• rate
  • rate
  • rate

再発しても落胆する必要はない、再発乳がん治療
最近のトピックスは、TS-1、ゼローダなど、経口剤服用の効果

監修:向井博文 国立がんセンター東病院化学療法科医師
取材・文:町口充
発行:2006年11月
更新:2013年4月

  
向井博文さん
国立がん研究センター東病院
化学療法科の
向井博文さん

どんながんでも、再発・転移すると治療が難しくなるものだが、幸いにして乳がんの場合はホルモン療法が有効であり、抗がん剤や分子標的治療薬など新しい薬が次々と登場している。より効果的で負担の少ない治療法についても検討されている。

再発乳がんの治療はどこまで進んでいるのだろうか。

手術時にすでに見えないがんの芽

乳がんが再発・転移する人はどれだけいるのだろうか。国立がん研究センター東病院化学療法科の向井博文さんは次のように語る。

「すでに最初の診断の時点でがんが転移していて、もはや手術ができない人が1割、手術や薬物療法などの初期治療で完治する人が5~6割、残りが手術やその他の治療をしても再発するという人で、3~4割ということになります。再発のしやすさは、はじめにがんと診断された時点での進行度によって違ってきます」

1期ならば再発率は1割以下だが、2期になると3~4割、3期以上になると半分以上の人に再発するという。

なぜ再発するかというと、「手術でがんがきちんと取りきれなかったため」ではない。確かにかつては、完全に取りきることを目的に、乳房のみならず鎖骨のまわりのリンパ節や胸の筋肉など、広範囲に切除する手術が当然のように行われていた。しかし、それでも再発を減らすことはできなかった。今では、乳がんは診断がついた時点ですでに全身に目に見えない転移(微小転移)がある、という考え方が一般的であり、欧米での臨床試験でも立証されている。

このため、再発ハイリスクの人に対しては再発の危険を少なくするため、術後薬物療法として化学療法やホルモン療法が行われるが、それでも死滅しなかったがん細胞が時間をかけて徐々に大きくなり、再発という形であらわれてくる、と向井さんは指摘する。

[乳がん治療のイメージ]
図:乳がん治療のイメージ

乳がんは診断がついた時点ですでに全身に微小転移が起こっていることが明らかになっている

再発の早期発見は必ずしも延命につながらない

再発には、手術した乳房付近だけの再発(局所再発)と、遠隔臓器への転移の2通りがあり、それぞれ対応が違う。

局所再発の場合は、乳房切除後の再発なら放射線治療を行ったり、抗がん剤やホルモン剤などの全身治療で対応する。また、乳房温存術と放射線治療を受けたのちの再発なら、切除手術か、全身治療が検討される。

[再発・転移乳がん患者の予後(国立がん研究センター)]
図:再発・転移乳がん患者の予後(国立がん研究センター)

[ステージ別の予後]

ステージ 10年生存率 15年生存率
2 76% 62%
2a 81% 72%
2b 70% 52%
3 50% 40%
3a 59% 49%
3b 36% 18%
3c 36% 28%

一方、遠隔転移がある場合は、必要によって放射線治療や外科手術を行うが、あくまで中心となるのは全身治療だ。「遠隔転移で多いのは、肺、肝臓、骨への転移です。もう片方の乳房に出てくることもあります。もう片方の乳房への転移はご自身で触ったりしてわかるので、最初の手術のあとも定期的に触ってみる必要があります。しかし、肺や肝臓、骨への転移は、初期の段階ではほとんど無症状。ある程度、進んだ状態になると、肺であれば咳、呼吸が苦しい、肝臓であればだるい、黄疸、骨であれば骨痛といった症状があらわれるようになります」

それなら、症状が出る前に早期に発見して治療をすれば、症状が出たあとに治療するより延命効果が高いかというと、必ずしもそうではない、と向井さんは強調する。

「頻回に検査して症状が出る前にがんの再発を見つけて早い段階で治療を開始しても、症状が出てから治療を行っても、予後は変わらないというデータが明らかになっているからです」

そこで、日本乳癌学会が作成した診療ガイドラインでは、定期検査で必要なのは年に1度のマンモグラフィのみであり、これに加えて3カ月に1度の触診を実施していれば、あとは日常で体調に何らかの変化があった場合にのみ適切な検査を受ければよい、としている。

“早いに越したことはない”と症状が出ない時点から薬物療法をしたとしても、まだ薬物の力は不十分ということなのだろう。生存期間が変わらないというのであれば、頻繁に検査を受けてそのたびに不安にかられたり、つらい治療を長く続けることを、あえて選択する必要はないということになる。

いかにがんと上手に共存するかが大事

遠隔転移がある場合、治療の中心となるのは薬物療法だが、中でもホルモン療法は化学療法に比べて副作用が軽いといわれているめ、患者にホルモン感受性がありホルモン剤が効くタイプであれば、まずホルモン療法を行い、それが効かなくなれば化学療法を行う、というのが一般的だ。

この点は、最初にがんが見つかった段階で手術前後に行う薬物療法とは、大きく違うところだ。手術前後に行う薬物療法は、微小転移を根絶してがんが再発しないようにするのが目的だから、完全治癒をめざして、抗がん剤による治療も積極的に行われる。これに対して、再発・転移した方は完治にいたるのはなかなか難しい。

「再発した人は、画像を見ると『ここだけに再発した』とか、『こことここに再発した』と理解されるようですが、実は目に見えていないがん細胞が体中にいっぱいあります。だから、再発したあとに薬物療法をいくら頑張ってやっても、がん細胞をゼロにするのはなかなか難しい。ゼロにできないとすれば、がんはいずれ出てきてしまいます。したがって再発の場合、がんといかに共存するか、がんをいかに上手にコントロールするかが治療の目的になります」

再発後の治療はどうしても長期戦になる。そこで、生活の質を保ちながら、がんと共存していくため、比較的副作用が軽いホルモン療法がまず選択されるわけだ。

向井さんによると、ホルモン感受性のある人は乳がん患者の約6割ぐらいという。乳がん組織を調べて、女性ホルモンである“エストロゲン”を取り込む鍵穴のような役割を持つ「受容体」の量を調べることでホルモン療法が有効か否かを判断できる。具体的には、病理検査で「エストロゲン受容体」か、エストロゲンの働きによって作られる「プロゲステロン受容体」のどちらか一方が一定以上あれば、ホルモン療法が有効。逆に、どちらも一定量なければホルモン療法は効かない。

[ホルモン剤の種類と作用]
図:ホルモン剤の種類と作用


同じカテゴリーの最新記事

  • 会員ログイン
  • 新規会員登録

全記事サーチ   

キーワード
記事カテゴリー
  

注目の記事一覧

がんサポート4月 掲載記事更新!