「ビスホスホネート製剤の登場によって、骨転移治療は大きく変わりました。骨関連事象が40%減少するというデータが出ていますが、実感として理解しています。実際に患者さんの治療に当たっていても、痛みをかなりコントロールできるようになりましたし、骨折も減っていると感じています」
こういった骨関連事象に対する効果以外に、最近では、ゾメタには抗腫瘍効果もあるのではないかといわれていて、注目すべき臨床試験結果もいくつか報告されている。
「ゾメタを使っていると、たしかに抗腫瘍効果があるのでは、と感じることがあります。たとえば、骨と肝臓に転移があって、ゾメタを使用している場合に、肝転移の進行も抑えられているように思えることがあります。症例も少なく、あくまで印象ですが」
この点については、今後の臨床試験が明らかにしてくれるかもしれない。
*ゾメタ=一般名ゾレドロン酸
放射線治療や疼痛治療も
骨転移に対する治療は、他にもさまざまな方法があり、必要に応じて行われる。代表的なのが放射線治療だ。
「骨転移の起きている所が限局している場合には、スポットで照射します。痛みを抑えるのに効果的ですし、病的な骨折を防ぐ効果もあります」
痛みが強い場合には、痛みの程度に合わせた除痛治療が行われる。非ステロイド性消炎鎮痛薬の他、必要に応じてモルヒネなどのオピオイド(医療用麻薬)も使われる。また、メタストロン(*)というアイソトープ(放射性同位元素)を利用した治療も、痛みが強い場合に行われることがある。
「骨転移があったらゾメタを使いますが、転移部位、状態に応じて、放射線治療などを加えていきます。QOLの低下を防ぎ、いい状態をできるだけ長く保つように治療を進めています」
*メタストロン=一般名ストロンチウム89
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