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第3世代抗がん剤から分子標的薬へ―進化を続ける化学療法
大きく変わる肺がんの化学療法を軸に、最新の治療法から副作用対策まで

対談:コーリー・J・ランガー フォックス・チェースがんセンター教授
坪井正博 東京医科大学病院講師
撮影:向井渉
発行:2007年3月
更新:2013年4月

  
コーリー・J・ランガーさん
フォックス・チェース
がんセンター教授の
コーリー・J・ランガーさん
坪井正博さん
東京医科大学病院講師の
坪井正博さん
 

最近、がんをめぐる抗がん剤治療は大きく変化してきている。新規の抗がん剤が次々に登場し、投与法にも工夫がされ、副作用対策も進んでいる。折しも米国を代表する腫瘍内科医であり、世界で最も影響力を持つ臨床試験グループの1つであるECOGの中心的存在であるフォックス・チェースがんセンター教授のコーリー・J・ランガーさんが来日したのを機に、日本を代表する肺がん治療の専門家である東京医科大学病院講師の坪井正博さんと抗がん剤についての最新の動きを対談していただいた。

ポピュラーになった抗がん剤治療

坪井 お久しぶりです。ランガー先生は学会での講演のために来日なさっているのですね。先生はフォックス・チェースがんセンターの腫瘍内科医であると同時に、世界で最も影響力を持つがんの米国臨床試験グループの1つであるECOG(Eastern Cooperative Oncology Group)の主要メンバーです。
そこで今日は、治療内容が大きく変化している非小細胞肺がんに対する化学療法のアメリカでの現状についてお話をお聞きしたいと思っています。その前にまず抗がん剤治療に対する患者さんの受け止め方がどう変わってきたか、ということから教えてください。

ランガー 坪井先生もよくご存知のように、抗がん剤治療はこの10~15年の間に大きな進歩を遂げています。タキソール(一般名パクリタキセル)やタキソテール(一般名ドセタキセル)のタキサン系抗がん剤、カンプト(一般名イリノテカン)、ジェムザール(一般名ゲムシタビン)など、90年代に入ってからそれまでの旧世代の薬剤とは比較にならないほど優れた効果を持つ治療薬が次々に登場しています。
また治療技術の進歩により、やっかいな副作用も以前に比べるとずっとうまく抑えられるようになっています。そんな中で、化学療法も当たり前の治療として患者さんたちに受け止められるようになっています。とはいえ、とくに年配の人たちの間では、抗がん剤に対する警戒心からか、化学療法を敬遠する傾向が残っているのも事実ですね。

坪井 それは日本でも同じですね。しかし、アメリカでは患者さんが自ら積極的に新たな治療に挑戦する傾向があるようにも思います。そうした傾向はたとえば臨床試験に参加する患者数にも表れているようにも思うのですが……。

臨床試験なくして医療の進歩なし

ランガー どうでしょうか。私が在籍しているがんセンターでは、患者さんの25~30パーセントが臨床試験に参加しています。このがんセンターはアカデミックな性格を持った施設ですから臨床試験への参加率も一般の病院に比べるとずっと高くなっています。全米で言えばせいぜい3~4パーセントといったレベルでしょう。
もちろん、このように参加率が低いのには、いくつかの理由があります。第1には臨床試験に関する説明文書が20ページもあることに象徴されるように、参加の手続きがあまりにも煩雑であること、それに一般の病院の場合は遠くから通院している患者さんも多いこともあげられます。臨床試験に参加すると頻繁に通院する必要がありますからね。そして第3の理由としては、臨床試験に参加するための条件の厳しさも見逃せません。
例えば患者さんの全身状態を表すパフォーマンス・ステータス(PS)でも、最も良好なPS1、2のレベルに該当する患者さんしか参加が認められませんからね。もちろん私としてはもっと多くの人たちに参加してもらいたいと思っていますが、現実問題としてはなかなか難しいところもあるのです。日本ではどうなのですか?

坪井 残念ながら日本ではアメリカほど臨床試験は一般化しておらず、参加者数についてのデータもありません。私個人の実感としては、臨床試験への参加率は1パーセント未満ではないでしょうか。患者さんの中には、臨床試験への参加を実験台にされるというイメージで捉える人もまだ少なくはありません。肺がんはがんの中でも治療が難しく、しかも治療内容がどんどん進歩を遂げています。私もランガー先生と同じようにもっと多くの患者さんに、積極的に臨床試験に参加してもらいたいと願っています。

ランガー そうですね。これはアメリカにも日本にも共通する課題でしょうが、医師は患者さんに対して臨床試験なくして医療の進歩はないということを、もっと根気よく説明して、理解してもらう必要があるでしょうね。

主流はパラプラチン

写真

日米の医療体制について活発な意見交換をするランガーさんと坪井さん

坪井 さて、本論の進行性の非小細胞肺がんの化学療法についてですが、ランガー先生のところでは具体的にどんな抗がん剤を用いておられますか。

ランガー 現在、もっともポピュラーな規準薬と位置づけられているのが、パラプラチン(一般名カルボプラチン)で、患者さんの80~90パーセントがこの薬剤を用いています。もっともほとんどの場合は2剤併用による治療です。
具体的には患者さんの30~40パーセントがパラプラチンとタキソールを、25~35パーセントがパラプラチンとタキソテールを、そして25~30パーセントがパラプラチンとジェムザールの2剤併用による治療を受けています。

坪井 効果はどのようなものですか。

ランガー かつて新規抗がん剤(第3世代)がなかった時代には、進行肺がんの患者さんの1年生存率は15パーセント程度のものでした。それが新規抗がん剤とパラプラチンなどプラチナ製剤との併用療法を用いるようになってからは、その数値が約2倍近くに向上しています。

坪井 なるほど。日本でもパラプラチンはポピュラーな治療薬として用いられています。私のところでは同様のケースで40パーセント程度の患者さんがパラプラチンとタキソールの組み合わせによる2剤併用療法を、さらに10パーセントの患者さんがやはりパラプラチンとジェムザールによる2剤併用療法を受けています。もっとも日本では同じプラチナ系の抗がん剤でも、シスプラチン(商品名ブリプラチンなど)を機軸とした治療も行われています。アメリカではシスプラチンの評価はどのようなものなのですか。

副作用のリスクが大きいシスプラチン

ランガー シスプラチンも非常に高い効果が期待できる治療薬です。肺がんでは高齢の患者さんが多く、とくに聴覚障害の問題が切実です。そのために術後、予後の良好な患者さんを対象に再発予防の目的で用いられることが少なくありません。さらに吐き気、骨髄抑制など副作用のリスクが大きい難点もありますね。
また、シスプラチンは副作用として腎機能障害をもたらす危険もありますが、パラプラチンにはその危険がほとんどありません。パラプラチンは副作用がずっと軽く、リスクをうまくコントロールしながら治療を進められる利点があるのです。

坪井 そうですね。たしかにパラプラチンを利用する場合は副作用のリスクがずっと軽減されるメリットがありますね。腎機能障害もないわけではありませんが、障害の程度が予測できるので、投与量を減らして副作用をコントロールできるメリットがあります。
その点、シスプラチンは、身体機能が低下していない患者さんに、利用範囲が限られますね。そのことを考えるとこれからは実際、日本においても広くパラプラチンが使用されているのには、同様の背景があると思われます。


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