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個々の患者さんに応じた「より大きな効果、より少ない副作用」の薬物療法を選ぶ案内役に
速報!肺がん新診療ガイドラインの変更ポイントはここ

監修:坪井正博 神奈川県立がんセンター呼吸器外科医長
取材・文:黒木要
発行:2010年12月
更新:2013年4月

  
坪井正博さん
神奈川県立がんセンター
呼吸器外科医長の
坪井正博さん

2010年10月、5年ぶりに『肺癌診療ガイドライン』の改訂が発表され、肺がん治療法の選択に影響を与える大きな変更がありました。
とくに、進行・再発の非小細胞肺がんについては、最近の研究成果を反映し、遺伝子変異の有無やがんのタイプによって抗がん剤を使い分ける薬物療法の考え方が新たに推奨されました。

インターネットで一般向けガイドラインも公開

ウェブ版一般向けガイドライン(マインズ)
ウェブ版一般向けガイドライン(マインズ)

がんの中で年間の罹患数が3番目、死亡数が1番目の肺がんは、いわゆる“難治がん”の1つです。その反面、個々のがんに合わせて最善の治療法を選ぶという個別化治療=オーダーメイド治療が部分的に行われ始めている領域でもあります。難治がんだからこそ、最初の治療をどうするかということは重要で、場合によっては「どれを選ぶか」という岐路に立たされます。

その際、良き案内役となるのは、専門医らが作成している日本肺癌学会編『肺癌診療ガイドライン』。2003年に第1版、2005年に第2版が出され、2010年10月に、4期非小細胞肺がんの初回治療と2次以降の治療に関するガイドラインが、日本肺癌学会のホームページに公開されました。他の病期の非小細胞肺がんや小細胞肺がんに関する情報も順次、ウェブ上に掲載される予定です。

「ガイドラインの特徴は、手術、放射線、抗がん剤などの治療法別、がんの病期別に、よく行われている検査法や治療法をABCDの4段階に推奨度を評価している点にあります。これは内外の学会で発表された論文などを集め、EBM(科学的・医学的根拠)の手法で評価したもの。これを見ながら、患者さんと医師が選ぶことの可能な治療法について話し合い、個々の患者さんにとって最善の治療方針を決める指針として利用することができます」

こう説明するのは、日本肺癌学会ガイドライン検討委員も務める神奈川県立がんセンター呼吸器外科医長の坪井正博さんです。

ここでいう診療ガイドラインの内容は基本的に医家向けなので、患者さんやご家族が参考書とするには難解なところも多々あります。そこで、マインズ)では、日本肺癌学会の協力のもと、ホームページで医家向けガイドラインとともに、一般向けガイドラインも公開しています。また、西日本がん研究機構では、ハンドブック『よくわかる肺がん』(書籍とウェブ版がある)を作成し、ガイドラインを読みくだいて解説しています。

日本肺癌学会
マインズ=日本医療機能評価機構が提供しているインターネット上の情報サービス
 マインズのHP
 西日本がん研究機構のHP

肺がんの分子標的薬が続々登場

[肺がんのさまざまなタイプ]
図:肺がんのさまざまなタイプ

前回のガイドライン改訂から今回の改訂まで5年が経ちました。改訂の理由について、坪井さんは次のように言います。

「第1は、国際的な病期分類法であるTNM分類の改訂を機に、病期やがんの性質によって複雑に分かれる治療法の選択を助ける治療アルゴリズム(樹形図やチャート図)を明らかにして、わかりやすいガイドラインを作ること。第2は、欧米で先行して承認されていた薬が、わが国でも次々と承認され、それを受けて治療法が変わってきており、実情に合わせる必要があること。とくに進行、あるいは再発した非小細胞肺がんの治療法についてはそれが言えます」

今回の改訂で、とくに大きく変わるのが、進行・再発した非小細胞がんの薬物療法。この5年間にわが国で肺がんの治療薬として承認された薬で注目を集めたのが、タルセバ(一般名エルロチニブ)、アバスチン(一般名ベバシズマブ)、アリムタ(一般名ペメトレキセド)です。

肺がんは、早期がんで見つかるものが3分の1強、進行がんで見つかるものが3分の2弱といわれています。肺がん全体の約85~90パーセントを占める非小細胞肺がんでは、進行、あるいは再発して根治を目指す手術が不可能となった場合、薬物療法がよく用いられます。

薬物による標準治療は、80年代からシスプラチン(一般名)などのプラチナ製剤による2剤併用療法(プラチナ併用療法)が主体で、90年代になると、ジェムザール(一般名ゲムシタビン)、タキソール(一般名パクリタキセル)など第3世代と呼ばれる抗がん剤が登場し、現在に至っています。

そんな中、がんの増殖に深く関わっている細胞の特定の分子に狙いを絞って、その働きを阻害する、いわゆる分子標的薬が相次いで開発され、その先駆けとしてイレッサ(一般名ゲフィチニブ)が2002年に承認されました。タルセバ、アバスチンはそれに続く薬です。

イレッサは遺伝子変異のある人に効く

ほかの治療薬が効かなくなった例も含め、イレッサが著効を示すケースは少なくないといいます。

「以前は東洋人、女性、非喫煙者、腺がんという因子を持つ人が効きやすい、とだけいわれていましたが、最近の研究結果から実際にイレッサの効果が期待できるのは、がんの中のEGFR(上皮細胞成長因子受容体)の遺伝子に変異(異常)がある人ということが明らかになりました」

効きやすいとされていた条件を持つ進行肺腺がんの人を対象に、抗がん剤の初回治療(1次治療)としてイレッサ投与群と、パラプラチン(一般名カルボプラチン)+タキソール投与群に分け、効果を比較した国際共同臨床試験(IPASS)があります。その解析によると、無増悪生存期間(がんが進行しなかった期間)は、遺伝子変異のあるグループでは、イレッサ投与群がパラプラチン+タキソール投与群を有意に上回り、遺伝子変異のないグループでは、イレッサ投与群がパラプラチン+タキソール投与群を大幅に下回ったのです。腫瘍の完全消失や部分消失を示す奏効率でも、遺伝子変異の有無によって大差がつきました。

さらに、日本で行われたEGFR遺伝子変異のある人だけを対象とした2つの比較試験では、いずれも無増悪生存期間に関して、イレッサ投与群がプラチナ併用療法群を上回る結果が出ました。

「これらの試験によって、イレッサの効果予測因子として、EGFR遺伝子変異が最も重要であることがわかったのです。これまでのがんの薬物療法の効果は、その多くがやってみなければわからなかったのですが、効果を予測して効きやすい人だけに薬物療法を行うようになると、効果の出る確率が上がることはもちろん、無駄に効かない薬の副作用を被ることもないですし、場合によっては医療費を大幅に減らすことができます」

[EGFR遺伝子変異によるゲフィチニブの効果]

  ゲフィチニブ パクリタキセル
+カルボプラチン
 
全症例
奏効率
全生存期間
無増悪生存期間
 
43.0%
18.6カ月
5.7カ月
 
32.2%
7.3カ月
5.8カ月
 
P<0.001
有意差なし
P<0.001
EGFR変異陽性例のみ
奏効率
無増悪生存期間
 
71.2%
9.5カ月
 
47.3%
6.3カ月
 
P<0.001
P<0.001
EGFR変異陰性例のみ
奏効率
無増悪生存期間
 
1.1%
1.5カ月
 
23.5%
5.5カ月
 
P<0.001
P<0.001
出典:Mok T他、N Engl J Med 361: 947-57, 2009

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