術後の尿失禁対策 患者さん自身でできる対処法もある
尿失禁になってもあわてずに 体操や手術であきらめない
と語る木村 剛さん
手術後はだれでも程度の違いはあれ尿失禁を起こすが、ほとんどのケースは時間とともに改善する。しかし、数カ月経っても回復せず長く続くケースもある。尿失禁を改善するために自分でできる体操と、最新の手術法を聞いた。
外尿道括約筋の損傷で発生
前立腺がんの摘出手術の後に、尿失禁に悩まされる人がいる。
手術直後は膀胱尿道吻合部を安静に保つために、尿道から膀胱にカテーテルを入れて尿を出す。カテーテルは1週間以内に外され、自力排尿に切り替えられるが、この段階でほとんどの方が尿失禁を経験する。数日で失禁がなくなる人もいるが、数カ月続く方もいる。多くの場合は徐々に回復するが、3~5%の方では、1年経ってもおむつが必要なほどの失禁症状が残るという。
前立腺がんの治療に詳しい日本医科大学の木村剛さんは、継続的な尿失禁が起こる主要な原因を次のように説明する。「前立腺を摘出することにより、外尿道括約筋という、自分の意志で尿を我慢する筋肉が損傷してしまうこと。そして、膀胱・尿道の解剖学的な位置関係が変わってしまうということから生じます。」
膀胱や尿道は、平滑筋と呼ばれる筋肉でできている。平滑筋は自分の意志では動かすことはできない。これに対し、自分の意志通りに動かすことができる筋肉を横紋筋と呼ぶが、この横紋筋からできているのが、外尿道括約筋だ。外尿道括約筋は前立腺のすぐ下で尿道を輪状に囲んでおり、自分の意志で収縮させることで尿の我慢を可能にしている。
ここを損傷してしまった場合、尿を我慢することができず、尿が出ていることは自覚できるが、それを止められなくなってしまうのだ。
では、「解剖学的な位置関係の変化」とは何だろう。
「クルミほどの大きさの前立腺を摘出することによって、膀胱と尿道の角度が変わってしまいます。実は、膀胱と尿道の角度も、尿を我慢するという働きに対し、重要な役割があります」
また、前立腺肥大症などで排尿障害があった患者さんの場合は、前立腺摘出によりその抵抗がなくなることで、膀胱に溜まった尿の圧力に括約筋が耐えられなくなるケースもあるという。
進歩する技術で 発生頻度は減少
木村さんは、尿失禁の発生頻度は減少していると指摘する。
「以前に比べると、手術の技術が向上し、小骨盤内の支持装置等の解剖学的なことへの理解も深まった。手術の改良は年々なされています」とした上で、具体的な技術の進歩について説明した。
「まず、外尿道括約筋を愛護的に扱います。括約筋部やその周囲では、括約筋の熱傷を防ぐため、電気メスを使わずにコールドメス(通常のメス)を用います。そして、前立腺周囲の解剖学的構造(筋肉、筋膜や靱帯など)を温存すること、すなわち、それらに触らないようにして、元の状態をできるだけ残すということが肝要です」
開腹手術、腹腔鏡下手術、ロボット手術というような手術の種類があるが、尿失禁が発症する率は、熟練した術者が手術を行えば、いずれも大きく変わらないという。
「さらに、医師の間で尿失禁等の合併症を少なくしようとする意識が高まっています。技術の進歩に加え、執刀医の意識面の変化も大きいと思われます」
自分でできる 骨盤底筋体操
図3 骨盤底筋体操はいつでも、どこでもできる!
技術面や意識面の進歩があっても、数%の患者さんには、尿失禁という後遺症が残ってしまう。尿失禁への対策を見ていこう。
「自分でできることとして、骨盤底筋体操があります」
尿を我慢するための筋肉を鍛えようというものだ。
「肛門を締める運動です。外尿道括約筋と肛門括約筋は「8の字」で繋がっているため、肛門の筋肉を鍛えることが外尿道括約筋の強化に直結するのです」
「排尿を我慢する筋肉は横紋筋なので、鍛えれば肥大します。例えるならば、ボディビルディングです。何もしなければ筋肉は付きませんが、努力をすれば筋肉が付くのです」
木村さんは、早い段階からの取り組みを勧める。
「手術前からやるのが一番です。そうでなければ、手術後にカテーテルが入っている段階から、無理のない範囲で始めるとよいでしょう」
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