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フェソロデックスの登場で閉経後進行再発乳がんのホルモン療法が変わる
QOLの高い状態を長く保つ新しい乳がんのホルモン療法

監修:岩田広治 愛知県がんセンター中央病院乳腺科部部長
取材・文:柄川昭彦
(2012年3月)

岩田広治さん
乳がん治療の
オピニオンリーダーとして著名な
岩田広治さん

閉経後進行再発乳がんのホルモン療法に、これまでとは作用の仕方が異なる治療薬が登場した。エストロゲン受容体そのものを減少させるこの新薬は、1次治療が効かなくなった後の2次治療において、より長期にがんの増殖を抑えてくれるという。

ホルモン療法を長く継続するのが治療の原則

乳がんのホルモン療法は、患者さんが閉経前か閉経後かによって、治療内容が異なる。ここでは、閉経後の進行再発乳がんの患者さんに対象を絞り、最新のホルモン療法を紹介していこう。

まず、これまでどのような治療が行われてきたのかを、まとめておく必要がある。愛知県がんセンター中央病院乳腺科部部長の岩田広治さんは、次のように解説する。

「ホルモン受容体陽性の進行再発乳がんの治療は、ホルモン療法から始めます。これが大原則。生命の危機といえる状態なら別ですが、そうでない限り、1次ホルモン療法、2次ホルモン療法……と、続けられる限りホルモン療法を続けます。現在、最初に使われるホルモン剤は、閉経後の患者さんならアロマターゼ阻害剤(後述)です」(図1)

[図1 閉経後進行再発乳がんに対する一般的な治療の流れ]
図1 閉経後進行再発乳がんに対する一般的な治療の流れ

進行再発乳がんの場合、完治は目指せないので、なるべくよい状態をできるだけ長く維持することが治療目標となる。1次ホルモン療法で効果が現れ、がんの増悪がなければそのまま続ける。

しかし、やがて薬に対する耐性()ができると効果が薄れ、がんが増殖を開始する。そうなると別の薬に替えなければならないのだが、何に替えるかが問題だった。

耐性=投与を繰り返しているうちに、薬の効果が弱まり、最終的にほとんど効かなくなる現象

耐性ができると効果が長く続かない

2次治療には2つの選択肢があった。

アロマターゼ阻害剤が効かなくなったのだから、作用の異なる抗エストロゲン剤(後述)に変えるという方法があります。もう1つ、タイプの異なるアロマターゼ阻害剤に変えるという選択肢もあります」

抗エストロゲン剤はアロマターゼ阻害剤と作用の仕方が異なるので、耐性ができた後に選択する薬としてはふさわしい。しかし、術後治療で抗エストロゲン剤を使っている患者さんであれば、別の薬を選ぶ必要があった。

もう一方のアロマターゼ阻害剤だが、これには3種類の薬があり、非ステロイド性とステロイド性という2タイプに分類できる。アリミデックス)とフェマーラ)が非ステロイド性、アロマシン)がステロイド性である。そこで、例えば1次治療に非ステロイド性を使っていたのであれば、2次治療にステロイド性アロマターゼ阻害剤を使うのが普通である。

「1次治療に非ステロイド性を使った場合、2次治療のステロイド性アロマターゼ阻害剤は、あまり効かない印象があります。アロマターゼ阻害剤であることは同じなので、大きな効果は期待できないのだと思います」

このような現象を専門的には交差耐性という。ある薬に耐性ができたとき、働き方が似ている他の薬にも耐性ができてしまう現象である。アリミデックスアロマシンは異なる薬剤だが、同じアロマターゼ阻害剤なので、交差耐性により、2次治療の効果があまり期待できなかったのである。

2次治療で効果を発揮する新しいホルモン療法剤の登場が待たれていた。

アリミデックス=一般名アナストロゾール
フェマーラ=一般名レトロゾール
アロマシン=一般名エキセメスタン

新しい作用を持つホルモン療法剤の登場

昨年秋、日本で新しいホルモン療法剤が登場した。閉経後の患者さんの乳がん治療薬として承認されたフェソロデックス)である。

フェソロデックスは、アロマターゼ阻害剤や抗エストロゲン剤とは作用の仕方が異なる薬なので、1次治療が効かなくなった後に選択する薬として適しています。臨床試験でも、ホルモン療法後に増悪した患者さんを対象に、優れた治療成績を示しています。2次治療薬としておおいに期待されている薬です」

フェソロデックスの作用は、これまでも使われてきたホルモン療法剤とどう異なっているのだろうか。それぞれの薬の作用の仕方を、わかりやすく説明してもらった。

フェソロデックス=一般名フルベストラント

抗エストロゲン剤:SERM(図2)
[図2 抗エストロゲン剤:SERM]
図2 抗エストロゲン剤:SERM

エストロゲンは女性ホルモンの一種。ホルモン療法が効く患者さんのがん細胞には、エストロゲンを受け止めるための受け皿(エストロゲン受容体と呼ばれる)がある。ここにエストロゲンが入ると、受容体が2つ1組で合体する。そうなることで、がん細胞が増殖していくのである。

タモキシフェンなど、SERMと呼ばれる既存の抗エストロゲン剤は、エストロゲンの代わりに受け皿に入り込む薬である。ただ、入り込んでも、本物のエストロゲンではないので、細胞増殖は起こらない。つまり、この薬は自らが受け皿に入ることで、がん細胞の増殖を抑える働きをするのである。

アロマターゼ阻害剤(図3)
[図3 アロマターゼ阻害剤]
図3 アロマターゼ阻害剤

女性は閉経になると、卵巣からエストロゲンが分泌されなくなる。しかし、まったくなくなるわけではない。脂肪細胞などから分泌される男性ホルモンが、アロマターゼという酵素の働きで、エストロゲンに作り変えられ働く。

アロマターゼ阻害剤は、この酵素の働きを抑えることで、エストロゲンを作れなくし、乳がんの増殖を抑える。アロマターゼ阻害剤が、閉経後の患者さんだけに使われるのは、こうした理由からである。

フェソロデックス(図4)
[図4 抗エストロゲン剤:SERD]
図4 抗エストロゲン剤:SERD

エストロゲンの受け皿(受容体)に、エストロゲンが入ると、2つの受け皿が合体(2量体)することで、初めて細胞増殖のスイッチが入る。子孫を残すのに男女が必要なように、増殖を促すためには、2つの受け皿の合体が必要なのだ。

抗エストロゲン剤の中でもSERDと呼ばれるフェソロデックスは、この受け皿の合体を阻害することで細胞の増殖を抑える。そして、合体できなくなった受け皿は、それ自体が壊れてしまい、それもこの薬の効果に関係している。

臨床試験で効果が確認されている

フェソロデックスが日本で承認されたのは昨年だが、欧米のいくつかの国では、10年ほど前からすでに治療に使われていた。ただ、残念ながら、効果は特筆すべきほどではなかった。

「海外では250㎎の投与量で治療に使われていたのですが、どうもこの量が問題らしいということになり、250㎎と500㎎を比較する臨床試験が行われたのです。その結果、500㎎のほうが効果が優れていることが明らかになり、日本では500㎎の投与量で承認されました」

この臨床試験の対象となったのは、ホルモン受容体陽性で、すでにホルモン療法を受けている閉経後の進行再発乳がんの患者さん700人余りである。500㎎投与群(初回・2週後・4週後・その後4週毎投与)と、250㎎投与群(4週毎投与)に分け、治療成績を比較している。

その結果、無増悪生存期間(がんが増悪を始めるまでの期間)の中央値は、250㎎投与群が5.5カ月、500㎎投与群が6.5カ月だった(図5)。

[図5 フルベストラントの量による効果の違い(無増悪生存期間)]
図5 フルベストラントの量による効果の違い(無増悪生存期間)
※1 日本での承認用法・用量とは異なる
De Leo A,et al:J Clin Oncol,28(30),4594-4600,2010

無増悪生存期間というのは、言い換えれば、症状もなく患者さんがよい状態で過ごせる期間ということです。進行再発乳がんの治療は、症状を抑え、生活の質(QOL)の維持された良い状態を、できるだけ長く保つことが大切です。そういう意味で、無増悪生存期間が延長することには、大きな価値があるといえますね」

中央値が6.5カ月ということは、もっと短い人も、もっと長い人もいることになる。

「当院もフェソロデックスの治験()に加わりました。もちろん、中には効かない患者さんもいるのですが、効果があった患者さんの場合、他のホルモン療法より長く効果が持続したという印象があります。2年以上進行しなかった患者さんもいたほどです」

長い無増悪生存期間が、この薬の力量を示している。

治験=医薬品または医療機器の製造販売に関して、薬事法上の承認を得るために行われる臨床試験。「治療の臨床試験」の略


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