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非扁平上皮がんでペメトレキセドが生存期間を延長との結果を受けて
非小細胞肺がんのファーストラインが変わる!?

監修:坪井正博 神奈川県立がんセンター呼吸器外科医長
取材・文:「がんサポート」編集部
発行:2010年1月
更新:2013年4月

  
坪井正博さん
神奈川県立がんセンター
呼吸器外科医長の
坪井正博さん

非小細胞肺がんの薬物療法は、プラチナ製剤を含む2剤併用が標準的治療である。2009年5月に承認された肺がんに対する新しい薬は、抗がん剤の選択に関する従来の考え方に変化をもたらした。組織型別に治療を変えるという道が示されたのだ。


最近、肺がん、ことに非小細胞肺がんに対する薬物療法が大きく変革しつつある。イレッサ(一般名ゲフィチニブ)などの分子標的薬が登場したり、2009年5月に新しい抗がん剤、アリムタ(一般名ペメトレキセドナトリウム水和物)が承認されたりしたのがきっかけだ。

非小細胞肺がんに対するファーストラインの薬物療法は、2つの抗がん剤を組み合わせる2剤併用が標準的治療である。1剤はシスプラチンなどの白金系抗がん剤。もう1剤は90年代に登場した「新規抗がん剤」で、タキソール(一般名パクリタキセル)、タキソテール(一般名ドセタキセル)、ジェムザール(一般名ゲムシタビン)、ナベルビン(一般名ビノレルビン)などの薬剤。これらのどれを組み合わせても、副作用に違いがあるものの効果はあまり変わらないとされてきた。

[FACS臨床試験結果]

  患者数 生存期間
中央値
(月)
1年生存率
(%)
シスプラチン+
イリノテカンの
1年生存率との差
95%信頼区間
上限
下限
2年生存率
(%)
シスプラチン+
イリノテカン
145 13.9 59.2 26.5
シスプラチン+
ゲムシタビン
146 14.0 59.6 +0.4% -10.9
11.7
31.5
カルボプラチン+
パクリタキセル
145 12.3 51.0 -8.2% -19.6
3.3
25.5
シスプラチン+
ビノレルビン
145 11.4 48.3 -10.9% -22.3
0.5
21.4
日本で行われたこの臨床試験で、シスプラチン+ゲムシタビン併用療法が非小細胞肺がんのファーストラインとして確立した

アリムタとシスプラチン併用療法

ところが、2008年にアリムタに関する臨床試験結果が発表されて、薬の選択に関する従来の考え方に変化が出てきた。この結果は、欧州臨床腫瘍学会(ESMO)で発表された後に世界的権威のある医学誌「ジャーナル・オブ・クリニカル・オンコロジー」誌に掲載された。

1725人の非小細胞肺がん患者を対象に、アリムタとシスプラチンの併用群(アリムタ群、862人)とジェムザールとシスプラチンの併用群(ジェムザール群、863人)を比較した臨床試験である。

アリムタ群、ジェムザール群、それぞれ病状が進行しない限り6コース続ける、という方法だ。

差がないとされている2剤併用の中でも、ジェムザールとシスプラチンの併用は、わずかではあるが他の2剤併用に比べて効果が高いことが知られている。今回の試験はこの1番いい併用との比較である。その結果、生存期間中央値が両群とも10.3カ月で、変わらなかった。

[アリムタ+シスプラチン併用療法の効果(生存期間)]
図:アリムタ+シスプラチン併用療法の効果(生存期間)

1725人に上る非小細胞肺がん患者を対象に、アリムタ+シスプラチンとゲムシタビン+シスプラチンを比較した臨床試験で、両群で生存期間に差はなかった

組織型別に、より効果的な薬剤を選択

ところが、組織型(顕微鏡で見たがん細胞の形態)別に解析したところ、扁平上皮がんではジェムザール群のほうが生存期間が勝っていたものの、非扁平上皮がんの腺がん、大細胞がんではアリムタ群のほうが生存期間が勝っていたのだ。

[アリムタ+シスプラチン併用療法の効果(非扁平上皮がん患者のみの生存期間)]
図:アリムタ+シスプラチン併用療法の効果(非扁平上皮がん患者のみの生存期間)

上記の臨床試験を組織型別に解析したところ、アリムタを含む治療群のほうが非扁平上皮がん(腺がん、大細胞がん)患者の生存期間を延ばした

とくに、大細胞がんは放射線も抗がん剤も効きにくく、やっかいながんとされてきた。それに効く薬剤が出てきたということは、患者さんにとって大きな朗報である。と同時に、「組織型」の違いによって、より効果的な殺細胞性の抗がん剤を選択していくという個別化治療の可能性が出てきたことも大きい。ただ、医療現場でこの組織型の鑑別がきちんとできるかどうかは、懸念される問題ではある。

さらに、副作用の点でも、アリムタ群では吐き気、嘔吐、疲労などが多く認められたものの多くの患者さんには許容範囲で、他の副作用はジェムザール群に比べて少なかった。白血球減少、好中球減少、血小板減少、貧血といった血液毒性はジェムザール群のほぼ半分と少なく、脱毛もあまりなく、神経障害も問題にならないという結果だった。

アリムタの副作用が少ないのは、その機序は十分に明らかでないが葉酸とビタミンB12を投与するからと考えられる。この2つを1週間前から補充していけば副作用が軽減されるのだ。

[アリムタ+シスプラチンとゲムシタビン+シスプラチンで生じる主な副作用(グレード3・4)]

毒性 アリムタ+
シスプラチン
(N=839)
ゲムシタビン+
シスプラチン
(N=830)
P値
好中球減少 127 (15.1 %) 222 (26.7 %) <0.001
貧血 47(5.6 %) 82 (9.9 %) 0.001
血小板減少 34 (4.1%) 105 (12.7%) <0.001
白血球減少 40 (4.8 %) 63 (7.6 %) 0.019
発熱性好中球減少 11 (1.3%) 31 (3.7%) 0.002
脱毛(全グレード) 100 (11.9 %) 178 (21.4 %) <0.001
嘔気 60 (7.2 %) 32 (3.9 %) 0.004
嘔吐 51 (6.1%) 51 (6.1%) 1.000
疲労 56 (6.7 %) 41 (4.9 %) 0.143
脱水 (全グレード) 30 (3.6%) 17 (2.0%) 0.075
*治療群当たり3%以上の頻度で報告された毒性のみを記載
嘔気、嘔吐、疲労を除いて、アリムタ+シスプラチン併用療法のほうが強い副作用が少ない

非小細胞肺がんのファーストライン治療

これらの結果を受けて、2008年9月、米国NCCN(米国総合がんセンターネットワーク)の肺がん診療ガイドラインの中に、非小細胞肺がんのファーストライン治療としてこのアリムタとプラチナ製剤との併用療法が記された。

では、日本ではどうだろうか。アリムタが承認されてからまだ半年ばかりであるが、非扁平上皮がんにはアリムタとシスプラチンあるいはカルボプラチンの併用、扁平上皮がんには他の2剤併用を使い分けする認識が強くなっている。実際に、非扁平上皮がんの非小細胞肺がんに対してはアリムタをファーストラインで使う医療機関が増えているようだ。

ただし、手放しで喜んでいられない問題もある。最近登場している分子標的薬にも言えることだが、薬価が高いことだ。ただ、この場合、高額療養費制度や無利子貸付制度などを利用すれば個人の支出は少なくできることは知っておいて欲しい。それに加えて、前記のように、ジェムザール併用療法とは比較されたが、非扁平上皮がんで他の併用療法がアリムタ併用療法に劣るという明らかなデータはまだない。これらの点は今後検討されると思われるが、現時点では患者さんにとって有望な治療薬の選択肢が増えた点では大いに喜ばしい。

アリムタの今後についてはどうか。1つは維持療法としての使い方で、2009年に世界的権威のある医学誌「ランセット」誌で報告された。もう1つは、カルボプラチンや分子標的薬との併用で、現在世界中でさまざまな臨床試験が進んでおり、期待されている。

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