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これだけは知っておきたい食道がんの基礎知識
術前化学療法に目覚ましい効果が確認。困難とされる食道がんに光射す!

監修:井垣弘康 国立がんセンター中央病院食道外科総合病棟部医長
監修:伊藤芳紀 国立がんセンター中央病院放射線治療部医師
取材・文:半沢裕子
発行:2009年4月
更新:2019年7月

  
井垣弘康さん
国立がん研究センター中央病院
食道外科総合病棟部医長の
井垣弘康さん
伊藤芳紀さん
国立がん研究センター中央病院
放射線治療部医師の
伊藤芳紀さん

食道がんは、数あるがんの中でも難しいがんの1つ。食道は壁が薄く周りに血管やリンパ節がたくさんあるため、早い時期からリンパ節転移が起こるからだ。しかも、首、胸、お腹と広範囲にまたがっているため手術は大規模になり、合併症も起こりやすい。
そんな食道がんも、化学放射線療法や術後化学療法などにより、5年生存率が上がってきた――。

壁は薄く、周囲にはリンパ網が拡がりやすい

[食道がん部位]
図:食道がん部位

食道は食べ物の通り道で、のどと胃をつなぐパイプのような臓器です。25センチほどの長さがあり、頸部食道(首にある部分)、胸部食道(胸にある部分)、腹部食道(お腹にあり、胃につながる部分)に分けられます。このうち、頸部食道のがんは耳鼻科が担当することが多く、消化器科が担当するのは主に胸部食道と腹部食道のがんです。

食道がんができるのは食道の内側、食べ物と触れる表面(粘膜)です。大きくなると粘膜の外側(奥)の粘膜下層へ、さらに外(奥)の筋層へ拡がり、もっと大きくなると食道の外に出て、周囲にある気管や肺などにがん細胞が拡がっていきます。

日本で新たにこのがんになる人は男性、それも平均年齢は65歳で、70歳以上の方が3割を占め、基本的に高齢の方に多いがんです。数的には男性ががん全体の4パーセント、女性は1パーセントと、がんの中では少数派です。

食道がんは早期発見が難しいがんです。最初はほとんど症状がなく、粘膜に傷がつくと食べ物を飲み込んだときチクチクしたり、熱いものがしみたりする程度。こうした違和感も、がんが少し大きくなると消えてしまいます。そのため放置してしまうことが多いのですが、がんがさらに大きくなると、のどがつかえる、声がかすれるといった自覚症状が出てきます。この段階で見つかった場合、ほとんどが3期~4期という楽観できない状態です。

[食道がんにおける早期がんと進行がんの違い]
図:食道がんにおける早期がんと進行がんの違い

また、食道は臓器そのものの厚みが薄く、胃や大腸のように外膜という強い膜が無いので、がんが奥(外側)の組織や近くの臓器にすぐ達し、しかも周囲にはリンパ網が張り巡らされているため、リンパ腺や遠くの臓器へも転移しやすい、という特徴があります。

縦に長い臓器なので、食道を摘出する手術は規模が大きく、その分、副作用や後遺症が大きいのも、食道がんの難しさの1つです。 それでも、胃カメラ(内視鏡)の検査を受けたとき、たまたま早期に発見され、内視鏡でがんだけ取れる幸運なケースもありますし、最近は手術と化学放射線療法(抗がん剤と放射線を併用した治療法)のどちらにするか、患者さん本人が選択できるようになりました。

逆にいえば、患者さんは手術と化学放射線療法のメリット、デメリットを知り、自分で決めなればならない部分も大きいので、大変ともいえます。けれど、自分の年齢や体力、ライフスタイルなどと相談して、ぜひとも納得のいく治療を選んでいただきたいと思います。

がんが粘膜上皮内だけにあるときは内視鏡的治療

今現在、エビデンス(科学的根拠)があるとされる食道がんの治療方法は、内視鏡的治療、手術(外科治療)、放射線治療、抗がん剤(化学療法)の4つです。どの治療法が「標準治療」になるかは、ステージ(病期)によって違います。ステージは原発腫瘍の深さ(T)、リンパ節転移の有無(N)、離れた臓器への転移(遠隔転移)の有無(M)、という3つの要素(TNM分類)によって、0期、1期、2a期、2b期、3期(T1b~T3)、3期(T4)期、4a期、4b期に分類されています。

ほかのがんでは1期はもちろん、リンパ節転移のない2a期でも早期として扱われることがありますが、食道がんの場合、早期がんとみなされるのは、がんが粘膜のいちばん表面の粘膜上皮内にとどまっており、更にリンパ節転移がないときだけです(0期と一部の1期)。

この場合はのどから内視鏡を入れ、がんを切り取る内視鏡的治療が「標準治療」となります。

ただし、内周の4分の3以上を取ると、食道が縮まって狭窄してしまうので、4分の3以上取るときは、手術か化学放射線療法を行います。この場合の放射線治療には、体の外からがんを狙って放射線をかける外照射のほか、口から食道の中に専用のアプリケーターを入れ、放射線物質(密封小線源)を一時的に置いて、食道の中からがんの部分に放射線を当てる腔内照射(小線源療法)もあり、効果を上げています。

[食道がんの進行度(TNM分類による)]

病期分類 腫瘍の深さ 所属リンパ節転移 他臓器への転移
0期 がんが粘膜上皮に
とどまっている
なし なし
1期 がんが粘膜固有層、
粘膜下層におよんでいる
なし なし
2A期 がんが固有筋層、
外膜にまでおよんでいる
なし なし
2B期 がんが粘膜固有層、
粘膜下層、固有筋層に
およんでいる
あり なし
3期 がんが食道壁の外に
出ている
あり なし
がんが食道周囲の
組織に浸潤している
これに関係なく なし
4A期 これに関係なく 頸部リンパ節や動脈周囲の
リンパ節に転移
4B期 これに関係なく 遠くの臓器へ転移


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