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骨転移が判明したら、早期の段階でビスフォスフォネート治療を
乳がん骨転移の最新治療法

監修:河野範男 東京医科大学病院乳腺科教授
取材・文:池内加寿子
発行:2007年11月
更新:2013年4月

  

骨転移の標準治療薬は「ゾメタ」

ビスフォスフォネートは、欧米では約10年前より乳がん骨転移の標準的治療薬となっていますが、日本では、ようやく近年になって骨転移の治療薬として使えるようになりました。

ビスフォスフォネート製剤には、経口薬や注射薬などさまざまな薬剤があります。経口薬は主に骨粗鬆症の治療薬として使われています。注射薬としてはアレディアとゾメタが骨転移の治療薬として用いられています。ゾメタは、現在もっとも強力な作用をもつビスフォスフォネート製剤とされています。

日本では、2004年11月、アレディアが「乳がん骨転移」に対しても承認された(それまでは「悪性腫瘍による高カルシウム血症」の治療薬として保険適用)のに続き、2006年4月にゾメタが「固形がんの骨転移による骨病変」「多発性骨髄腫による骨病変」への使用を承認されました。

ASCO(米国臨床腫瘍学会)のガイドラインでは、乳がんの溶骨性骨転移に対しては、がん治療と併行して、3、4週間に1回のアレディア(90ミリグラム/2時間の点滴)または、ゾメタ(4ミリグラム/15分の点滴)の使用が推奨され、日本の乳がんガイドラインでもこれに準じています。

アレディアとゾメタについては、各国で両者の比較や、プラセボ(擬似薬)との比較などの臨床試験が行われていますが、総合すると新規のゾメタに軍配が上がるようです。

「培養した骨での比較では、ゾメタはアレディアの100倍から1000倍の骨吸収抑制力価(作用する力)があります。臨床的にはこれほど大きな差はみられないものの、ゾメタのほうが骨折、高カルシウム血症などの骨関連事象の発現が少ないと報告されています。ゾメタは注射液の量が少なく、点滴時間も15分と短い点(アレディアの8分の1)で、患者さんにとっても楽ですね」

注目したいのは、河野さんらが乳がん骨転移のある日本女性227人を対象に行った「ゾメタとプラセボ」との比較試験です(51施設が参加=下図)。ゾメタとプラセボそれぞれを1年間にわたって使用したグループを比較した結果、骨痛、病的骨折、脊髄圧迫による神経障害、骨折や骨折予防のための整形外科治療、痛みに対する放射線治療などの骨転移関連事象(SRE)の発現率は、プラセボ群が113名中56名(49.6パーセント)であったのに対し、ゾメタ使用群は114名中34名(29.8パーセント)で、ゾメタの使用によって、骨関連事象の発現が39パーセント減少したことがわかりました。

[骨関連事象(SRE)を経験した患者の割合]
図:骨関連事象(SRE)を経験した患者の割合
[最初のSREが発現するまでの期間]
図:最初のSREが発現するまでの期間

また、痛み(歩行、睡眠などを含む)に対する評価でも、プラセボ群では悪化傾向にあるのに対し、ゾメタ使用群では投与後2~4週目から痛みが低下し始め、投与期間中はずっと維持していました。ゾメタにより有意に骨痛が抑えられ、QOLが改善されていることがわかります。

[疼痛スコア(BPI)の推移]
図:疼痛スコア(BPI)の推移

この試験は世界で唯一の乳がん骨転移に対する「ゾメタVSプラセボ」の無作為化比較試験であり(当時、日本では乳がんの骨転移に対してビスフォスフォネート製剤の使用が保険上認められていなかったため、プラセボとの比較となった)、日本でゾメタを承認に導きました。 「これらのさまざまな臨床試験の結果や使いやすさの点から、現在、ゾメタは骨転移の世界的な標準治療薬となっています」

顎骨壊死、腎障害などの副作用にも注意

[有害事象の発現率]

  ゾメタ4mg(n=114) プラセボ(n=113)
有害事象 n % n %
発熱 63 55.3 37 32.7
嘔気 57 50 60 53.1
疲労 51 44.7 36 31.9
上咽頭炎(感冒) 45 39.5 45 39.8
嘔吐 37 32.5 44 38.9
骨痛 36 31.6 51 45.1
頭痛 34 29.8 32 28.3
便秘 33 28.9 37 32.7
下痢 29 25.4 29 25.7
知覚減退 28 24.6 22 19.5
食欲不振 28 24.6 34 30.1
関節痛 24 21.1 18 15.9
呼吸困難 21 18.4 15 13.3
不眠 20 17.5 25 22.1
上腹部痛 19 16.7 8 7.1
好中球減少 18 15.8 19 16.8
口内炎 17 14.9 23 20.4
浮動性めまい 17 14.9 25 22.1
脱毛症 15 13.2 22 19.5
回転性めまいを除く
Kohno N et al. J Clin Oncol 2005,23:3314-3321

ビスフォスフォネートは骨転移患者さんには福音ともいえる薬に思えますが、使い続ける場合は、副作用についても注意する必要があります。

ビスフォスフォネートはほぼ安全性の高い薬といえますが、発現率は低いのものの注意しなければいけない副作用の1つが、腎障害です。ビスフォスフォネートは骨に吸着した残りが腎臓に排泄されるため、腎臓に負担をかけます。とくに、腎臓に負担がかかりやすい抗がん剤治療中などは、定期的な腎機能検査を行い、担当医に相談してください。

最近になって報告されている副作用として「顎骨(顎の骨)壊死」があります。

「顎の骨、とくに下あごはもともと血流が少ないところですが、ビスフォスフォネートによって血管新生が抑えられ、さらに血流が悪くなり、壊死に至ると考えられます。顎骨壊死の発症率は2パーセント以下といわれていますが、ビスフォスフォネートの積算投与量が多い場合や、口の中の衛生状態が悪い場合、ビスフォスフォネート投与中に虫歯などの治療をした場合に起こるケースが多いといわれています。ビスフォスフォネートの治療を受けるときは、前もって虫歯などの治療を完全に済ませておき、口の中の衛生管理に努めるようにしてください」

顎骨壊死に対する積極的な治療法はないので、予防に努め、万一発症したら骨転移の状況が抑えられていれば一時的にビスフォスフォネートを中止し、担当医、歯科医または口腔外科医と連絡を取りながら悪化を防ぐのも1つの方策です。

整形外科治療、放射線治療、骨セメント療法等も

「骨転移の治療法として、整形外科手術も奏効することがあります。骨折しそうでもまだ折れていない骨を金属などで置換する補強術を施すのも、骨折予防法として有効ですね」

このほか、放射線治療(病的骨折や多発性骨転移の痛みの軽減治療として照射。7割程度の患者さんに有効。1~2日間で痛みが緩和することもある)、骨セメント療法(脊椎、骨盤、大腿骨等の骨転移部分に骨セメントを注入して骨を補強。痛みの軽減にも役立つが、まれにセメントが血管に入って血栓を作り、肺塞栓を起こした例も報告されている)、アイソトープによる治療(日本で認可)、WHO(世界保健機関)の除痛ラダーに基づく除痛治療(NSAIDs、モルヒネなどのオピオイド、鎮痛補助薬等で痛みを除く)などいろいろな選択肢があります。1つの方法でうまくいかなくてもあきらめず、担当医と相談しながら、次の手を探してみてください。


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