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1度に多数の遺伝子を調べる検査キットも申請中

KRASからRAS遺伝子検査へ 大腸がんの個別化医療の最前線

取材協力●吉野孝之 国立がん研究センター東病院消化管内科医長
取材・文●半沢裕子
発行:2014年9月
更新:2014年12月

  

「KRASだけでなくRAS遺伝子の検査が保険承認されることが必要です」と語る吉野孝之さん

大腸がんも個別化医療が進んでいるがん領域の1つだ。進行・再発大腸がんの治療で使われている、アービタックスやベクティビックスでは、KRASと呼ばれる遺伝子に変異があると、その効果が発揮されないことがわかっていたが、最近ではそれ以外の遺伝子にも変異があると、薬が効かないことがわかってきたという。

抗EGFR抗体薬の効かない遺伝子変異が KRAS以外にも

写真1

KRASだけでなく、NRASも含めた遺伝子変異がアービタックス、ベクティビックスの効果予測因子として重要なことがわかったため、吉野さんらが中心となり、RAS遺伝子(KRAS/NRAS遺伝子)変異の測定に関して、ガイダンスを取りまとめた

がん細胞の遺伝子検査を行い、薬が効くか効かないかを見極め、効くと思われる患者だけに薬を処方する――。がんの個別化医療は大腸がんの分野でも進んでいる。

切除不能な進行・再発大腸がんでは、KRAS遺伝子の検査と、抗EGFR抗体薬(アービタックス、ベクティビックス)による分子標的薬治療が、日本でも定着している。KRAS遺伝子に変異があると、この薬が効かないため、KRAS変異型と診断されたら投与を行わず、変異のない正常型(KRAS野生型)と診断された場合のみ、投与が行われることになる。

しかし昨年(2013年)、薬を効かなくする遺伝子変異は他にもあるとする報告が相次ぎ、抗EGFR抗体薬の対象患者と、その患者を見分ける遺伝子検査が世界的に変わりつつある。

それを受け、日本でも今年4月、遺伝子検査に関するガイダンスがいち早く改訂され、第2版「大腸がん患者におけるRAS遺伝子(KRAS/NRAS)変異の測定に関するガイダンス」が作成された(写真1)。

抗EGFR抗体薬は今後、どんな患者に処方されるのか、その判断基準となる遺伝子検査はどのように行われるのか。国立がん研究センター東病院消化管内科医長の吉野孝之さんに聞いた。

アービタックス=一般名セツキシマブ ベクティビックス=一般名パニツムマブ

増殖のシグナルをブロック 抗EGFR抗体薬のメカニズム

細胞の表面には細胞の増殖に重要な役割を果たすEGFR(上皮成長因子受容体)という糖タンパクがあり、ここにEGF(上皮成長因子)が結合すると、この糖タンパクが活性化する。そして、細胞核内へつながっている経路に次々信号を伝え、それを受けて細胞が増殖する。このEGFRはがん細胞の表面にはとくにたくさん存在するため、がん細胞ではシグナルがどんどん送られ、細胞が次々に増殖してしまう。そこで、EGFRに結合する物質を投与する(これがアービタックスやベクティビックスなどの抗EGFR抗体薬)。すると、EGFRにEGFが結合できず、シグナルが伝わらずにがんの増殖を止めることができる。

ところが、そのシグナル伝達に関わっているKRASと呼ばれる遺伝子に変異があると、抗EGFR抗体薬が全く効かず、むしろ副作用に苦しむだけの結果になってしまうことがわかったのだ。

日本でアービタックスが承認されたのは2008年。KRAS遺伝子検査が保険適用されたのは2010年と約2年のタイムラグがあったものの、今日では対象となる患者の99%にこの検査が行われている。

NRAS遺伝子にも変異があると 薬の効果が見られない

ところが、KRAS遺伝子に変異がない野生型と診断され、抗EGFR抗体薬を投与されていた人の中に、実はこの薬が効かない患者がいることが明らかになってきた。遺伝子変異は他にもあり、それらの変異がある患者にも抗EGFR抗体薬が効かないことは早くから推測されていたが、昨年から次々と国際会議で報告され始めた。それらはすべて、抗EGFR抗体薬の効果を調べた主要な臨床試験の結果を、後から解析したものだった。

吉野さんは言う。「従来のKRAS遺伝子検査でKRAS野生型と診断された患者さんの約20%に何かしらの変異が見つかり、そうした患者さんにおける抗EGFR抗体薬の効果を見ると、実は効いていないことがわかりました。これまで7つの主要な臨床試験の後解析が報告されていますが、その全てで『変異があると効かない』ことが確認されています。これを受け、欧州ではいち早く薬の添付文書の内容が書き換えられ、米国のNCCN(米国国立総合がんネットワーク)のガイドラインでも、適用がKRAS/NRAS野生型に変更されました」

これまで変異が確認されていたのは、KRAS遺伝子のエクソン2と呼ばれる部分。一方、7つの臨床試験の後解析で確認された遺伝子変異は、従来のKRAS エクソン2に加え、エクソン3、4。さらにKRAS遺伝子と同じRAS遺伝子の1つで、NRASと呼ばれる遺伝子のエクソン2、3、4の部分の計6カ所に認められた。これらの変異は総じてRAS遺伝子変異と呼ばれる。

「KRAS エクソン2に変異がある患者さんは全体の4割ですが、他の変異はそれぞれ3%程度。しかし、合計すると2割くらいになります。今まで効くと思われ、薬を投与されていた患者さんの中に、効かない人がこんなにいるわけですから、『測定する意味がある』と確認されたのです」

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