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再発乳がんの最新治療:QOLを維持しながら治療を継続、ハラヴェンの新規データが発表に 再発しても、長く暮らせる時代に再発乳がん最新薬物療法

監修●渡邉純一郎 静岡県立静岡がんセンター女性内科医長
取材・文●柄川昭彦
発行:2013年3月
更新:2019年11月

  

「新薬で再発後も長く暮らせるようになっています」と話す
渡邉純一郎さん

再発の不安がいつまでも付きまとう乳がん。しかし今、たとえ再発したとしても長く暮らしていくことが可能になりつつある。そこには、薬物療法の著しい進歩があった。

著しく進歩する乳がんの薬物療法

年々進歩する乳がんの治療だが、中でも大きく変わってきたのは薬物療法である。

新しい薬物療法が登場することで、患者さんの生存期間は着実に延び続けている。とくに手術後に再発した患者さんや、もともと離れた臓器に転移があって手術できなかった患者さんに対しては、薬物療法の進歩が、生存期間の延長をもたらしてきた。

静岡がんセンター女性内科医長の渡邉純一郎さんは、次のように語っている。

「乳がんの患者さんの中には、再発してから5年、10年生きられる方がたくさんいらっしゃいます。その間に新しい薬が登場してきて、さらに治療を続けられる、というケースもしばしばあります」

もっとも、乳がんのすべての患者さんが、薬物療法で生存期間を大きく延ばせたのかというと、必ずしもそういうわけではない。

実は、乳がんのタイプによって、選択できる薬物療法に違いがあるのだという。

乳がんのタイプで違う効果的な治療法

■図1 乳がんのタイプと有効な治療法乳がんには4つのタイプがあり、そのタイプによって治療法が違う
*1のタイプは、さらに2つのタイプに分けられる

乳がんは、エストロゲンやプロゲステロンと呼ばれる女性ホルモンの影響を受けるか否か、つまりホルモン受容体が陽性か陰性か、そして細胞の増殖に関係するHER2というタンパク質が陽性か陰性かによって、4つのタイプに分けられている(図1)。

ホルモン受容体(エストロゲン受容体、プロゲステロン受容体)陽性の乳がんなら、ホルモン療法が効果を発揮する。また、HER2陽性なら、分子標的治療薬のハーセプチンなどによる抗HER2療法が効果的だ。もちろん、どちらの場合でも抗がん薬による化学療法は有効である。

たとえば、ホルモン受容体陽性で、HER2陰性なら、ホルモン療法の効果は期待できるが、抗HER2療法の効果は期待できないタイプだ。

HER2が陽性であれば、ホルモン受容体の陽性陰性は問わず、抗HER2療法が有効である。2012年12月に行われた、サンアントニオ乳がんシンポジウムでは、抗HER2療法における新しい分子標的治療薬であるペルツズマブやT-DM1の試験結果も報告され、期待を集めた。

一方で問題となるのは、ホルモン受容体が2つとも陰性で、なおかつHER2陰性の場合である。このタイプは「トリプルネガティブ乳がん」と呼ばれている。ホルモン受容体が陰性のため、ホルモン療法は効果がなく、抗HER2療法も同じように効果が期待できない。そのため、抗がん薬による化学療法に頼らざるを得ないのが、このタイプの特徴である。

では、乳がんの化学療法では、どのような抗がん薬が使われているのだろうか。

「乳がんの化学療法で主流となっている抗がん薬は、アンスラサイクリン系抗がん薬とタキサン系抗がん薬です。それらで治療を行い、薬が効かなくなってしまったときに、有効な薬剤がないのが問題で、その状況が続いていました」

とくに、抗がん薬に頼らざるを得ないトリプルネガティブの患者さんにとっては、それが大きな問題だった。進歩してきた乳がんの薬物療法だが、そこに満たされていないニーズが存在していたのだ。

受容体=細胞表面で、細胞外の物質を受け取り、情報とし利用できるように変換する仕組みを持つ構造のこと
ハーセプチン=一般名トラスツズマブ
アンスラサイクリン(アントラサイクリン)系抗がん薬=アドリアシン(一般名ドキソルビシン)、ファルモルビシン(一般名エピルビシン)など
タキサン系抗がん薬=タキソール(一般名パクリタキセル)、タキソテール(一般名ドセタキセル)

進行・再発乳がん治療の研究は進んでいる

■図2 新薬も登場したトリプリネガティブ乳がんの化学療法アンスラサイクリン系、タキサン系抗がん薬が効かなくなったあとに使用できる薬剤が登場した

乳がんの治療には多くの抗がん薬が使われているが、その中で中心となるのは、前述したように、アンスラサイクリン系抗がん薬とタキサン系抗がん薬である。

「再発する患者さんの多くは、もともと再発リスクの高い人です。そして、そのような患者さんには、術前や術後の治療で、アンスラサイクリン系とタキサン系という2種類のキードラッグ、すなわち鍵となる抗がん薬がすでに使われています。そのため、再発後の治療では、それら以外の薬剤を使用しなくてはならず、どうしても薬のパワーが弱いという問題がありました」

このような状況の中、アンスラサイクリン系とタキサン系抗がん薬の後、つまり3次治療以降に使用する抗がん薬として、ハラヴェンという薬が登場した。次に紹介するような臨床試験が行われ、その結果によって、日本では2011年から乳がんの治療に使えるようになっている(図2)。

臨床試験の対象となったのは、進行再発乳がんの患者さんで、アンスラサイクリン系抗がん薬およびタキサン系抗がん薬による治療歴がある患者さんたちである。

ハラヴェンの治療を受ける「ハラヴェン群」と、主治医が選択したハラヴェン以外の化学療法を受ける「主治医選択治療群」の比較が行われた。

全生存期間中央値(臨床試験に参加してからの生存期間の平均値)は、ハラヴェン群が13.2カ月、主治医選択治療群が10.5カ月だった。

ハラヴェンを使用した患者さんのほうが、全生存期間中央値が2.7カ月間長いということが明らかになったのである。

「進行再発乳がんに対する3次治療以降の治療で、単剤で生存期間を延ばした抗がん薬は、他にはありません。このデータが出たときから、非常に期待できる薬剤だと考えられてきました」

ハラヴェン=一般名エリブリン

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