dose-denseTC療法も再脚光を ICI併用療法やADC新薬に期待の卵巣がん
今年(2023年)6月の米国臨床腫瘍学会(ASCO)で、卵巣がんでは2つの大きな話題がありました。1つは免疫チェックポイント阻害薬(ICI)併用療法に臨床試験で初めて良好な結果が出て、将来の保険適用が視野に入ってきたこと。そして、卵巣がん初の抗体薬物複合体(ADC)がプラチナ抵抗性に結果を出したことです。
これらの新しい動きとともに、日本人の初回治療で効果が高いことがわかっている既存の治療法について、東京慈恵会医科大学産婦人科講座主任教授の岡本愛光さんに話を聞きました。
卵巣がんの標準治療は何ですか?
卵巣がん治療は、病期(ステージ)に関わらず、「手術で目に見える腫瘍をすべて取り除く」ことが重要です。卵巣がんはⅢ期・Ⅳ期でも、たとえ他臓器転移が認められても、腫瘍をできる限り減量することが予後改善に寄与するというデータがあるからです。
つまり、卵巣がん治療の基本は「手術+薬物療法」。
薬物療法の初回治療はタキソール(一般名パクリタキセル)+カルボプラチンのTC療法が標準治療です。投与スケジュールは3週間ごとに3~6サイクルを点滴注射で行います(図1)。
2013年には、卵巣がんに血管新生阻害薬アバスチン(一般名ベバシズマブ)が承認され、TC療法にアバスチンを追加できるようになりました。さらに2020年末、*HRD陽性に対する初回治療の維持療法として、PARP阻害薬リムパーザ(一般名オラパリブ)が承認されました。
加えて2021年、PAOLA-1試験によって、HRD陽性に対する初回治療TC療法+アバスチンの維持療法として、リムパーザ+アバスチンが承認されたのです。HRD陰性の場合は、維持療法はアバスチンのみ、もしくはHRD有無を問わないPARP阻害薬ゼジューラ(一般名ニラパリブ)を使うこともできます。
*HRD陽性:本来2つあるDNA修復機構の1つが作用していない状態を指す。大きくは遺伝子の不安定性を見ており、卵巣がんでは約50%にHRD陽性が認められる
日本人で効果の高いdose-denseTC療法を知っていますか?
「実は日本には、日本人だけで行った『JGOG3016』という非常に有名な臨床試験(2015年)があり、TC療法の投与スケジュールを変更したdose-dense(ドーズ・デンス)TC療法がTC療法の有効性を明らかに上回りました。それは、TC療法+アバスチンに匹敵するほどの効果を示すデータだったのです」と東京慈恵会医科大学産婦人科学講座主任教授の岡本愛光さんは指摘します。
dose-denseTC療法は、タキソール、カルボプラチンを3週間ごとに3~6サイクル行うTC療法の変形型。カルボプラチンの投与法は同じですが、タキソールは1回の投与量を減らして(180mg/㎡→80㎎/㎡)、投与回数を増やし(3週間ごと→毎週)、総投与量を増やします(図2)。
維持療法はゼジューラ。もしくは、HRD陽性とわかっている場合は、リムパーザも使用できます。
「卵巣がん薬物療法の標準治療はTC療法ですから、dose-denseTC療法も、もちろん標準治療。しかも、日本人のみのデータで明らかにTC療法を上回ったのですから、本来、日本ではdose-denseTC療法こそが標準治療になるべきだと私は思っています」と話し、岡本さんは続けました。
「JGOG3016試験の結果は、世界的に評価の高い医学誌『The Lancet(ランセット)』に掲載され話題になったのですが、日本国内で十分に知れ渡るに至りませんでした。当時、タキソールを販売していた製薬会社の特許が切れるというタイミングだったことが災いし、dose-denseTC療法の宣伝がほとんどなされなかったという背景があったのです。結果的に、JGOG3016試験に参加した施設が中心となって、今もdose-denseTC療法を行っているという状況です」
「第Ⅲ相DUO-O試験」はどのような試験ですか?
今年(2023年)6月のASCOで、第Ⅲ相DUO-O試験の中間解析が発表され、TC療法+アバスチンに免疫チェックポイント阻害薬(ICI)イミフィンジ(一般名デュルバルマブ)とPARP阻害薬リムパーザを投与する併用療法の有効性が示されました。
これまで卵巣がんでも多くのICI単独試験が試みられてきましたが、すべて有効性が示されない結果に終わっていました。それを受けて現在は、世界中でさまざまな併用療法の試験が行われています。単独療法と併用療法は何が違うのでしょうか。
「免疫チェックポイント阻害薬とPARP阻害薬と血管新生阻害薬、この3剤が合わさることで相乗効果が生まれるのではないかと薬理学的には推察され、研究が続けられています。例えば、PARP阻害薬によって抗原性が増して免疫的に認識されやすくなり、免疫チェックポイント阻害薬の効果が上がるといったメカニズムがあるのではないかと考えられています」
第Ⅲ相DUO-O試験について詳しく見ていきましょう。
BRCA遺伝子変異のない進行性高異型度上皮性卵巣がん患者を対象とし、比較対象は3つの群に分けられました。
●1群:TC療法+アバスチン+プラセボによる初回導入療法➡️アバスチン+プラセボによる維持療法
●2群:TC療法+アバスチン+イミフィンジ➡️アバスチン+イミフィンジ+プラセボ
●3群:TC療法+アバスチン+イミフィンジ➡️アバスチン+イミフィンジ+リムパーザ
評価の主体は1群vs.3群とされ、「イミフィンジ+リムパーザ併用療法」の有無による違いを比較することを目的としました。
全体集団の無増悪生存期間(PFS)中央値は、1群:19.3カ月、2群:20.6カ月、3群:24.2カ月(図3)。
HRD陽性におけるPFS中央値は、1群:23.0カ月、2群:24.4カ月、3群:37.3カ月。さらにHRD陰性におけるPFS中央値は、1群:17.4カ月、2:15.4カ月、3群:20.9カ月(図3-2)。
2群と3群の比較では明確な有意差は認められなかったものの、1群と3群では、明らかに3群に軍配が上がりました。
「現状、第Ⅲ相試験の中間解析ですし、全生存期間(OS)はまだデータも出ていないので、実臨床にイミフィンジ+リムパーザが登場するのは数年先になるでしょう。とはいえ、初めて併用療法で結果が示されたことは今後の卵巣がん薬物療法の展望に繋がると思います」と岡本さんは語ります。
と同時に、「投与する薬剤数が増えれば、有害事象が大きくなることも忘れてはなりません」と指摘。
TC療法+アバスチンにイミフィンジ+リムパーザ併用療法を加えた3群では、有害事象によって薬剤のどれかを中断せざるを得なくなったケースが35%ありました。TC療法+アバスチンの1群が20%だったことを考えると、やはり多剤併用療法による有害事象は注視すべきでしょう。
「とくに卵巣がんは、体力を消耗する手術を受けてからの薬物療法です。体への負担は重視すべきです」と岡本さんは強調します。
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