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脱毛対策の課題 情報提供ニーズが多様化している

美容師など専門職との連携体制作りが必要に

監修●金井久子 聖路加国際病院看護部
取材・文●軸丸靖子
発行:2014年10月
更新:2015年1月

  

「化学療法による脱毛は女性のQOLを大きく低下させます」と話す金井久子さん

がん化学療法を受けると脱毛することは、がんの治療経験がない人にも広く知られている。だが、抜けた頭髪や眉毛、まつげが治療終了後いつまでに、どのくらい回復するかについては、実は確かな数字はあまりないのが現状だ。乳がんの場合、医療者が経験的に得た情報から「治療終了後1年~1年半ほどでかつらを外せる人が多い」といった説明をすることが多いものの、回復度合いには患者の個人差が大きく、3~4年経ってもかつらのままという人もいるという。

いつ、どのくらい回復するのか

脱毛は、乳がん患者さんの化学療法に伴う身体的苦痛の1位といわれる。〝髪は女の命〟ではないが、女性の人生に髪の状態が大きく影響することは事実であり、がんの治療のために一時的な脱毛は受け入れたとしても、いつ、どのようにして髪が戻ってくるのかといった情報は、乳がん患者さんとしてはできるだけ詳細に知りたい点だろう。

「化学療法を始めると、頭髪だけでなく眉毛、まつげも抜ける場合があるため、顔の印象が一気に老けたようになってしまう。仕事を続けながら通院で化学療法を受ける方、周囲にがんのことを伝えていない方ならなおさら気にするでしょう。『脱毛は困るから化学療法は受けたくない』という方もいらっしゃるくらい、脱毛は乳がん患者さんのQOL(生活の質)に大きく関わる問題なのです」と金井さん。

金井さんら聖路加国際病院看護部では、同院で乳がん化学療法を受けた患者さんの脱毛からの回復の実態について、4年前から調査を行ってきた。化学療法開始前と2回目投与時、終了時、その半年後、1年後、1年半後、2年後、2年半後、3年後と9回のアンケートを行い、使用薬剤による違いはあるのか、髪の回復に対する本人の満足度はどうか、年齢は影響するのか、髪質に変化はあるのか――などについて主観的、かつ客観的に評価しようとしたのだ。

しかし、対象者に撮影させてもらった頭部写真を見て、脱毛からの回復を客観的に評価しようという試みは、うまくいかなかった。

「ゼロか100という評価なら第三者でもできるのですが、回復が6割なのか、8割なのかといった程度の評価は、写真では全く判断がつかないことが分かったのです。スコープで頭皮をクローズアップし、髪の密度を測定していれば評価できたかもしれませんが、首から上の写真で、女性の脱毛からの回復状態を評価するのは不可能でした」と金井さん。

レジメンにより脱毛からの回復に違い

そこで、調査に協力がもらえた患者さんの主観的評価に基づいた分析を行った。対象は、2009年6月~10年6月にTC療法(タキソテール+エンドキサン)、EC療法(ファルモルビシン+エンドキサン)、DOC-FEC療法(タキソテール+5-FU+ファルモルビシン+エンドキサン)のいずれかを開始し、治療終了後3年までのアンケートに回答が得られた39例。転移・再発でレジメンが変更になった患者さんは、脱毛に影響が出るため除外した。治療開始時の年齢は33~74歳、中央値は48歳だった。

脱毛は、レジメンの違いに関わらず、全患者さんで認められた。大半の患者さんは抗がん薬の投与開始から2回目投与までに脱毛が始まっていた。

しかし、その後の回復にはレジメンにより違いがあった。EC群(6例)では治療終了後速やかに頭髪が回復し始め、1年後までに全患者さんが100%の回復を報告した。しかしTC群(16例)では脱毛の進み方にも、その後の回復にも患者さんによって大きなばらつきが生じていた。DOC-FEC群(17例)ではばらつきはさらに大きくなっていた(図1)。治療3年後の完全回復率はEC群の100%に対し、TC群は67%、DOC-FEC群は53%にとどまった。対象数が少ないため、脱毛からの回復の違いが治療薬によるものと断定はできなかったが、EC療法では回復が早いのに対し、タキソテールを用いたレジメンでは回復に時間がかかること、また治療期間が長いDOC-FEC療法では回復が比較的遅いことについては、金井さんらの日常臨床での印象を裏付ける結果になったという。

図1 頭髪量と満足度(DOC-FEC療法群:17例)

化学療法後のホルモン療法の有無の影響についても検討したが、今回の検討では関連性は明らかにならなかった。年齢の影響についても解析したが「若ければ回復が早い」といった傾向は見られなかった。

眉毛やまつげについては、頭髪のように「完全に抜けた」という人は少なかったが、脱毛からの回復については、頭髪同様のレジメンによる傾向の違いが認められた。ただし、頭髪と眉毛・まつげの回復が一致するとは限らず、頭髪は回復していなくてもまつげ・眉毛は回復したり、その逆があったりと、個人差が大きかった。

タキソテール=一般名ドセタキセル エンドキサン=一般名シクロホスファミド ファルモルビシン=一般名塩酸エピルビシン 5-FU=一般名フルオロウラシル

頭髪の量の回復と満足度は一致せず

頭髪量に対する患者さんの満足度は、回復具合以上のばらつきが見られた。脱毛すれば満足度は下がり、回復すれば満足度も上がるという大体の傾向はあるものの、頭髪量は100%回復したのに満足度は低いままだったり、いったん満足しても治療終了から2年以上経ってだんだん下がってきたりといった波があった。満足度のばらつきはTC群、DOC-FEC群でとくに大きく、「量が戻っても満足度はゼロ」という人も。

アンケートでは、満足度が再び下がった理由については尋ねておらず、精神状態との関係も調べていない。このため、考察は想像になるが、金井さんは患者さんの焦りや不安感が背景にある可能性を指摘する。「脱毛からの回復が長期化すればするほど、期待と現実のギャップを感じることになり、満足度が下がるようです。『思っていたより髪が戻らない』とか『もっと回復すると思っていたのに』といった思いが、満足度を再度下げる背景にあるのではないかと考えられました」

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