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肺がん治療の世界的権威に聞く
英国の肺がん治療を大きく変えた新薬の登場とその事情


発行:2010年5月
更新:2013年4月

  
ニコラス・サッチャーさん
英国マンチェスター大学、
国立クリスティー病院の
腫瘍学教授の
ニコラス・サッチャーさん

英国の肺がん治療の権威として知られるニコラス・サッチャー教授が来日したのを機に、肺がん、なかでも非常に割合の多い非小細胞肺がんの治療をめぐる最新事情について伺った。

 

ニコラス・サッチャー(Nicholas Thatcher)
英国マンチェスター大学、国立クリスティー病院の腫瘍学教授。王立内科医大学のメンバーで、王立内科医師会のフェロー。進行非小細胞肺がんの化学療法と新薬治療、小細胞肺がんの化学・放射線療法が専門で、非小細胞肺がんと小細胞肺がんの世界的権威

肺がんは難治がん
イギリスも同じ

――日本では肺がんは非常に治りにくいがんで、部位別の死亡数は第1位。まだまだ難治例も多いのが現状です。イギリスではどうでしょうか。

サッチャー 日本と同じです。イギリスでは、年間3万5000人が肺がんで亡くなっています。これは、15~20分に1人が肺がんで亡くなっていることになります。確かに難治がんですが、ここ数年、アリムタ(一般名ペメトレキセド)、イレッサ(一般名ゲフィチニブ)、タルセバ(一般名エルロチニブ)など、効果の高い治療薬が次々と登場してきています。

――肺がんの80~90パーセントを占める非小細胞肺がんの治療ですが、日本では病期の1期、2期、3期の一部が手術。手術不能な場合に化学療法や放射線治療が行われています。イギリスでは?

サッチャー イギリスもよく似ています。

――手術できる割合は?

サッチャー 5~6人に1人です。発見された時点で進行している人が多いのです。

――欧州では、米国に先駆けて、08年4月、非小細胞肺がんのうちの非扁平上皮がんに対し、アリムタを承認しました。これによって、化学療法のファーストラインはどう変わりましたか。

サッチャー それまではジェムザール(一般名ゲムシタビン)と白金製剤の併用ということで、「ジェムザール+カルボプラチン」または「ジェムザール+シスプラチン」という組み合わせが使われてきました。日本では「タキソール(一般名パクリタキセル)+カルボプラチン」がよく使われるようですが、欧州ではあまり使われていません。ジェムザールのほうが患者さんに対して優しく、投与しやすいからです。

――患者さんに優しいとは具体的にどういうことですか。

サッチャー 欧州では、患者のQOL(生活の質)に関する検討が行われていて、副作用でも投与の仕方でも、ジェムザールの併用療法のほうが、タキサン系やビノレルビンなどに比べてよいという結果が出ています。長時間の点滴が必要だったタキソールにくらべ、ジェムザールは短期間の点滴ですむからです。

[図1 アリムタの効果(全生存期間)]
図1 アリムタの効果(全生存期間)

腺がんと大細胞がんならアリムタ+白金製剤

――ジェムザールに代わり、アリムタが登場してきたことにはどんな思いが?

サッチャー 大変うれしく思っています。EUで承認されているのは「アリムタ+シスプラチン」なので、その組み合わせが多いのですが、非扁平上皮がんで生存期間を延長するという効果が得られています。ジェムザールと白金製剤の併用でも、それ以前の治療法より良い傾向があったのですが、アリムタはそのジェムザールを上回ったわけです。

――非小細胞肺がんの化学療法では、どのような基準で薬が選ばれているのですか。

サッチャー 今は、選択肢が非常に多くなっています。 実は、英国の90~95パーセントは、国の保険サービスに依存しています。この国の保険サービスの枠内で使用できる薬を認可するNICE(英国立医療技術評価機構)という機関が、昨年「肺腺がんか大細胞がんであれば、アリムタを保険薬として使える」と承認し、最も大きなベネフィットが得られると報告しました。したがって、腺がんか大細胞がんという診断がつけば、アリムタと白金製剤の併用、その他のがん種(扁平上皮がん)なら、ジェムザールと白金製剤の併用を選んでいます。

[図2 アリムタ群とゲムシタビン群のハザード比]
図2 アリムタ群とゲムシタビン群のハザード比
[図3 非扁平上皮がん患者におけるアリムタの効果(生存期間)]
図3 非扁平上皮がん患者におけるアリムタの効果(生存期間)

Scagliotti, G.V. et al. : J. Clin. Oncol 26(21)2008より

アリムタによる治療には正確な組織診断が必要

――分子標的薬が登場してきたことで、日本では、遺伝子レベル・組織型レベルで治療法を考える個別化治療の方向に進み始めています。イギリスでは、これはどのように広がっていますか。

サッチャー イギリスでも大きく進んでいます。イギリスの多くの医療センターでは、遺伝子変異の検査をルーティンで行うようになってきました。ただ、EGFR(上皮成長因子受容体)に変異がある患者さんの割合は、英国では10パーセント程度に過ぎませんが、日本ではずっと高いですね。それと、EGFRの変異を調べる検査は、方法によって正確さがかなり異なります。それを考えると、私は、診断にあたってより確実なのは、遺伝子変異よりも、がんの組織型を見ることだと思います。

――正しく診断するために、英国ではどのようなことが行われていますか。

サッチャー 英国では、どの病院でも正確な診断ができるように、病理検査の精度を保証する地方ごとのサービスがあります。しかし、がんの中には、組織型の判別が非常に困難なものもあります。10~15パーセントがそうです。


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