進行非小細胞肺がんに対する維持療法
診療ガイドラインで推奨グレードがC1からBへアップ
維持療法で、質の高い生活を長く送ることも可能に
送れるようになった」と話す
久保田馨さん
進行した非小細胞肺がんの場合、がんの病勢が悪化するまでの期間は短く、2次治療を行おうとしても、体の状態が良くなかったりして、治療を始めることが難しいケースが多かった。しかし最近では、標準的な治療期間以降も引き続き負担の少ない化学療法を継続することによって、病状が悪化するまでの期間を延ばし、少しでも長く元気に毎日を過ごすことができる人も増えてきているという。
ガイドラインで維持療法が推奨に!
進行した肺がん(切除不能のⅢ期とⅣ期)の治療といえば、以前は、1次治療で症状の改善がみられ、腫瘍が縮小、安定した場合などには、その後は休薬して経過観察し、再び病勢が進行した場合に2次治療に入るという方法がとられていた(図1)。
しかし、その場合、経過観察をしている間にがんが悪化したり、2次治療に入る前に、体力的に衰えてしまい、治療の機会を逸してしまう患者も多かった。
そこで、体力があるうちに抗がん薬の力を引き出すために、昨今では、1次治療後に、経過観察期間を設けるよりも間を開けずに、引き続き効果のある薬剤を投与し、症状が安定している場合は治療を継続するという維持療法が実施されるようになってきた。
昨年(2013年)改定された『肺癌診療ガイドライン』の2013年版では、*アリムタの維持療法が、推奨度C1(科学的根拠は十分ではないが、行うことを考慮してもいい)から推奨度B(科学的根拠があり、行うように勧められる)へとグレードがアップされた(図2)。
この決定のエビデンス(科学的根拠)のもととなったのが、JMEN試験とPARAMOUNT(パラマウント)試験という2つの試験だ。
*アリムタ=一般名ペメトレキセド
アリムタが維持療法に有効
JMEN試験は、2009年にLancetに掲載されたもので、進行非小細胞肺がんに対するスイッチメンテナンスという投与法の有効性を示したものだ。
「スイッチメンテナンスとは、1次治療で4サイクルのプラチナ併用療法を行って、その後、維持療法では1次治療で使わなかったアリムタに切り替えて(スイッチ)維持療法を行うため、そう呼ばれていました。試験は1次治療でがんが進行しなかった患者さんをアリムタ+ BSC(ベスト・サポーティブ・ケア=症状を和らげる治療)群と、プラセボ(偽薬)+ BSC群に割り付けて、病勢が進行するまで治療を続けて推移を見たのです」
このように説明するのは、日本医科大学付属病院がん診療センター長の久保田馨さんだ。
結果は、無増悪生存期間(PFS、中央値)において、アリムタ群で4.3カ月、プラセボ群で2.6カ月、全生存期間(OS、中央値)でも、アリムタ群は13.4カ月、プラセボ群は10.6カ月といずれもアリムタ群のほうが有意に良好というものであった(図3)。
非扁平上皮がんに限っての比較では、さらに高い有効性が認められた。「そして、この試験のアリムタの有効性を踏まえて実施され、2011年のASCOでその結果が報告されたのが、PARAMOUNT試験です。全生存期間の結果は2012年に報告されました」(久保田さん)
維持療法におけるアリムタの有効性を確立
PARAMOUNT試験は、非扁平上皮がんの患者で、1次治療に*シスプラチン(一般名)とアリムタの併用療法を4サイクル実施した939例のうち、治療効果のあった539例を、ランダム(無作為)にアリムタ投与群(359例)とプラセボ投与群(180例)に割り付けて、維持療法を実施した。
その結果、無増悪生存期間(中央値)は、アリムタ投与群4.1カ月、プラセボ投与群2.8カ月と、アリムタ投与群が有意に良好となった。さらに全生存期間(中央値)においてもアリムタ投与群が13.9カ月、プラセボ投与群が11.0カ月という結果が出た(図4)。
この結果により、1次治療でシスプラチンとアリムタを併用し、有用な場合にはその後、維持療法でアリムタを単剤で使用するという治療の流れが確立された。
副作用も、疲労、貧血、好中球減少などが発現したものの、全般的には軽いもので、長期間投与しやすいことも、先述したように2013年の『肺癌診療ガイドライン』での改訂につながった。
「1次治療で使用したアリムタを、そのまま維持療法で使えることにより、病状が悪化した場合でも2次治療以降に使える薬の選択肢を残すことができるのです」維持療法で、1次治療の薬をそのまま使うことのメリットについて久保田さんはそう話す。
*シスプラチン=商品名ブリプラチン/ランダ
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