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「術後」よりも「術前」のほうが、5年生存率が良いという臨床試験結果も
転移を抑え、再発を防ぐ!? 食道がんの術前化学療法

監修:矢野雅彦 大阪府立成人病センター消化器外科主任部長
取材・文:塚田真紀子
発行:2009年4月
更新:2019年7月

  
矢野雅彦さん
大阪府立成人病センター
消化器外科主任部長の
矢野雅彦さん

胃がんや大腸がんなどと比べ、難治がんの1つとしてあげられる食道がん。場所が場所だけに、手術そのものも体への負担が大きく、 またたとえ手術を行ったとしても、再発してくることが多いのが現状だ。そうした中、現在注目を集めているのが、手術の前に抗がん剤を投与するという「術前化学療法」。術前化学療法によって、CTでは映らない微細ながんを叩き、再発を防ぐことも可能になってきているという。食道がん・術前化学療法の最新知見を紹介する。

リンパ節転移がある場合の術前化学療法という選択

食道がんは難治がんの1つで、胃がんや大腸がんなどとくらべ、治療成績がよくありません。手術でいくらがんばって食道とその周囲のリンパ節を取っても、再発してくることがあります。

5年生存率を上げようとすれば、手術に何かを加えなければだめだろうと、昔から抗がん剤や放射線を組み合わせた治療が試みられてきました。

当センターでは、15年前から「術前化学療法」(FAP療法)を始め、効果を上げています。これまで約200人を治療しました。

どのような患者さんが対象になるのか、食道がんの進行度に合わせた治療の流れについてみていきましょう。

最初は精密検査です。CT(コンピュータ断層撮影)やPETスキャン(身体の代謝状態を調べる検査)、内視鏡によってがんの進行具合を検査します。同時に、その患者さんが手術に耐えられるかどうか、心肺機能など全身のチェックをします。

肝臓や骨などへの遠隔転移がある人や、治療のリスクが高い人の場合は、完治を狙う治療は難しくなってきます。

遠隔転移がなく、リスクのあまり高くない人は、積極的ながん治療を受けることができます。

治療法は、がんが食道の壁にどれだけ深く入り込んでいるか、その程度に応じて分かれます。

粘膜だけの病変であれば(0期)、ほとんどが内視鏡による粘膜切除術(EMR)で取れます。内視鏡で取り切れないような広い病変の場合は、手術をしたり、放射線を当てたりします。

もう少し深く、粘膜下の薄い筋肉の層(粘膜筋板と言います)に達するほどがんが進行すると、10~20パーセント程度の頻度でリンパ節転移が生じます。このような場合にはいったん内視鏡で治療を行い、取った組織の中のリンパ管や血管にがん組織が見つかれば、手術や放射線治療など、追加的な治療をします。

さらにがんが深く、粘膜下層にまで入り込むと、4割以上の人にリンパ節転移が起きています。その場合、原発巣(最初にがんができた部位)だけでなくリンパ節に対する治療も必要になりますので、手術が標準的な治療になりますが、それ以外に化学放射線療法も選択肢になります。また、手術も単独で行うのではなく術前化学療法と組み合わせて行うことで、より治療成績を上げることができます。

もっとがんが進むと、がんが気管や大動脈にくっついていて、手術ではなかなか取れない状態になります。この場合も、術前化学療法でがんを小さくして手術を行うという選択肢があります。また、化学放射線療法を単独で行うか、化学放射線療法を行った上で手術をすることもできます。

術前のほうが効果的

食道がんで術前化学療法を行う目的は、主に次の2点です。

まず、もともと手術できない高度に進行したがんを、抗がん剤治療によって、手術で取りきれる進行度まで戻すことです(これをダウンステージングといいます)。たとえば、周りの臓器に食い込んでいる4A期のがんでも、2~3期のがんの大きさに戻すことができます。

次に、手術で取りきれるがんの場合でも、CTに写っていない微小ながんが全身に広がっていることがあり、これらを叩くことによって、再発を防ぎます。

2点目の、再発を防ぐという目的なら、「術後化学療法」でもいいのではないか、という考え方も成り立ちます。

しかし最近、臨床試験の結果、「術前」のほうが効果的であることがわかりました。

JCOG(日本臨床腫瘍グループ)という組織が、食道がんの2期・3期の人(75歳以下で身体状態の比較的いい人)を無作為に約160人ずつ、A群(術後化学療法)とB群(術前化学療法)に分けて比較しました。使用した抗がん剤は、5-FU(一般名フルオロウラシル)とシスプラチン(商品名ブリプラチンなど)です。

ところが、「術前」のほうが「術後」よりも、5年生存率が約2割も高くなりました。その理由については、まだはっきりとしていませんが、今後、術前化学療法が標準的な治療になる可能性も出てきました。

[術前化学療法でがんが小さくなった症例]

化学療法前 化学療法前 化学療法前CT画像
  ↓ ↓
化学療法後 化学療法後 化学療法後CT画像
40歳代女性の食道がん患者。術前化学療法を行うことで腫瘍が著しく縮小し、治療前3期と診断されていたがんが(上)、1期のがんの大きさに戻すことができた(下)


微小なリンパ節転移を叩き再発を防ぐ

私たちが現在、力を入れているのは、リンパ節転移が多そうな人への術前化学療法です。

リンパ節転移のない人が手術をすれば、5年生存率は7割ぐらいです(表1)。転移の個数が増えれば増えるほど経過が悪くなり、8個以上の人は5年生存率が1割未満になってしまいます。食道がんはリンパ節にあっという間に広がりますから、術前に抗がん剤治療を行い、全身を治療したほうがいいのではないか、と考えています。

[表1 手術後の生存率(リンパ節転移個数別)]
表1 手術後の生存率(リンパ節転移個数別)

私たちの理論的根拠はこうです。

CTで見つかるリンパ節転移は、ある程度大きいものです。小さいものは、CTではとらえられません。手術では広い範囲でリンパ節を取りますが、いくらその部分をきれいに取り除いたとしても、その外側に微小なリンパ節転移がある場合は、そこから再発してきます。

術前の検査でリンパ節転移が3つも4つも見つかった人は、微小な転移も含めると、非常に多くのリンパ節転移があると考えられます。リンパ節転移が多くなればなるほど、再発の可能性も高くなります。

そこで私たちは、CTで1個でもリンパ節転移がわかった場合は、基本的に術前化学療法を行っています。うまく効けば、手術範囲の外側の微小なリンパ節転移がなくなるので、手術で治ると考えています(図2)。

[図2 リンパ節転移が多い食道がんに対する術前治療の考え方] 図2 リンパ節転移が多い食道がんに対する術前治療の考え方

日本の食道がんの標準的な抗がん剤治療では、5-FUとシスプラチンを用います。私たちは、それらにアドリアシン(一般名アドリアマイシン)を加えた3剤併用で行っています。2剤併用よりも、奏効率(腫瘍縮小効果)が高くなる印象があります。1週間投薬し、3週間休薬するのを1クールとして、2クール行います。

「術前」に行うメリットは2つあります。まず、術後の体力の落ちた状態では耐えきれない抗がん剤の副作用も、術前の元気な間は耐えやすく、最後まで抗がん剤治療が行えることです。また、その患者さんに効果のあった抗がん剤がわかるので、それを術後に使うこともできます。


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