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患者が選ぶ肺がん抗がん剤治療
治療優先の考えから、自分の価値観やライフスタイルに合わせた治療を

監修:坪井正博 東京医科大学病院第1外科助手
発行:2005年5月
更新:2013年4月

  
坪井正博さん
抗がん剤治療に詳しい
東京医科大学病院の
坪井正博さん

肺がんの治療には、手術や放射線などいろいろありますが、そのなかで最近大きな変化があり話題を呼んでいるのが、抗がん剤による治療です。

そして最新の治療スタイルは、患者さんが自分の価値観やライフスタイルに合わせて自ら選ぶというものです。

抗がん剤治療の新しい流れ

写真:ASCO会場

毎年ここでの発表が注目される米国臨床腫瘍学会

肺がんの大半を占める非小細胞肺がんは、かつて抗がん剤がほとんど効かないとされていました。しかし最近は、新しい有力な抗がん剤が開発され、徐々にその効果が現れてきています。抗がん剤治療は、現在、病期が1b期から4期までの肺がんのほとんどの人が対象になります。1b期とはがんの大きさが3センチ以上あり、リンパ節転移や他の臓器へ転移していない場合で、4期は原発巣の肺葉以外の肺も含め、他の臓器に遠隔転移している場合です。

抗がん剤による治療には大きく分けて2種類あります。手術後に補助療法として行う治療と、手術のできない進行がんに行う治療の2つです。手術後に行う治療は、再発を防止して治癒を目指します。進行がんに行う治療は、主に延命や症状の緩和を目的とします。

非小細胞肺がんでは、従来、手術をして完全にがんをとりきれた後に補助療法をしても再発予防効果が得られないとして、術後の抗がん剤治療は一般的には行われていませんでした。しかし、一昨年来、世界で最大規模のがん関連学会である米国臨床腫瘍学会(ASCO)において、抗がん剤による手術後の補助療法が有効であるとの発表が行われました。従来の定説を覆し、治療法に大きな転換を促す出来事でした。それを機に、日本でも手術後に補助療法として抗がん剤による治療を行う医師や医療機関が増えています。

ただ現在でも、肺がんの7割は手術のできない進行がんの状態で発見されます。その意味からも、抗がん剤治療が肺がん治療の大きな鍵を握っていることがうかがえるでしょう。

X線写真
抗がん剤治療でがんが縮小した例。59歳の男性、肺腺がん。左が治療前、右が治療後1カ月後のX線写真

その抗がん剤治療において、最近新しい流れが起こっています。それは、患者さんが自ら選ぶという新たな治療スタイルです。これまでも、医師任せにせず、患者さんが医師から十分な説明を聞いたうえで治療法を選択するという手はありました。ただ、その場合の選択も、手術にするか、放射線にするか、抗がん剤にするかといったような大まかな治療法の選択が一般的でした。しかし、今起こっているのは、さらにもう一歩踏み込んで治療の中身、たとえば抗がん剤の種類や組み合わせまで医師から提示され、それらのメリットとデメリットをはかりにかけて、患者さんが自分の価値観、ライフスタイルに合わせて治療法を選ぶというものです。そしてこのシステムを医療の現場にいち早く取り入れて診療しているのが、東京医科大学病院第1外科のグループです。その中心になっている第1外科助手の坪井正博さんはこう言います。

手術後の補助療法と進行がんで異なる治療の選び方

写真:ジェムザール+パラプラチン(上)、タキソール+パラプラチン(下)

患者さんに人気の高い抗がん剤の組み合わせ、ジェムザール+パラプラチン(上)、タキソール+パラプラチン(下)

「進行がんの場合は病状が厳しいことから、患者さんが選ぶというよりも、まだ、医師が最も慣れていて安全で効果が高い治療として選んだ方法で、最善の治療を受けたいという傾向が強いようです。しかし、補助療法の場合は治療を継続する時間が長いこともあり、患者さんが自分の価値観やライフスタイルに合わせて選ばれる方が多いです」

東京医大病院で行われている「患者さんが選ぶ抗がん剤治療」では、臨床試験で効果があると証明された抗がん剤やそれらの組み合わせの中から医師が複数を選んで患者さんに提示し、それを患者さんが自ら選択する形になっています。

補助療法で効果ありと実証されたものには、UFT(一般名テガフール・ウラシル)単剤やタキソール(一般名パクリタキセル)とパラプラチン(一般名カルボプラチン)の2剤併用、ナベルビン(一般名ビノレルビン)とランダ(もしくはブリプラチン、一般名シスプラチン)の2剤併用などがあります。

たとえばUFTの場合、1期の非小細胞肺がん(腺がんのみ)の患者さん約1000人を、2年間服用する群としない群に分けて比較する臨床試験を行ったところ、UFTを服用した1b期の患者さんでは、服用しなかった人に比べて5年生存率が11パーセント改善され、死亡するリスクが5割も減少するという信頼性の高い臨床研究があります。

もう1つ、1b期の手術を終えた非小細胞肺がんの患者さん約340人を対象に、タキソールとパラプラチンの併用療法をした群と、治療をしないで経過観察だけで終わった群とを比較したところ、併用療法をしたほうがしない場合より4年生存率で12パーセント高く、死亡するリスクも約40パーセント低くなったという米国の大規模な臨床研究もあります。

患者さんには、以上のような抗がん剤に加え、ジェムザール(一般名ゲムシタビン)とパラプラチンの2剤併用も含めて複数の選択肢が示され、それらのメリット、デメリットが説明されます。ジェムザールとパラプラチンの組み合わせが加えられる理由は、後で説明しますが、進行がんにおいてそれらの抗がん剤と同等の効果があると実証されているからです。

そして患者さんは、抗がん剤の効果をはじめ、副作用、投与の形態、投与時間、治療費など、さまざまな観点からメリット、デメリットを考え、自分の価値観、ライフスタイルに合わせて、自分に適した抗がん剤(組み合わせ)を選ぶのです。


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