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下痢は早期から薬で対処することが大切
第2世代EGFR阻害薬の、肺がん治療中の副作用対策
加藤晃史さん
EGFR(上皮成長因子受容体)遺伝子変異陽性の非小細胞肺がんの治療には、イレッサ、タルセバに加え、第2世代のジオトリフも使われるようになった。ジオトリフの副作用には下痢、口腔粘膜炎(口内炎)、皮膚症状などがあげられる。そこで、副作用対策の情報提供を積極的に行っている専門医に、下痢対策を中心に伺った。
生存期間が最大4年のジオトリフ登場
細胞の表面にあるEGFR(上皮成長因子受容体)は細胞の増殖や分化に関わりがあり、一部の非小細胞肺がんはここに変異が起こることで引き起こされると考えられている。そこで、EGFRに変異のある患者さんを遺伝子検査によって特定し、EGFRが働かないようにブロックすることでがん細胞の増殖を抑えるのが、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬と呼ばれる分子標的薬だ。
その第1世代が*イレッサと*タルセバだが、第2世代の*ジオトリフが昨年(2014年)5月、日本でも発売された(表1)。イレッサやタルセバとの違いについて、神奈川県立循環器呼吸器病センター肺がん包括診療センター呼吸器内科・臨床研究室の加藤晃史さんは次のように語る。
「メカニズムにはまだ不明な点も多いですが、EGFRに変異をもつ患者さんのうちの約半分が、エクソン19という遺伝子の部位に欠損を持つことがわかっています。そして、エクソン19に欠損のある患者さんにジオトリフがよく効くことが、臨床試験で明らかになりました。とくに、日本人の患者さんには高い効果が見られ、イレッサやタルセバの全生存期間(OS)がおよそ2年、よく効いた例でも3年だったのが、ジオトリフではほぼ4年(46カ月)まで延びています。
また、イレッサやタルセバは一定期間服用すると耐性ができ、効かなくなりますが、ジオトリフは耐性ができにくいと見られています。簡単に言うと、EGFRに変異をもつ非小細胞肺がんの患者さん、とくにエクソン19に欠損のある日本人の患者さんに、ジオトリフはイレッサ、タルセバより有効に、かつ長く効く可能性があります」
*イレッサ=一般名ゲフィチニブ *タルセバ=一般名エルロチニブ *ジオトリフ=一般名アファチニブ
第1世代と共通の副作用は、皮膚障害や間質性肺炎
細胞中の特定の分子を標的にする分子標的薬は、通常の殺細胞性の抗がん薬に比べ、副作用が少ないことで知られる。とはいえ、EGFRは正常な細胞にもあるので、薬剤は正常細胞のEGFRにも働き、副作用も強めに出てしまうという。
では、ジオトリフの副作用にはどんなものがあるのだろうか(図2)。他のEGFRチロシンキナーゼ阻害薬と共通するのは皮膚症状、爪囲炎、間質性肺炎、倦怠感などだが、中でも間質性肺炎については少し解説が必要だ。
「イレッサやタルセバからわかってきたのは、日本人の患者さんにEGFRチロシンキナーゼ阻害薬を投与すると、全体の約5%に間質性肺炎が出て、全体の約1%が重症化してしまうことです。喫煙者や肺線維症をもつ方がハイリスク集団とわかっており、そうした方々への投与は控えられていますが、それでもこの数字をゼロにできません。
ですから、大切なのは早期に見つけ、対策をとること。重症化する方の多くは最初の1カ月に間質性肺炎を発症します。患者さんは初期症状である咳や息切れも単なる風邪と思いこまず、必ず病院に連絡してください。また、医療者は患者さんの治療歴に気をつけ、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬を服用していたら、患者さんが風邪と言ってもX線検査を行い、診断を確定することです」
最近の研究では、日本人の肺がん患者さんには1%程度、間質性肺炎を起こしやすい遺伝子をもつ人がいることが明らかになり、近い将来、事前の遺伝子検査でチェックできる可能性も出てきているとのこと。
ただし、「ハイリスク集団でも半分以上の方は間質性肺炎を起こしません。ですから、その方の治療歴などをよく検討し、リスクとベネフィット(利益)を比べて、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬服用について判断する必要があると思います」