諦めない進行食道がんの治療 Ⅲ、Ⅳ期食道がん5年生存率 好成績の治療戦略とは

監修●出江洋介 東京都立駒込病院食道外科部長
取材・文●池内加寿子
発行:2014年5月
更新:2020年3月

  

「Ⅲ、Ⅳ期の食道がんでも
諦める必要はありません」
と話す出江洋介さん

今から20年ほど前なら、諦めることが多かったⅢ、Ⅳ期の食道がん。だが、抗がん薬、放射線治療の進歩により、今は決して諦める必要はなくなった。その中でも、Ⅲ、Ⅳ期の5年生存率が全国平均よりも大きく上回る治療成績を出しているのが東京都立駒込病院だ。そこではどのような治療が行われているのだろうか。

早期からリンパ節転移を起こしやすい食道がん

食道がんの治療は、消化器がんの中でもとりわけ難しいといわれる。

「食道がんは食道粘膜に発生し、深く進展していきますが、早期からリンパ節に転移しやすいのが特徴です。また、食道は心臓、肺、気管、大動脈といった重要な臓器に囲まれていて、これらの臓器を傷つけずに根治性を高めることが命題となる難易度の高い治療といえます」と話すのは、東京都立駒込病院食道外科部長の出江洋介さんだ。

食道がんでは、がんが粘膜内にとどまるT1a(0期)なら早期がん、粘膜下層にとどまるT1b(Ⅰ期)以降は進行がんと呼ばれている。

「患者さんは、進行がんという響きから、がんがどんどん進行していくのかと心配されますが、そうではありません。食道がんではT1b(Ⅰ期)でもリンパ節転移が30~50%に見つかるため、リンパ節への対応を考慮すべき便宜的な呼称と考えてください。早期がんなら内視鏡治療が可能な段階ということです」

食道がんの治療には、外科手術(開胸手術、鏡視下手術)、内視鏡治療、放射線治療、化学療法、化学放射線療法、またはこれらを組み合わせた集学的治療などがある。『食道癌診断・治療ガイドライン』ではステージごとに大まかな治療方針が示されているが、それぞれの病院や医師の見解に基づき、患者さんの年齢や病状、希望などを考慮して選択されることが多い。

通常は、0期なら内視鏡手術、Ⅰ期では外科手術、Ⅱ~Ⅲ期では術前化学療法と手術、または化学放射線療法、Ⅳ期では化学療法、放射線療法が標準的だという。

5年生存率が高い秘密は チーム医療による集学的治療

図1 ステージ別食道がん5年生存率 全国集計

食道がん治療後の5年生存率を示したグラフ(図1)を見ていただきたい。治療の難しさを反映してか、「全国集計手術施行例)」では0期81・6%はともかく、Ⅰ期71%、Ⅱ期50%、Ⅲ期32%、Ⅳa期22・5%、Ⅳb期10%と患者さんにとってはまだまだ厳しい数字といえる。

「それでも、20年前には遠隔転移のあるⅣb期の5年生存率はほぼ0%、Ⅳa期でも10%前後でしたから、やはり抗がん薬をはじめとして全体的に治療が進歩してきてはいると思います」

駒込病院では、0期100%、Ⅰ期96・9%、Ⅱ期84・9%、Ⅲ期44・7%、Ⅳ期30%とすべてのステージで全国平均を上回っている(2000~2010年 鏡視下手術施行例)。特に、進行がんと呼ばれるⅠ~Ⅳ期の生存率の高さは特筆すべきものがある(図2)。

図2 都立駒込病院の食道がん5年生存率

(2000~2010年 鏡視下手術施行例)

「このデータは、すべて外科手術(鏡視下手術)を行った症例です。術前化学療法後の手術症例や、がんは浅いけれども広範囲にわたり、内視鏡で取り切れずに食道全摘した0期の症例も含まれています。遠隔転移のあるⅣb期は手術適応外ですので含まれていません」

駒込病院の5年生存率が軒並み高く、また、治療が難しいⅢ~Ⅳ期であっても成果が出ている秘密はどこにあるのだろう。

「当院では、Ⅰ期なら基本的に手術単独、Ⅱ~Ⅲ期なら化学療法後に手術をするという点は、他施設とさほど変わりませんが、一番の違いは、Ⅲ~Ⅳ期の治療法と、手術症例にはステージにかかわらず鏡視下手術を採り入れ、独自の術式を工夫している点でしょう」

通常、かなり進行しているⅢ~Ⅳ期では標準的な治療を行ってもなかなか治癒にはいたらないが、これ以上治療法はないと言って終わってしまうことが多い。しかし駒込病院では、治療成績が未だに不十分なⅢ~Ⅳ期では標準的な治療にこだわらずに患者さん1人ひとりに合った治療戦略を考え諦めずに根治を目指し、食道外科、内科医、放射線科医が情報を共有し、連携して集学的治療を行っているという(図3)。

図3 駒込病院のⅢ、Ⅳ期の食道がん治療例

駒込病院では、食道外科医、内科医、放射線科医が情報を共有し、連携して集学的治療を行う

「Ⅲ期では、化学療法を行ってからの手術、Ⅳ期(T4)では化学放射線療法が標準治療ですが食道狭窄の強いⅢ期では、化学療法中に誤嚥性肺炎を起こすこともあり、手術を先行する場合もあります。Ⅳ期(T4)でも、まず全身治療として化学療法を行い、腫瘍の縮小も期待します。患者さんの状態をみて、症例によっては放射線治療も加えて腫瘍の局所コントロールができたところで手術に持ち込みます」

最初に、化学療法を3~4コースくり返し、がんを縮小させ、全身の微小転移を抑えることが第1の目標だ。ここでは、食道がんに通常用いられるFP療法(5-FUとシスプラチン)にアドリアシンを加えたFAP療法を行っている。がんが縮小したところですぐに手術を行うこともあるが、リンパ節転移が多いケースでは、術後3、4カ月での遠隔転移再発例も時折みられることから、局所の残存病変に対して放射線治療を追加して様子をみることもある。

「治療開始から半年経って遠隔転移が出て来なければ根治も可能と判断して、手術を行います」

もし、この時点で遠隔転移が出てくるようなら、タキソールやネダプラチンなど、セカンドラインの化学療法を行うという。もちろん副作用対策も怠らない。「諦めずに、患者さんのそれぞれの病状に合わせた次の一手を考えていくことが、われわれがん専門病院の医師の務めだと思っています」

5-FU=一般名フルオロウラシル シスプラチン=商品名ブリプラチン/ランダ アドリアシン=一般名アドリアマイシン タキソール=一般名パクリタキセル ネダプラチン=商品名アクプラ

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