• rate
  • rate
  • rate

末梢血中のがん細胞の数で、転移性乳がんの治療効果を予測する 循環がん細胞(CTC)検査で無駄な治療をしなくてすむ

監修:中村清吾 聖路加国際病院ブレストセンター長
取材・文:祢津加奈子 医療ジャーナリスト
発行:2008年8月
更新:2013年4月

  
中村清吾さん
聖路加国際病院
ブレストセンター長の
中村清吾さん

最近、転移性乳がんの予後や治療効果を予測する方法として、末梢血中のがん細胞の数を測定するCTC検査が注目されている。
わずかな血液を採取するだけで早期に治療効果を予測できるのが大きなメリットだ。
将来的には、血中の他の物質を調べることで、より精密な治療効果の予測も可能になるのでは、と期待されている。

転移性乳がんの予後を予測

抗がん剤やホルモン剤などによるがん治療を行う場合、「できるだけ早く、自分に効果のある薬を見つけて使いたい」というのは、誰もが願うことです。これを可能にする方法として、今転移性乳がんを中心に注目されているのが、末梢血中のがん細胞(CTC)の数を調べる検査です。

乳がんは、がんの中では割合治療の個別化、いわゆるテーラーメード治療が進んでいるがんです。転移した場合も、がん細胞を調べてホルモンレセプターがあればホルモン療法、HER2レセプターがあればハーセプチン、両方ともマイナスならば抗がん剤による治療があります。つまり、それぞれのがんの個性に応じて治療法の選択が行われます。

しかし、残念ながらそれで確実に効果があるというわけではないのです。聖路加国際病院ブレストセンター長の中村清吾さんは「実際には、検査結果からグループ分けして治療をしても、がんが完全消失するほど効果が高い人もいれば、全く効果がない人もいます。その差がどこにあるかは、まだわからないのです」と話しています。つまり、どういう治療が向くか、おおよその枠組みはあっても、実際に効果があるかどうかは、治療を行ってみなければわからなかったのです。これまでは、画像診断によってその効果を判定するまでに3~4カ月かかったといいます。

ところが、末梢血中を流れるがん細胞の数を測定すれば、転移性乳がんの予後や治療効果がより早く予測できるというのです。それだけ、効果のない無駄な治療をしないですむのです。

微細な鉄ビーズでがん細胞を分離することが可能に

循環がん細胞のイラスト
循環がん細胞のイラスト(米国Veridex LLC提供)

中村さんによると、末梢血の中にがん細胞が現れることは、古くから知られていたそうで、これが血行性転移の解明にも役立つのではないかと期待されたこともあったそうです。

乳がんの場合、直径2センチ未満のがんを早期がんと言いますが、1センチを超えると億単位のがん細胞が集まっています。乳がんは母乳が流れる乳管上皮から発生しますが、これがひとたび乳管の外側にしみだして浸潤するようになると、血液やリンパの流れにのって移動するようになります。流れに乗ってから、他の部位に生着して、さらにそこで増殖していく確率はずっと低くなりますが、がん細胞が血液の中を流れていれば、それだけ転移している可能性は高いわけです。

しかし、実際には「血液の中には、がん細胞とまぎらわしい細胞もあり、これをきちんと区別して確実にがん細胞だけを取り出すことが難しかった」といいます。

血液には、赤血球や白血球、血小板、その他いろいろな血漿成分が含まれています。この中で、がん細胞だけを区別することが難しかったのです。ところが、技術の進歩によって微細な鉄ビーズで標識したがん細胞を磁気的に分離することが可能になり、この時、混じりやすい白血球を除外することができるようになりました。その結果、循環血液中のがん細胞だけを区別して数えることができるようになったのです。

[CTCを検出する原理]
図:CTCを検出する原理
微細な鉄ビーズで標識したがん細胞を分離し、さらにわずかに混入した白血球をAPCで標識して取り除く

CTC5個が予後や効果の指標

そこで、アメリカでは転移性乳がんの患者さんの血液中のがん細胞、つまりCTCの数が調べられました。患者さんの末梢血を7.5cc採取してその中にいくつがん細胞があるかを調べたのです。その結果、重要な指標となったのが2個という数です。転移していない乳がんの人ではCTCが2個以上ある人は3.3パーセントでしたが、転移性乳がんの人では61パーセントに2個以上のCTCが見つかったのです。CTCが2個以上あれば、転移している可能性が高いというわけです。

[末梢血7.5cc中のCTCの数による予後の差]
図:末梢血7.5cc中のCTCの数による予後の差

さらに重要なのが、「5個」という数です。CTCが5個以上ある人と、5個未満の人では予後にはっきりした差があることが報告されました。上図のように、CTCが5個未満の人は1年後の死亡率が19パーセントでしたが、5個以上の人は53パーセントと、極めて死亡率が高いのです。

ここから「CTC検査は、転移性乳がんの生存率を予測する因子になる」と言われるようになったのです。これが報告されたのが、2004年のことです。

そこで、次には治療効果の予測ができるかどうかが、検討されました。その結果、治療前にCTCが5個以上あった人が抗がん剤などによる治療を1サイクル行って5個未満になれば、その抗がん剤は効果があると判断できることが判明したのです。逆に、治療をしても5個未満に減らなければ、その治療は効果がなく続けても意味がないということになります。

[効果、判定時にCTC5個以上の生存期間は不良]
図:効果、判定時にCTC5個以上の生存期間は不良


同じカテゴリーの最新記事

  • 会員ログイン
  • 新規会員登録

全記事サーチ   

キーワード
記事カテゴリー
  

注目の記事一覧

がんサポート11月 掲載記事更新!